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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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八十一章 リーン族長区連邦

八十一章 リーン族長区連邦


 ジャクリーヌ達の馬車は街道から外れて、西に向かう脇道に入った。脇道は次第に登りになり、山の峠道に入っていった。

 ヴィオレッタが御者台のジャクリーヌに尋ねた。

「山越えをするんですか?」

「山越えはしないよ。山肌に沿ってぐるっと回る感じだねぇ。あのまま街道を行くとラクスマン王国の検問所があるんだ。敵対している私達は通れない。…この道はリーンの者だけが知っている抜け道だ。ここを抜けたらベルデン族長区だよ。」

 峠道はだんだんと狭くなって、馬車がやっと通れる程の幅しかなかった。脱輪しないように、ホイットニーが馬を牽くグラントにこまめに指示をしていた。

 途中で二人のセコイア教の僧侶と出会った。グラントは地に伏して拝礼し、ジャクリーヌは彼らの黒い鉢に銅貨を十数枚入れて軽くお辞儀をした。彼らは一度馬車に乗り込み、荷台を通ってすれ違って行った。

 一日かけて峠を越えると、眼下には広大な草原が広がっていた。遥か彼方にうっすらと山脈が見える…あれが魔族領だ。

 道は下りになって、道幅も広くなった。地面も固い灰色の岩盤から、柔らかい褐色の肥沃な土壌に変わっていった。

 丸太で作った騎馬返しのバリケードが見えてきた。斧や槍を持った数人の上半身裸に皮の心臓当てをつけた男達がジャクリーヌ達の馬車を止めた。

「お前達、何の用だ⁉︎」

「同盟国領から、久しぶりに戻って来たんだよ。」

 馬車の後ろからヴィオレッタとハックがやっと追いついてきた。ハックの胸元のセコイアの葉を見つけると男達は深くお辞儀をした。

「ああ…お坊様…。失礼しました、どうぞお通りください。」

 お坊さん、凄い…顔パスだ。それだけ、この国ではセコイア教は力を持っているのか、それともみんなから愛されているのか…。

「ふんっ…耳を見せるまでもなかったか…」

 ジャクリーヌは負け惜しみを言って、バンダナを取ってみせた。

「ハーフエルフか…行っていいぞ。」

 ジャクリーヌの馬車はバリケードを抜けて、ベルデン族長区に入った。

「こっからベルデン…私達三人の故郷だ。ヴィオレッタ、ここでお別れだね。楽しかったよ、また会いましょう。」

「ジャクリーヌさん、ホイットニーさん、グラントさん…ありがとうございました。」

 ジャクリーンとホイットニーはオッカサンを連れて、馬車で草原の中に消えていった。ああ…あのヤギはグラントのヤギじゃなかったんだ…。

「俺もリーンまで行くよ。故郷に戻ったから、リーンの御神木に旅の無事の報告と感謝を捧げないといけないから…。」

 グラントとハックはリーン族長区にあるセコイア教の本部に行くらしい。三人は徒歩で草原の中を進んだ。

 広い緑の草原にいくつもの白いゲルが点在して美しいコントラストを映していた。その景色の遥か遠くを馬の群れが移動していく。また、無数の白い点が移動していくのも見える…あれはヤギの群れだろうか。ベルデンは放牧の国である。

 人を乗せた五頭の騎馬が近づいてきた。中のひとりは女で、みな槍を持って軽装の革装備をしていた。

「お坊様、どこまで行くんだい?リーンかい?」

「その通りです。」

 この騎馬達は辺りを巡回しているベルデンの兵士だった。リーダーらしき男が指で合図をすると、手を差し伸べてハックとグラントを馬の背に引き上げて二人乗りをした。

「お嬢ちゃんはこっちにおいで。」

「は…はい。」

 女の兵士がヴィオレッタに手を伸ばした。ヴィオレッタがその手を取って、馬の背中…同じ鞍の前に乗ると、その拍子にフードからエルフの耳がちらりと見えた。

「…あなた、純血のエルフ⁉︎」

「…みたいです。」

「おお…まだいたんだ…。」

 他の四人の兵士も馬を操りながらヴィオレッタを驚いた顔で見ていた。

 騎馬達は三時間をかけて草原を抜け、丘陵地帯を抜け、山脈の麓の山岳地帯に到着した。

「ここからリーンだ。」

「ありがとうございました。」

 ハック達は兵士達にお礼を言って馬を降りた。

 景色は、見渡す限りの緑の草原から…正面に青い山脈がそびえ立って見る人の視界を遮っていた。少ない平坦地にも至る所に高い樹木が生えていて、強い日差しの中でもあちこちに木陰を作って涼しく見えた。

 ヴィオレッタは歩いていて何となく安心感を覚えた。それがエルフの性なのか、殺伐とした人間の街で生まれ育ち、人いきれに嫌気がさしていたのか…。

「あ…道がありましたよ。」

「そろそろ村が見えてきますよ。」

 しばらく歩くとハックが言った通り、丘陵地の高低差のある段々に積み木のように乗っかっている幾つもの木造家屋が見えてきた。家屋はみなとんがり屋根の円筒形をしていて、それぞれが小さかった。

 第一村人と遭遇した。黒髪の女で、とんがり耳の頭の上に野菜がいっぱいの籠を載せていた。黒髪ということはハーフエルフだ。

「お坊さん、こんにちわ。」

 そう言って、頭の上のダイコン一本をお布施代わりにハックに渡した。

「はい、こんにちわ…どうもありがとうございます。」

 ハーフエルフの女はヴィオレッタとその耳を見て…不思議そうに言った。

「銀色の直毛、白い肌そして印象的な大きな目…。レヴリウシアさんにそっくりだねぇ…。あなた、もしかして…純血?」

 ヴィオレッタはハーフエルフの女の言葉を聞いて思った。レヴリウシア…どんな人だろう…私と血の繋がりがある?

 三人が村の中に入ると、円筒形家屋が密集していてハーフエルフの子供達が木綿糸を巻いて作った鞠を蹴って遊んでいた。四人のお婆さんが木製のベンチに座って日向ぼっこをしながら刺繍をしていた…この人たちは耳が丸い、人間だ。

「この時間は大人はほとんど畑か放牧地ですねぇ。あのお婆さん達は他の自治区から嫁いで来た女性ですよ。もちろん、リーンから他の自治区に嫁いで行ったハーフエルフの女もたくさんいますよ…」

 エルフまたはハーフエルフの男に人間の女が嫁ぐと、七十年後、旦那はまだまだ現役で働き盛りなのだが…奥さんはもう斜陽の中の人となる。

 そういった事を覚悟の上で…リーン族長区連邦のエルフは、純血種としての滅亡よりも混血種としての繁栄を選んだのだとハックは言う。

「生き物は産み増えるのが自然の摂理…私はそう思いますね…。」

 ハックは何やら含むように…そう言った。

 三人はどんどん山の麓を登っていって、一本の小道を辿って深い森の中に分け入っていった。

「あっ…ハックさん、あの木…!」

「あれが御神木ですよ。」

 深い森にあっても一本だけ…突き抜けるように高く大きいセコイアの木が見えてきた。その巨木は明らかに他の樹々を圧倒していた。

「ふぃ〜〜っ…やっと帰って来た!」

 グラントは一年ぶりだそうだ。

 三人は御神木のセコイア目指してどんどんと歩を進めるが、なかなか到着しなかった。一度御神木は鬱蒼とした樹々の枝に隠れて、そして…何本かの大木のそばを過ぎると、その木陰から突然その姿を現した。

「わ…大きい…」

 そこは直径30mぐらいの平坦な広場で、地上と樹上のあちらこちらに大小の円形型家屋がアシンメトリに配置され…その中央に約直径15mのセコイアの木が天を突くようにそびえ立っていた。


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