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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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八十章 ダントン

 この物語も「八十章」をむかえました。

 読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。毎日毎日、「アクセス解析」を見るのが楽しみです。

 「ユニーク」も1300人を超えました。大物の先生方に比べればまだまだですが、それなりに満足しております。

 特に、「アクセス解析」で一章を読んでくださっている方を見つけると、「ああ、全部読んでくれるんだなぁ。」と思ってとても嬉しいです。

 さて、とうとう私が書き溜めていたストックが底を尽きました。「一日一章」と自分に課していたノルマだったのですが…危うくなってまいりました。

 私のスタイルはまず書きたいことを忘れないうちに書いて、それからもう一度読んで二、三回は推敲していきます。そこで文章を印象的にしたり、伏線を追加したり、無駄な部分を削除したり、時には前の記述との食い違いを確認したり…けっこう時間をかけているつもりです。

 もしかしたら、隔日連載になるかも…。それでもよろしければ…今後もお付き合いください。よろしくお願いします。

 ああ…「挿絵」のほうが完全に止まってるなぁ…><


八十章 ダントン


 ダントンは困っていた。

 ヴィオレッタが読みたがっていた発禁本の「神の祝福」…この度修復士が筆写を終えて、ダントンの筆写士事務所に持ち込んできた。

 ダントンはその本を誰にも見せずに、すぐに床下の秘密の隠し書庫に入れた。なぜなら、憲兵の捜索の手がオリヴィアのみならずヴィオレッタにも及んでいたからだ。ヴィオレッタが足繁くこの事務所を訪問しているところを見た者がいるらしくて、毎日のように憲兵がやってきて、「今日は来たか?」と尋ねる。

 ダントンはいつもこう返した。

「ヴィオレッタさんは単なるお客さんです。…蔵書家でして、珍しい本を収集していたんですよ。それで時々やってきて、うちの本棚のサンプルを丹念に調べておりました。欲しがっていた本がありましたが、発禁本だったので諦めて帰りましたよ。オリヴィア?…ああ、一度だけ金髪の女性を連れて参りましたが…それが伯爵邸襲撃事件の犯人?そうだったんですか…知りませんでした。襲撃と筆写士の私どもと…何か関係があるかですって?こっちが知りたいですよ…」

 嘘は言っていない…隠していることはあるけれども…。ダントンは慎重な男だったので、下手な嘘は自分の首を絞める事をよく知っていた。密告者は多分、事務所の筆写士の誰かだろうから…。

 あれほど執着し、金貨二十五枚という大枚を支払って頼んだ本の修復が…正確には複写がやっと終わってその本が届いたと言うのに、それを心待ちにしていたヴィオレッタはどこにいるのか分からない…早くあのお嬢さんに「神の祝福」を手渡したい…ダントンはそう思っていた。

 朝、ダントンは極楽亭を訪ねてみた。ヴィオレッタからもらっていた個人情報は常宿が極楽亭だということだけだった。極楽亭に入ると、義足の男と少年が一階ホールの床にモップ掛けをしていた。

「こんにちわぁ〜〜…。」

「いらっしゃい。」

「こちらにヴィオレッタという方はお泊まりでしょうか?」

 ヘクターが怪訝そうな顔で、質問を質問で返した。

「ん…!お前さん、ヴィオレッタとどういう関係なんだい…?」

「実は私…筆写士の事務所を経営している者でして、ヴィオレッタさんに売掛金があるのです。期限をとうに過ぎておりまして、それで…その請求に参りました…。」

 ダントンは慎重に探りを入れた。自分は借金を踏み倒されて、このままでは損をしてしまうので仕方なくヴィオレッタを探している…という体裁をとった。

「お前さん、事件の事は知らないのかい?事務所を構えているんなら、憲兵が来てるんじゃないのかぁ?」

「…もちろん、知ってますとも。伯爵邸襲撃事件でしょう?ヴィオレッタさんの事を根掘り葉掘り訊かれました…私どもも売掛金を回収できなくて困っているんですよ…それでわざわざこうして足を運んだ次第でして…」

「もう、ここにはいないよ。骨折り損だったな…多分、売掛金も回収できないだろう…。」

「そうですか…お邪魔しました。」

 ダントンは極楽亭を出て、これからどうしようかと途方に暮れていた。すると、極楽亭の陰からダントンに声を掛ける者がいた。片目の男だった。

「旦那、旦那っ…!」

「…私ですか?」

「あんた、ヴィオレッタから何か仕事を請け負ったんだよな?…どんな仕事だい?」

「ん…あなたは?」

「俺は極楽亭で料理人をやってるライルだ…ヴィオレッタとは仲良しだった。ヴィオレッタは今、行方不明だ。だから、ヴィオレッタがあんたに依頼した仕事ってのが気になってな…。何か探す手がかりになるかと思って…。」

「いやぁ…友人だろうが身内だろうが、許可なしでお客さんの情報を漏らすわけにはいきません…失敬…。」

「売掛金はいくらだ⁉︎」

「…銀貨二十枚です。」

「それを俺が払うから、仕事の内容を教えてくれっ!それならいいだろうっ⁉︎」

 この男は信用できないとダントンは思った。銀貨二十枚は大金だ。いくら仲が良くても、料理人ふぜいが二つ返事で肩代わりできる額ではない。それでも…

「実は…事務所の本をお売りしたのですよ。せっかく破格の値段で売ってあげたのに…ねぇ。」

 下手に秘密にしておくと、あとで憲兵がやって来て拷問される恐れがあった。

「ああ…そういえば、押収した持ち物の中に本が数冊あったと聞いたな…。」

 押収された持ち物をなぜこいつが知ってる?語るに落ちたな…こいつは憲兵か貴族の手下だ。

 ダントンはライルとの話を適当に切り上げて、向かいの冒険者ギルドに入った。

(オリヴィアは冒険者だったな…。何か手がかりがあるやもしれん。ヴィオレッタさん捜索のクエストを発注するのもアリか…。)

 ダントンはギルドホールでビールを注文してテーブルの椅子に座り、ビールを飲みながら冒険者達の噂話に耳を傾けた。

 …オリヴィアがジェネラルを三発で倒した…憲兵隊がうざい…死んでも秘密は守れ…なるほど、オリヴィアは冤罪でギルドで匿っている感じか…。

「おっさん、ここで何してるんだ?」

 ロングソードを腰にぶら下げた大男が声を掛けてきた。

「ああ…人探しのクエストを発注したいのですが、勝手が分からなくて…。」

「受付カウンターはあっちだよ。」

 よそ者を警戒している…いいじゃないか、これぐらいでないとな…。

 ダントンが受付カウンターに行くと、レイチェルが応対した。

「何のご用でしょうか?クエストの発注ですか?」

「人探しです…借金を踏み倒されて困っております。どうか、踏み倒した相手を探してください…。」

「こちらの用紙に必要事項をご記入ください。それを見て、お支払いの見積もりをさせていただきます。」

 ダントンは発注用紙に記入してレイチェルに渡した。それを見たレイチェルは顔色を変えて、「しばらくお待ちください」と言って二階に駆け上がって行った。そして、ギルマスのホーキンズを連れて戻ってきた。

 ホーキンズはダントンに小さな声で耳打ちした。

「ダントンさん…ギルマスのホーキンズです。ヴィオレッタをお探しとか…。詳しいお話を聞かせていただけますか?」

 オリヴィアを匿っているのはギルマスの指示だろう…ならば、この人は信用できる。オリヴィアの友人であるヴィオレッタに危害を加えるようなことはしないだろう…。

 ホーキンズとダントンは二階のギルドマスターの部屋に入り、戸口にはレイチェルが立って人払いをした。

「私はここの大通りを中心に向かって300mほど行って右に入った小さな通りにある筆写士事務所を経営しているダントンと申す者です。借金うんぬんは嘘です…周りにも用心しないと、ある事ない事密告されてこちらの身も破滅しかねませんからな…。ヴィオレッタさんはうちのお客様で…依頼されておりました本が出来上がったのでお渡ししようと思ったのですが…」

 ダントンは今までの経緯を詳しくホーキンズに語った。

「そうですか…冒険者ギルドでも今、ヴィオレッタを捜索しているところです。何か分かったらダントンさんにもお知らせしましょう…で、その『神の祝福』という本はどうしましょう…?よければ、お預かりしますよ。」

「それは助かります…アレを保管しておくのは私には荷が重すぎます。どうか…ヴィオレッタさんを見つけ出してお渡しください…。はぁ〜〜…肩の荷が降りましたよ。明日にでも持参いたしましょう。」

「何かありましたら…私か受付のレイチェルにお申し付けください。どちらも不在の時は極楽亭のヘクターにどうぞ…」

「極楽亭のヘクターさん…義足の人ですな。あの人は身持ちが堅そうで良いですな。ですが…片目のライル…あれは遠ざけた方がいい…。」

「…!」

 その後、ライルは極楽亭を解雇され…それから数日して、とある廃屋で変死体となって見つかった。


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