表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
78/508

七十八章 中級魔法のお勉強

七十八章 中級魔法のお勉強


 ジャクリーヌ一座は、セコイア教の僧侶と共にリーン族長区連邦を目指すこととなった。オッカサンの歩調に合わせ、馬車はゆっくりと北上した。

 道すがら、ヴィオレッタと僧侶は精霊魔法について話をした。

「ヴィオレッタさんは、精霊魔法の初歩は習得されているようですね。」

「はい…なんとか…。」

「精霊魔法は自然との会話を可能とする手段…せっかくエルフやハーフエルフはその適性を持っていながら、彼らの間ですら精霊魔法の伝承が廃れつつあります…。我が教団でも精霊魔法を教え広めてはいるのですが、僧侶が少なく手が回らないのが現状です。それに…人間とエルフでは精霊魔法の捉え方と言うか…感じ方が違うようで…呪文を唱えずに魔法を行使する…これは我々人間には不可能なことですから、教えるにしても苦慮するのですよ…。」

「私も他の人に教えられて、初めて自分の適性に気づきました…。幸運でした。たった二日の訓練でしたが、そのお蔭で今があります。」

「ヴィオレッタさんはもっと上の精霊魔法を習得するつもりはありませんか?あなたほどの適性と、その…リール女史があればすぐに覚えることができるでしょう。」

「…教えていただけますか…⁉︎私はセコイア教の教徒じゃないのに…⁉︎」

「構いませんよ…エルフはこの世界を管理するために神が創りたもうた存在です。エルフとしてのあなたの存在自体が我が教団の教義と一致しているのですよ。」

「それじゃ…是非お願いします!」

 馬を曳いているグラントが手綱を放り出して近寄ってきた。

「お坊様、俺にも教えてくださいっ!」

「グラントくん、君はまだ五年の修行を終えていないのだろう?…この修行は人間が生まれ持っている利己心や物欲を削ぎ落とすためのものだよ…。」

「えええぇ…。」

 グラントはまだまだ利己心が削ぎ落とされていないようだ。

 こうして、ヴィオレッタはこの僧侶からさらに上の精霊魔法を教えてもらうことになった。これは魔道士では中級魔法と呼ばれる範疇で、「ウィンドカッター」などの攻撃魔法も含まれている。

 ハックという名前のこの僧侶は、馬車の後ろをヴィオレッタと並んで歩きながら中級魔法の概念を説明してくれた。

「中級魔法を成功させるためには、初級よりももっとたくさんの精霊を呼び、精霊の複雑な動きをしっかり制御しなくてはなりません。その制御はエルフといえども至難の業です。人間ともなるとまず不可能でしょう。そこで…その制御の行程を神に丸投げする…その方法が呪文です。…ここまでいいですか?」

「はぁ…なんとなく…。」

「例えば『ウィンドカッター』…これはまず、高速で空気を回転させつむじ風を作ります。それを相手に移動させて…相手の位置で一気に収束し、その風を一瞬で全て外に逃します。すると…真空ができます。生き物に限らず全ての物はどこかに必ず空気を持っていますので、その空気が真空に無理に移動しようとして…服や肉が切れてしまうのです。これが『ウィンドカッター』です…わかりましたか?」

「んんん〜〜〜…。」

「…では、まず私がやって見せます。よく見ててくださいね…。」

 ハックが呪文を唱え始めた。標的は街道横の大きな枯れ木だ。

「名も知らぬ神、原初の神が命ずる。集え、風の精霊シルフィよ。旋風となって我が刃となれ…切り裂け、ウィンドカッター!」

 ハックの手からつむじ風が現れて、枯れ木に向かって飛んでいった。するとベキッという音とともに枯れ木の幹に大きな裂け目ができて、大きな枝が一本切れ落ちた。

「おお…凄い…!」

 ヴィオレッタは枯れ枝の断面を指で撫でながら感心していた。そして…肩の上にいたメグミちゃんも、それを食い入るようにじっと見ていた。

「では…とりあえずやってみましょうか。ヴィオレッタさんが集める風の精霊シルフィの量は十分だと思います。あとは…制御ですね。まずは呪文なし…無詠唱でやってみましょう。」

「はい…えっと…まずはシルフィを集めて、高速回転…っと…」

 ヴィオレッタがリール女史を高く掲げて「集まれ」と念じると…おびただしい数のシルフィが集まってきてヴィオレッタの願いに応えて、ヴィオレッタの周りをぐるぐると回転し始めた。

「こ…これはっ!」

 ハックが驚いたのも無理はない。ヴィオレッタはそこらじゅうの草や葉っぱ、砂塵を巻き込んで…ヴィオレッタを中心に大きな竜巻を発生させてしまったのだ。オッカサンはびっくりしてメェ〜メェ〜と鳴き叫んだ。竜巻に吹き込む風で馬車の幌がバタバタと大きな音を立てて引きちぎれそうになり、数本の枝が音を立てて折れ、天高く舞い上がっていった。他の仲間も突然の突風でギシギシと軋む馬車の後ろを振り返った。

 しまったっ!と思ったヴィオレッタはすぐにシルフィに「止まって」と命令した。近くの木にしがみついていたハックが平静を装って…言った。

「い…今のは紛れもなく『トルネード』でしたね…。『ウィンドカッター』よりも難易度の高い魔法をやってしまうとは…いやはやなんとも…。」

 こういうことである…精霊の制御という点では「ウィンドカッター」よりも「トルネード」の方が簡単なのだ。リール女史があれば神に依存しなくても、ヴィオレッタは自力で「トルネード」に必要な量のシルフィを集めることができるということだ。

「す…すみません。」

「おいっ!今のは何だっ…⁉︎」

 集まってきたジャクリーヌ達にヴィオレッタはぺこぺこと頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ