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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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七十六章 ガブリス=ガルゴ その1

七十六章 ガブリス=ガルゴ その1


 ガブリス=ガルゴは魔族領で生まれた。五百年の間、魔族領の北の山脈で一族や仲間とともに鉱山を掘っていた。金や銀はもちろん、鉄鋼石、プラチナなど…たまにミスリルの塊が出ると、みんなで酒を持って大騒ぎをしたものだ。

 彼には特殊な才能があった。エンチャント(魔法付与)の才能である。ミスリルが出ると血が騒いだ。ミスリルは魔法とよく馴染む。

 掘り出した鉄鉱石とミスリルを合金にしてショートソードを鍛造しながら、地の精霊を呼び出してミスリルに常駐させる…。すると折れにくく、なおかつ刃こぼれしない剣の出来上がりだ。ワルキュネリスの神殿にいる神官にその剣を鑑定してもらうと、剣士スキル「護刃」の常時発動…なんて性能がくっついている。

 なので、魔族領の連中が仕事を依頼してくる。適当に引き受けていたら納品待ちが二十年なんてことになってしまった。特に面倒臭いのが…「こんな剣を造ってくれ」「こんな斧を作ってくれ」…勝手な注文をつけてきて、納品したらダメ出ししてくる奴だ。天才と言えど、ピンポイントで要求通りの武器を造るには試行錯誤が必要だ。

 ガブリス=ガルゴは魔族軍の幹部、シュバイツ=グンターの依頼を受けた。

 ガブリス=ガルゴは思った。

(ダークエルフのグンターの一族か…こいつぁ、ネクロマンサーだったの。怒らせるとまずいの…。)

 実際に彼の工房にやってきて仕事を発注したのは、3mの巨人、オーガの戦士ガイルだった。

「オーガか…お前はバーレイン一家じゃないのかい?」

「そうだ。バーレインの命令でシュバイツの護衛をすることになった。伝説級の斧を造ってくれ、チョーデカいやつを頼む。」

「バカタレェ〜〜ッ!ミスリルは貴重金属だ、デカいのが造れるかっ‼︎」

「何だとぉ〜〜っ!」

 ガブリス=ガルゴは腕力に自信があったので、自分の倍以上の背丈のオーガと取っ組み合いの喧嘩をして…あっさり負けてしまった。

 仕方がないので、ありったけのミスリルをかき集め、いくつかの仕事をキャンセルしてできるだけ注文通りの斧を造ってやった。一年かかった。

 ガイルがやって来て、出来立ての斧を手に取った。

「何だこりゃ…小せぇ…。それにすっ軽いじゃねぇか…お前、手ぇ抜いてるんじゃねえのか?」

「バァ〜〜カ、エンチャントがついておるんじゃよ!サラマンダーを常駐させてるからパワーが上がる。だから軽く感じるんじゃ…その上に『パワークラッシュ』が深度一個分強くなるぞい。」

「…造り直せっ!もっとデカく造れっ‼︎」

「そおかぁ…?これくらいが丁度いいと思うんだがのぉ…ちょっと、貸してみな…」

 ガブリス=ガルゴは斧を受け取ると、いきなりガイルの脛を斧で殴りつけた。

「うぎゃぁぁ〜〜っ‼︎」

「ほらぁ…儂が使ってもこの威力。やっぱ儂のエンチャントウェポンは一級品よっ!」

 そう言って、倒れたガイルの頭を斧で何度も何度も殴り続けた。すると、工房の入り口で声がかかった。

「そのくらいでやめておけ…さもないと、死んだガイルをアンデッドにしてお前にけしかけるぞ。」

 シュバイツ=グンターだった。

「ふんっ…。今日はこのくらいにしておくかのぉ〜〜。主人に礼を言っとけぇ〜〜。」

「代金は今度の人魔大戦が終わったら払う…それでいいな?」

「…ちっ、ツケかよぉ…。」

 ガブリス=ガルゴはその日の夜、魔族領から逃亡した。なぜなら、バーレイン一家の復讐を怖れたからだ。バーレインはオーガロードで、彼が率いる軍団はオーガ、ジャイアント、トロールなど、ほとんどが大型モンスターで占められている。希少種のドワーフだろうが、稀代の天才エンチャンターだろうが容赦はしてくれないだろう…そもそも、あいつらは頭が悪いから「容赦」なんて言葉も知らないだろう。

 ガブリス=ガルゴは自分が造った武器と防具を装備して、緩衝地帯の前線に紛れ込んだ。「緩衝地帯」とは、魔族領とラクスマン王国、エステリック王国との国境を言う。両軍が軍隊を常駐させて睨み合っており、時折、威嚇行動で小競り合いも起こる。

 その小競り合いが始まった。ガブリス=ガルゴはこれを待っていた。

 背丈の似ている大勢のゴブリンに混ざってガブリス=ガルゴは突進した。彼に気づいたゴブリンの数匹が彼の頭を棍棒で殴りつけたが、棍棒が折れるだけでガブリス=ガルゴは気にもせずひたすら国境目指して突進した。

 同盟国軍と衝突した。密集隊形で盾と槍襖を構えていた同盟国軍に、ガブリス=ガルゴは盾を前面にして真正面からぶつかった。同盟国軍の四、五人の兵士を盾ごと弾き飛ばし、彼の鎧を突いた槍は槍先が欠けた。巨大なバッファローの様に、兵士の肉壁をどんどん跳ね飛ばして同盟国軍の最前線を抜けた。

 同盟国軍はガブリス=ガルゴを幹部クラスと思い込んだ。小競り合いでは出てこないと思われていた幹部クラスの出現で、同盟国軍は魔道士を総動員した。ガブリス=ガルゴに向けて魔法の集中攻撃が行われたが、ガブリス=ガルゴは「ビルドベース」で障壁を作ってそれを防ぎ、そこから右に右に進路をとった。

 何とかラクスマン王国領を抜けたガブリス=ガルゴはそのままリーン族長区連邦のマッドガイスト族長区に入った。マットガイスト族長区は魔族とそのハーフが多い自治区である。

 そして、さらに二つの族長区を抜けてどんどん南下し、一年をかけてティアーク王国領に達した。それからティアーク王国領の西側の山脈に横穴を掘って数年の間、金や銀、プラチナそしてミスリルを採掘した。

 ある程度採掘すると、もっと良い鉱山を求めて再び南下した。


 路銀として準備していた砂金を使い果たしたガブリス=ガルゴはとある街道で一頭曳きの馬車を無理やり停めた。

「お〜い、すまんがの…何か食い物を恵んでくれんかの。腹が減ってしもうて、野垂れ死に寸前じゃ。」

「私はティアーク城下町で雑貨屋をしておる者だ…何かと交換なら、食い物を譲ってやってもいいぞ。今なら、パン三個とワインの入った皮袋があるぞ。」

「わ…ワインか…!」

 ガブリス=ガルゴは腰のナイフを抜いて見せた。

「これでどうだ?無垢のミスリル製のナイフじゃ。エンチャントもかけてあるぞ…」

「ミスリルって何だ…エンチャントって…?」

「ん〜〜…そうか、知らんのか。ミスリルは…なんだ、まぁ、銀やプラチナの上位金属なんだが…分からん?」

「分からん…。」

「もうええわい。銀じゃ、銀のナイフでええわい。パンとワイン込みで高く買ってくれ。」

「銀のナイフか…銀貨十枚でいいか?」

「もうそれでええわいっ!早うパンとワインよこせっ!」

 このミスリルのナイフはガブリス=ガルゴの傑作の一本だったが、彼は後先考えずに行動する性質たちだった。

 雑貨屋と別れると、ガブリス=ガルゴは街道沿いに東に向かい、ノードス村に到着した。


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