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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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七十一章 銀のナイフ

七十一章 銀のナイフ


 ジャクリーヌ一座は二回目の興行も大成功させて、その日の終い支度をしていた。

「ヴィオレッタさん、見て見てっ!」

 グラントは馬車の幌の上を指差した。そこには、「ライト」で光っているメグミちゃんがいた。メグミちゃんは光に寄ってくる蛾を捕まえて晩御飯を食べていた。見ているうちに、また一匹捕まえた…。

「賢い蜘蛛ですねぇ…何という名前の蜘蛛なんですか?」

「私もよく知らないです。…『アラクネ』…でいいのかな?」

「まさかぁ⁉︎…アラクネって、レアモンスターでしょ?」

 グラントの説明によると、レアモンスターの子孫や眷属が必ずしもレアモンスターになるとは限らない…いや、むしろそうならないからレアモンスターなのだ。

「ヴィオレッタさん、アラクネと会ったことがあるんですか?俺の信奉する教義の中では、アラクネは森の守護者なんだけど…。」

「んん〜〜…どうだったかな…?」

 携帯羽根ペンと羊皮紙を持ち出して、目を爛々と輝かせるグラントを警戒してヴィオレッタはお茶を濁した。恩あるシーグアのことをある事ない事即興詩にされては堪らない。

「ほいっ!明日はここを出発するよ。グラント、さっさと寝なっ!」

 ジャクリーヌはヴィオレッタに助け舟を出した。

 ヴィオレッタは一生懸命狩りをしているメグミちゃんを残して、幌の中で床に就いた。


 朝、ヴィオレッタが幌の中で目覚めると、幌の隅っこにある蜘蛛の巣にメグミちゃんがいるのを見つけた。

「おはよう、メグミちゃん…」

 ヴィオレッタが人差し指でメグミちゃんをチョンとつつくと、メグミちゃんは巣から落下し、荷台の床の上に落ちてぴくりとも動かなかった。

「げっ…まさか…⁉︎」

 すると、首筋あたりがもぞもぞしてメグミちゃんが肩の上に現れた。

「あれれ、どういうこと?あ…これ、抜け殻だわっ!」

 メグミちゃんは脱皮したのだ。

 メグミちゃんを指先にすくい取ってよくよく眺めてみると、わずかに大きくなっているような気がした。色もわずかにライトグリーンからモスグリーンになった…?

「あんたもちゃんと成長してるのね…ちょっと安心したわ。でも、シーグアさんみたいに大きくなったら困るかなぁ…。」

 ジャクリーヌ一座は町の朝市でパンや干し肉、ジャガイモや小麦粉など旅に必要な物の買い出しをして、馬車の周りで簡単な朝食を摂った。

 ジャクリーヌが買ってきたばかりのパンをみんなに切り分け、ホイットニーがジャガイモのスープをよそった。素手でパンを食べているヴィオレッタにジャクリーヌが言った。

「ヴィオレッタ、ナイフは持ってないの?」

「あ…持ってますよ。」

 フォークの代わりにナイフを使って食事をするのが旅人の流儀だ。自分のナイフでパンや干し肉を切り突き刺して食べると、手が汚れないしいろいろと手間いらずで良い。

 ヴィオレッタは自分の肩掛けかばんから、例の銀のナイフを取り出した。

「あら、銀のナイフ?そんな高価なものを使ってるの?」

「銀は毒や腐食に強いから衛生的ではあるね…ヴィオレッタさん、神経質なのかな?その割に…食中毒とか…。」

 含み笑いをしているグラントにヴィオレッタは事の次第を話して聞かせた。

「ティアークの路地裏の雑貨屋なんですけどぉ…急いでいたから値段も聞かずに買っちゃったんですよ…追われてて、早く城下町を出ないといけなかったから…。」

「ああ…奴隷の主人から逃げ出したんですね。」

(ちょっと違うけど…まぁ、いいわ…。)

 無口なホイットニーが珍しく言葉を口にした。

「そのナイフ…ちょっと見せてくれ。」

 ホイットニーはナイフを受け取ると、品定めをするかのように刀身をじっくりと眺めた。

「つや感は銀のようだが、少し青みがあるな…多分これ、銀じゃないぞ。」

「え…もしかして、プラチナかい?」

「…分からん。俺はプラチナは見たことないし。」

 ジャクリーヌはプラチナだと思って、ホイットニーから取り上げてそのナイフを持ってみた…不思議なことが起こった。

「あらら…?」

「あ…ジャクリーヌさんっ⁉︎」

 ジャクリーヌは小さな白玉がはっきりと見えて、それが自分に集まってきたのでびっくりした。ヴィオレッタも自分に常駐していたシルフィが少しだけジャクリーヌの方に流れて、今までになかったほどジャクリーヌに集まっているのを見て驚いた。

「な…何で?…冷やっこいぃ〜〜…。」

「…何でだろう…?」

 ホイットニーが言った。

「この世にはエンチャントウェポンってのがある…魔法を付与された武器だ。エンチャントウェポンは物理的な攻撃だけじゃなくて、攻撃魔法や援護魔法も同時にこなすんだ…。俺が聞いた話だと、ミスリルって金属が精霊や魔法との相性がいいらしくて、エンチャントウェポンのほとんどはミスリル合金らしい。もしかしたら…そのナイフもミスリル合金かもしれん…。」

「ミスリル合金で、ナンチャラウェポンだったら…お高いの?」

「…目が飛び出るぐらいお高いぞ。」

 ジャクリーヌはヴィオレッタのナイフを丹念に指で撫でまわし、グラントに向かって二、三度振ってみた。三度目に振った時に…突風が吹いてグラントが今まさに飲もうとしていたスープが飛沫をあげて、その飛沫が彼の顔にかかった。

「あちっ…あちちちぃ〜〜っ!」

 グラントの顔の火傷はそっちのけで、三人はそのナイフを凝視した。

「凄い…ジャクリーヌさん、今『ブロウ』を使いましたよ…。」

「そなの…?」

「こりゃぁ…魔法を強化するエンチャントが掛かってるんじゃないか?」

「ヴィオレッタッ!ちょっと実験してみてっ‼︎」

 ジャクリーヌからナイフを受け取って、ヴィオレッタはそのナイフを持ってシルフィに「集まれ」と念じてみた。とんでもない量のシルフィが集まってきて「持ち上げて」と念じてないのに、シルフィの圧力だけで体が持ち上がり、「水渡り」状態になった。

 水の精霊ウンディーネでも試してみた。やはり、ものすごい量のウンディーネが集まってきて、「水を作って」と念じるまでもなく大量の水がナイフからほとばしった。

 今度はあまり得意でない火の精霊サラマンダーで試してみた。「集まれ」と念じるとおびただしい数の赤いサラマンダーがゾロゾロとヴィオレッタめがけて迫ってくるので…嫌な予感がして途中でやめた。

「多分、このナイフを持ってると四精霊との親和性が劇的に高まるんだと思います…それで、結果的に魔法がより強力になったり、使えなかった魔法が突然使えるようになったりするんじゃないでしょうか!」

「おいおい…それが本当だったら、とんでもない代物だぞっ!魔道士垂涎の逸品じゃないか…金貨百枚でも欲しいやつはいるかもしれんっ!そんな物が何で雑貨屋なんかに…。ああ、路地裏か…何かの拍子に手に入れたはいいが、目利きができないへぼ店主だったってことか…。」

「ききき…金貨百枚っ⁉︎」

 その会話を聞いたグラントが俄然やる気になった。

「ちょっと俺にも貸してくださいよ!」

 グラントはナイフを手に持って振ってみた!…すると!…何も起こらなかった。

「ええええぇ〜〜〜っ…?」

「精霊とチャンネルを持ってるか、呪文を知ってるかでないと…ダメみたいですね…。」

 ゼロにいくら掛け算をしても…ゼロはゼロということらしい。

 ジャクリーヌが言った…

「…ヴィオレッタちゃん、これはとても貴重な物らしいわ…。お姉さんに預けときなさい…?」

「…いやです。」

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