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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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六十二章 次のクエストへ…

六十二章 次のクエストへ…


 ヒラリー、オリヴィア、ダフネ、アンネリは牧草地で寝転んで、事務員のビル待ちをしていた。

「ねぇヒラリー、いつになったら宿屋に帰れるのかしらぁ?」

「さぁねぇ…。」

 パーティーリーダーの責任上、ヒラリーもいた。

「オーク35匹、チャンピオン1匹、ウィザードとアーチャー8匹、ジェネラル1匹…ちゃんと賞金、貰えるかしらぁ…それが心配だわぁ。」

「大丈夫、私が保証するってっ!オリヴィアの『迎門…』何とかがなかったら、どうなってたか…一番の功労者だろぉ。」

 オリヴィアとヒラリーが喋っていると、息を切らせながら牧草地を登ってくる事務員のビルの姿を見つけた。

「どうなった?」

「何とかなりそうですよ…今、ユーレンベルグ男爵が憲兵隊を懐柔しています。…男爵って…ジェニのお父さんだったんですねぇ…。」

「えええぇ〜〜っ!そうだったの?」

 ヒラリーも知らなかった。

「明日、亡くなった七人の葬儀をやります。それが終わるまでここにいてください…とホーキンズさんが言っていました…。」

 そう言うと、ビルは手に提げていた麻袋をヒラリーに手渡した。中にはパン、チーズ、干し肉が入っていた。


 ステメント村の宿屋の二階の一室。

 ユーレンベルグ男爵が部屋に入ると、そこにはジェニが待っていた。

「パパ、どうだった?」

「ジェニ、パパを見くびってもらっては困るな…何とかしたさ。とりあえず、犯人がここにいないなら憲兵隊は引き上げるそうだ。手配書改ざんの件は…王都に戻ってもうちょっと動かないといけないけどな。」

「パパ…王都に戻るの?」

「ああ…後腐れがないように、法務尚書のエルガー侯爵に根回しをしておかないとな…奴もワインの流通に一枚噛みたがっていたから、そのセンで何とかなるだろう。」

「ふぅ〜〜ん…政治向きのことはよく分かんない…。」

「政治は…関係ないな…。今は貴族社会も腐り切ってしまって…全てお金だ。お金で政治を動かせるんだ。…それでだ、ジェニ。オーク討伐も終わったことだし、パパと一緒に王都に帰ろう。…実家に戻ってこないか?」

「ええぇっ!私は冒険者で…アーチャーでやっていくって言ったじゃない⁉︎」

「しかしなぁ…今回のオーク討伐で、二十二人も死んだ…パパは心配なんだよ…。」

「大丈夫よっ、大丈夫っ!ヒラリーさんのパーティーに入れてもらったし…あの人のパーティーは人死にが出ないので有名よっ!いざとなったら…クレリックのアナもいるしっ、アナは中級免許でも腕前は上級よっ‼︎」

「…そうかぁ…。」

 その日の夕方、娘のジェニを残してユーレンベルグ男爵は馬車でステメント村を後にした。


 次の日のお昼頃、一台の大型馬車が牧草地にやって来た。馬車を操っていたのはホーキンズだった。

「ギルマスッ!」

 ヒラリー達が馬車に駆け寄ると、なんと、馬車の中には葬儀を終わらせたアナ、ジェニ、デイブ、サムが乗っていた。後からジェニを追いかけてワンコもやってきた。

「…どういう事だ?」

 ホーキンズは馬車から降りると、みんなを集めて説明した。

「ユーレンベルグ男爵がいなくなった途端、憲兵隊がごねてなぁ…冒険者達と一緒に王都まで帰ると言い出したんだ。それで…悪いんだが、お前達は別行動をとってもらいたい…」

「別行動って…どこに行きゃいいのさっ!」

「本来はエステリック王国の冒険者ギルドの縄張りなんだが…ユニテ村に行ってくれないか…?」

「あ…あそこかっ!…やばいだろっ…」

 ユニテ村…二十年前にアンデッドに支配されて滅びた村だ。

「あちらのギルドでも手に余しているらしい…傭兵ギルドもちょっと絡んでてなぁ…それでうちのギルドに話が来てたんだ…」

「そもそも…騎士団の仕事だろう⁉︎」

「カネにならんことは国はやらん…だから、丸投げして来てるんだよ…オーク討伐と一緒だ。」

 ホーキンズはヒラリーをそばに呼び寄せ、小声で言った。

「まぁ…それは建前で、討伐はやってもやらんでもいい。ユニテ村からはイェルマが近いだろ…?大事にならんうちに…帰したらどうだ⁉︎」

「…そういう事かっ!」

 あともうひとつ、ホーキンズは重要なことを付け加えた。

「どこからか…情報が漏れた。手配書はないが、ダフネとヴィオレッタも捜索対象に入ってしまった…。」

「えっ…どこから⁉︎」

「俺たちに近いところからだろうな…それから今朝、レイチェルからの手紙が届いた。ヴィオレッタが行方不明になったそうだ。ずっとギルドで探しているようだが、見つかってない…もうティアーク城下町にはいないようだ。」

「…どうする⁉︎」

「もしかしたら、ステメント村に向かって来ているのかもしれん…とにかく、そちらはギルドで対応しよう…イェルメイド達には心配するなと言っておいてくれ。」

「わかった…私の名前で『鳩屋』も動かしてくれ。」

 ホーキンズの横にずかずかとオリヴィアがやって来た。

「ホーキンズさん、お金‼︎」

「いや、まだだって…オークジェネラルを倒してくれたそうじゃないか、感謝する。後でちゃんと精算してから渡すから…」

「ホントねっ⁉︎あと…まだオーク二万匹倒してないんですけどぉ…なんかみんな、終わった終わったって言ってるんですけどぉ…」

「ああ、それならクエストはまだ続くよ。頑張って二万匹倒すのを期待してるよ…オークじゃないけど…。」

「ああぁっ…良かったぁ〜〜っ‼︎」

 ホーキンズはヒラリーに一通の羊皮紙の書類を渡した。それはティアーク王国とエステリック王国の冒険者ギルドで取り交わした確約書で、ユニテ村でのクエストをティアーク王国の冒険者ギルドが正式に引き継いだことを証明するものだった。

「きっとこいつが役に立つだろう…。」

 みんなは馬車に乗り込み、ユニテ村を目指して出発した。ホーキンズはそれを見送り、ひとり徒歩でステメント村に戻っていった。

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