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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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六十一章 ユーレンベルグ男爵

六十一章 ユーレンベルグ男爵


 二台の大型馬車はオーク討伐を終えた冒険者達を乗せて、ステメント村に向かって丘陵地帯の牧草地を降っていた。

 緊張が緩んでしまった冒険者達は馬車の中でそれぞれ無駄話に花を咲かせていた。

 ヒラリーパーティーが乗った馬車の中の会話である。

「そういえば、オリヴィア…新しく覚えた『迎門三不顧』って、どういう意味なんだい?」

 上半身を露わにして、アナの治療を気持ちよさそうに受けているオリヴィアはうっとりしながら言った。

「お客さんを玄関まで迎えに行って、『いらっしゃ〜い』って言いつつ三発殴って『さようなら〜』って…そんな感じ…。」

「…失礼極まりないスキルだな。」

 実際は「敵を正面に迎えて攻撃、三発で必ず終わるので振り返りもしない」という意味である。

「天使の羽根のランドセルって?」

「ランドセル知らないのぉっ?えっとねぇ…何だっけ、忘れちゃった…夢の中ではちゃんと分かってたんだけどなぁ…」

 オリヴィアは目を閉じて白昼夢を思い出そうとしていた。

「夢の中のわたしはね、いつも五歳ぐらいなの…。女神様が持って来てくれるプレゼントはいつもわたしが欲しくて欲しくて仕方がない物ばっかりなのよ…わたしは夢の中でランドセルを貰って、『来年、これであたしもみんなと一緒に行ける』って喜んでるのよ…でも、あれぇ?…どこに行こうとしてたのかしらぁ…?」

「全く要領を得ないなぁ…。」

「『鉄砂掌』の時はねぇ…リコーダーだったのよぉっ!知ってる?」

「…知らん。」

「知らないのぉ⁉︎笛よっ、笛!縦に吹くヤツねっ!」

(…なんか、知らない方が悪いみたいな言われ方だな…!)

 アナはオリヴィアのそばで治療をしながら、必死に笑いを堪えていたが、ヒラリーは訊かなきゃ良かったと思っていた。

 その時、ひとりの男が走ってきて馬車を止めた。冒険者ギルドの事務員のビルだった。

「ヒラリーさん、ヒラリーさん!新しい憲兵が三十人、ステメント村に来てますよ。ギルマスがオリヴィア、アンネリ、ダフネの三人はしばらく村に近寄らないように、身を隠すように…って。」

「何だってっ…?」

 それを聞いていたオリヴィアは不機嫌になった。

「えぇ〜〜〜っ!この流れなら、今晩は打ち上げ宴会なのにぃ〜〜っ!」

「それは…ない。こっちも七人亡くなってるから…葬式と喪が先だな。」

「あうっ…あ…あ〜み〜だぁ〜ばぁ〜…。」


 二台の馬車がステメント村に帰ってきた。

 馬車が宿屋の前で止まると、ギルマスのホーキンズと三十人の憲兵隊が押し問答をしていた。冒険者達が宿屋の前で荷物を下ろしていると、三十人の憲兵隊がやって来た。

「この中にオリヴィアとその仲間…ダフネとアンネリ、それからヴィオレッタがいるだろう。どいつだ?」

 トムソンが馬車から降りてきて答えた。

「オリヴィア?誰だそいつは…そんな奴はここにはいないぞ。」

「とぼけるなっ!お前達冒険者は仲間を匿うために手配書を改ざんしたのだろう⁉︎」

「何のことだぁっ⁉︎」

「こっちはさっきまでオークジェネラルとやり合って、仲間7人やられて気が立ってるんだっ!憲兵だろうが騎士団だろうが、やってやるぜっ‼︎」

 負傷者を除いた冒険者21人と憲兵隊30人が対峙した。

 ギルマスのホーキンズが両者の間に割って入った。

「まぁ、待て待て。何かの行き違いがあるんだろう…手配書の改ざん?はて…誰か、そんなことをやったのか?」

 冒険者達はみんな首を横に振った。

 ホーキンズは手配書を出して、憲兵隊の隊長に見せた。それは憲兵隊が所持していた手配書と同じものだった。

「ふんっ…お前らみんなグルだな⁉︎おい、ハリー。お前が見た手配書はこれか?」

 ハリーと呼ばれた憲兵は「違う」と言った。この憲兵は三日前までいた五人の憲兵の中のひとりだ。

「お前ら全員、公文書偽造と伯爵邸襲撃事件の犯人隠匿の罪で拘束するっ!」

 そこに、宿屋からひとりの男が現れた。

「それは聞き捨てならんな、私の娘が罪を犯したと…?」

「誰だ、お前はっ⁉︎」

「私はアーネスト=ユーレンベルグと言う者だ。ジェニファー、こちらへ…。」

 ジェニは冒険者の一団から抜け出て男の横に立った。冒険者の間からどよめきが起こった。

「私はユーレンベルグ男爵…彼女は娘のジェニファーだ。じっくり聞こうじゃないか…娘がどんな罪を犯したのか…。」

「ユ…ユーレンベルグ男爵だって…?ワインの魔王の…?」

「ワインの魔王…そう呼ぶ者もいるようだな。」

 ユーレンベルグ男爵はティアーク王国を拠点として、エステリック同盟国のいたる所に広大なブドウ園を持っていた。そして、彼が所有するワイナリーから産出されるワインは同盟国で消費されるワインの60%を占めていた。貴族や王宮にも納めており、中にはユーレンベルグのワインの仲卸で稼がせてもらっている貴族もいた。爵位は低いが、財力で貴族社会に多大な影響力を持っていた。

「君が隊長か?娘の罪について、宿屋でお酒を飲みながらゆっくり話そう…あいにくここにはワインはないらしいがな…。」

「あ…いえ…。娘さんは関係ありません…冒険者どもの罪が…」

「うちのジェニも冒険者だぞ…?」

「ああ…ええと…」

「とにかく、こっちへ来いっ!」

 ユーレンベルグ男爵は憲兵隊長とその部下を無理矢理宿屋の一階ホールに呼び込んで、ビールを飲みながら自分は法務尚書のエルガー侯爵とも仲が良いことを力説した。

 仲間の冒険者みんなに言われた。

「ジェニは…男爵令嬢だったのかぁ〜〜っ‼︎」

 この場を凌ぐにはこれしかなかったと思いつつも…素性がばれてしまったジェニの気持ちは複雑だった。

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