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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五十八章 オークジェネラル その3

五十八章 オークジェネラル その3


 冒険者達はすぐに動いた。やるならオークチャンピオンを2匹失って混乱して体勢が整っていない今だ。

 早朝、準備を整えて進軍した。冒険者は昨日2人が死亡し、5人が重傷を負ってリタイヤして、33人になった。オーク側もかなりの死亡と負傷で、正確な数はわからないが50匹ぐらいだろう。オークは負傷しても回復が早いので、時間を置けば置くほど戦線復帰してくるオークが増える。

 ヒラリーはアンネリを手招きして呼んだ。

「アンネリはどう思う?」

「何が?」

「このまま進軍して…オークが昨日のままの布陣でいると思う?」

「つまり…あたしに偵察に行って来いと…?」

「…頼む。」

 アンネリは集団から離れると草むらの中に姿を消した。

 ヒラリーは頭の中で引っ掛かっていた。ただのオークならこれでいい…しかし、このオークの群れにはチャンピオンとジェネラルがいる。現に昨日も、あの混戦の中で10数匹のオークは掘建て小屋の前から動かなかった。何かしらの命令系統が機能している証拠だ。オークだと舐めていたら痛い目を見る…。ヒラリーは冒険者達の進軍を一時止めて、アンネリの帰りを待った。

 アンネリは慎重に物陰に隠れながらオークの陣営に近づいて、敵情視察をした。50匹程のオークが掘建て小屋の前に陣取っていた。

(あれ…全部のオークがここにいるのかな?)

 アンネリは目を凝らして、しっかりとオークの様子を窺った。中に武器を持たず、ただ突っ立っているオークがいた…

(ん…どういうこと?)

 よくよく見ると、半分ぐらいは負傷してふらふらしていた。そして、特に異彩を放つオークを1匹発見した。金属製の兜と鎧を装備し、両手で槍を持つオーク…以前見たオークジェネラルに引けを取らない程の重装備だ。

(…始めて見る奴だな。オークチャンピオンがもう1匹いたのか?…そういえば、あたしが殺し損なった『ウォークライ』持ちのオークチャンピオンはどこに行った?あれがそうなのか…?)

 アンネリは不審に思ったが、深く考えなかった。そして、冒険者の陣営に引き返した。

 アンネリの報告を受けたヒラリーも疑問を持った。

「欺瞞行動?…オーク達は何かを隠してるのか?」

「数はほぼ合ってるんだろ?もしかして…ジェネラルとチャンピオンはそいつらを肉の盾にして逃げたんじゃないのか?」

 トムソンの意見に、なくはない…と、ヒラリーは思った。

 ヒラリーはもう少し進軍することにした。その時…

バウッ、バウワゥ…

 しきりに吠えるワンコをジェニが必死に抑えていた。ワンコは尻尾を丸めて、なおもク〜ン、ク〜ンと鳴いて落ち着きのない様子だった。

 ヒラリーは叫んだ。

「みんな止まれっ、周辺警戒っ!」

 すると、50m離れた左右の草むらからオークが現れた。左からは皮鎧とロングソードを装備したオークチャンピオン率いる10匹、そして右からは…なんと2mをゆうに超える巨躯…金属製のブレストアーマーとタワーシールド、そして右手に長い槍を持ったオークジェネラルが単騎で現れた。

「アーチャー、魔道士は牽制っ!アナはホーリーライト発動してっ!…撤退しつつ、戦士と盾持ちは防御っ‼︎」

 アーチャーと魔道士は後退しつつ、左右から来るオーク達に矢と魔法を浴びせた。ジェニも必死でオークチャンピオンを狙って弓を撃った。

 オークチャンピオンは仲間の1匹を盾にして、縦一列になって突っ込んできた。盾になったオークは「ウィンドカッター」と数本の矢を受けて血飛沫を上げてボロ雑巾の様になった。オークジェネラルは「ファイヤーアロー」をタワーシールドで弾いて、矢が足に刺さっても物ともせず突進してきた。

 アナは「神の威光」を発動させた。しかし、オークチャンピオンとオークジェネラルの突進は抑えられなかった。

 ヒラリーとトムソンはオークチャンピオンに仕掛けた。ヒラリーは「ウォークライ」を撃たせまいとレイピアでオークチャンピオンを連続突きした。

 ダフネとデイブはしんがりを務めオークジェネラルの前に立ちはだかった。ダフネとデイブは「ウォークライ」の二重攻撃を仕掛けたが、オークジェネラルには効かなかった。オークジェネラルが逆襲の「ウォークライ」を放ってきた。ダフネとデイブは咄嗟に盾を突き出したが、意識が朦朧となって、オークジェネラルの槍の横なぎをもろに食らって右の方向に吹っ飛んでいった。

 オークジェネラルがアナに迫った。護衛のアンネリがありったけの撒菱を地面にばら撒いた。オークジェネラルは裸足で撒菱を踏んだが、分厚い足の裏の皮を貫通させることはできず、オークジェネラルは撒菱をどんどん踏みつけて進んできた。アンネリはこれにはさすがに戸惑って、アナを背中にかばいながら後退りした。

 アンネリとオークジェネラルの間に割って入ったのは…オリヴィアだった。

「大震脚…いっくよぉぉ〜〜〜っ‼︎」

 そばにいたアンネリはアナを抱えて一瞬飛び上がった。ヒラリーはトムソンの首に右腕を巻き付けるようにして、そのまま一緒に地面に突っ伏した。

ドドォ〜〜ンッ‼︎

 オリヴィアの「大震脚」が炸裂した。

 オークチャンピオンは脳震盪を起こして立ったまま白目を剥いていた。オークジェネラルは「ぎゃっ」と悲鳴を上げて、その場に腰を落として座り込んでしまった。「大震脚」の縦揺れで、足の裏に刺さっていたいくつかの撒菱が皮を突き抜けてめり込んだのだった。

 ヒラリーとトムソンは四つん這いになったおかげで「大震脚」の脳への影響を避けることができた。

 オリヴィアはここぞとばかりに柳葉刀でオークチャンピオンの首を見事に跳ねた。そしてさらに、座り込んでいるオークジェネラルにも攻撃を仕掛けた…が、柳葉刀をタワーシールドで跳ね上げられて、その衝撃で柳葉刀が一本折れてしまった。オークジェネラルがゆっくりと起き上がった。

 トムソンが叫んだ。

「オリヴィアッ、構うなっ!負傷者が出てる…とにかく撤退だっ!」

「あうっ…左耳…」

 ヒラリーとトムソンは気絶しているダフネとデイブを担いで走った。アナは「神の威光」を絶やさないようにして、アンネリと一緒に撤退した。オーク達は追ってこなかった。


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