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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百七十八章 エンチャント その2

五百七十八章 エンチャント その2


 朝食を済ませたヴィオレッタとユグリウシアは、祭事館に行くエヴェレットを見送って、鍛冶工房へと向かった。

 鍛冶工房に到着すると、工房の前で小さめの箱らしき物を二つ小脇に抱えたリュグリエントが待っていた。

「やぁ、おはよう、ユグリウシア、セレスティシア。」

「おはようございます、リュグリエントさん。もう、用意していただけたのですね?」

「うん…モノが小さかったからねぇ。」

 あの箱は何だろう?…と、ヴィオレッタは思った。

 エンチャント専用の鍛冶工房に三人は入っていった。三人でも…この工房は広すぎる。

 まずは、昨日のうちに準備していた炉の中のコークスに火を点けなければならない。ユグリウシアは呪文を唱え始めた。

「&%$@、#=〜〜&#$%。&*+(ー)、+&@@%&+*。(地の精霊ノームよ、出でて小さな玉を作れ。火の精霊サラマンダーよ、その玉を溶かせ。)」

 すると、ユグリウシアの手のひらに直径5cmくらいの「ファイヤーボール」が出現した。ユグリウシアがその火球をコークスで満たされた炉の中に投げ入れて、すぐにコークスに着火して、コークスはごうごうと燃え出した。「ファイヤーボール」は溶岩の塊である。それ自体ですでに1000度くらいの熱を持っている。

「おお、こんな小さな『ファイヤーボール』…初めて見ました。伯母上は『ファイヤーボール』も自由に調節できるのですね!」

「神代語を使えば、セレスティシアにも簡単にできますよ。」

 ある程度炉が温まってくると、ユグリウシアは側の作業台の坩堝るつぼに二枚のミスリルコインを入れた。

「さぁ、セレスティシア…ここからですよ。せっかくなので、セレスティシアにも手伝ってもらいましょうか…。」

「…何を手伝ったら良いでしょう?」

「風の大精霊の初期格…バルキリーを召喚してください。」

「……え?」

「ミスリルを使ったエンチャントでは…大精霊の力を借りないと、ミスリルを溶解することができないのですよ…」

「わ…分かりました。」

 ユグリウシアに言われた通り…理由わけも分からずに、ヴィオレッタは神代語呪文で風の大精霊バルキリーを召喚した。

 ヴィオレッタの隣に身長180cmくらいのバルキリーが屹立した。

 すると、リュグリエントも神代語呪文を唱えた。

「@&#%$、*+%&+*@*+=〜&$、#&#+@&%@+*%$。(風の精霊シルフィよ、風を我のころもとして我の体に纏わり付かせ、我を熱から守れ。)」

 大量のシルフィがやって来て、リュグリエントを包んだ。リュグリエントはエンチャントの段取りを熟知しているようだ。

 そしてすぐに、ユグリウシアは自分とセレスティシアに同じ神代呪文を唱えた。ヴィオレッタとユグリウシアの周りにもシルフィがやって来て二人を包んだ。

(…これは⁉︎)

 ヴィオレッタは自分の周りの空気がゆっくり動いて対流しているのを感じた。もしかしてこれは…エスメリアが両親から教わったという神代魔法と同じものではないのか…⁉︎

 ユグリウシアが言った。

「この魔法を使わないと、三人とも炉の輻射熱と熱風ですぐに死んでしまいますからねぇ…。ただし、10分以上はだめですよ。この魔法を10分以上続けると、窒息死してしまいますからね。」

 そうか…体の回りに一定の空気の層ができて断熱効果を発揮するのだ。呼吸はその層の空気を吸うので…次第に空気の層が濁っていくのだ。やはり、エスメリアさんの魔法と同じだ!

 ユグリウシアが呪文を唱え始めた。それは…火の大精霊スルトを召喚する呪文だったので、ヴィオレッタは驚いた。

 炉の中の炎が収束して人の形になっていき…ユグリウシアの隣に現れた身長2m近いスルトはユグリウシアの命令を待っていた。

「@&+*&、#$%@@++&#$%。*+*@&%、#$*+&%#$@。(火の大精霊スルトよ、炉の中のコークスをその炎の槍で熱せよ。止めよと命令するまで、熱し続けよ。)」

 なるほど…スルトの火力でミスリルを溶かすのか!この工房が広いのは…複数の大精霊を召喚して使役するためだったのか!

 ユグリウシアは、今度はセレスティシアに命令した。

「セレスティシア、バルキリーに命令して『ブロウ』で炉の中に風を送り込みなさい。そうしないと…炉の温度が4000度になりません…!」

「ああっ…!」

 バルキリーは…「吹子ふいご」の役目か!

 セレスティシアは神代語で炉に風を送り込むようにバルキリーに命令した。

 スルトの炎の槍とバルキリーの風によって、コークスは轟音を立てて燃え上がった。リュグリエントが炉の中に一生懸命コークスを放り込んだ。

 半球形の炉の頂点の穴が火を吹いて、猛烈な勢いで火柱が立ち上がった。そして…炎の色が、赤からオレンジ…黄色…白へと変わっていった。

 ユグリウシアは風の精霊シルフィに命令した。

「*+@&#$、%〜〜@&%$、><=@=&%+*@〜=〜@@&%$。(風の精霊シルフィよ、坩堝るつぼを持ち上げて、炉の頂点の穴の上で停止せよ。)」

 作業台の上の坩堝るつぼが持ち上がって、炉の頂点に向かって宙を移動していった。

 リュグリエントが言った。

「セレスティシア、そろそろ10分経つ…こっちにおいで!」

 リュグリエントはセレスティシアを工房の外に引っ張っていくと、再び空気の層の魔法を掛け直した。二人が工房に戻ると、今度はユグリウシアが外に出た。

 これを繰り返して…約30分が経過した。

 ユグリウシアが言った。

「そろそろですかね…。」

 ユグリウシアがシルフィに命令して、坩堝るつぼを炉から降ろした。そして、中を覗いてミスリルが溶解しているのを確認すると…シルフィに命令して、坩堝るつぼを少しずつ傾けていった。そこにリュグリエントがやって来て、持参してきた小さな箱のひとつで、流れ落ちる液状化したミスリルを受けた。

 小さな箱には穴が開いていて、溶解したミスリルはその中に流れ込んでいった。小さな箱は…鋳型だった。

 ユグリウシアはセレスティシアに言った。

「バルキリーを消して良いですよ。私もスルトを消します。」

「た…助かったぁ〜〜っ…!」

 初期格ではあるが、バルキリーを30分も維持したのは初めてで…ヴィオレッタの魔力は尽きかけていた。

 ユグリウシアとリュグリエントの仕事はここからが本番だ。

 ユグリウシアは鋳型の中のミスリルに対して、再び呪文を唱え始めた。

「@+*+><、&#$%@=(ー)&。%$#@<>、=&%$〜+、*〜@&%@=&。%$、&$#%@=…@&&#$*+*@(ー)=&%+*。(光の精霊タキオンよ、舞い降りてきて我が願いを聞け。このミスリルに宿りて、ミスリルを携える者のまなこに光を集め、景色を明るくせよ。その後、その光を解きほぐして…その者のまなこの大きさに拡散せよっ!)」

 ヴィオレッタは不思議な呪文だなと思った。伯母上は一体何を狙っているのだろうか?

 ユグリウシアは何度も何度も呪文を繰り返して、ミスリルに念を込めた。

 すると、リュグリエントは箱の留め金を外して箱を割った。箱の中から砂の塊が出てきてリュグリエントが金槌でそれを叩くと、パカッと割れて…中には手に乗るほどの小さなアクセサリーが埋まっていた。それは細い針金がくっ付いた平たい…機織り作業で横糸を通すシャトル…の形に似ていた。

 リュグリエントは石綿の手袋をつけて、ペンチで針金部分を切ると、それをS字型に曲げた。その作業速度は目にも止まらない速さで…とにかく、ミスリルが完全に固まる前に全ての作業を終わらさなくてはならないのだ。

 リュグリエントは、今度はタガネでアクセサリー全体の成形をしていき…その上部にポンチで小さな輪を作った。そして、超極細のタガネを持ち出して、アクセサリーの裏面いっぱいに模様のようなものを刻印していった。

 ヴィオレッタはその作業を横で見ていたが、模様が細かすぎて…リュグリエントが何をしているのかよく判らなかった。

「リュグリエントさん…その模様は?」

 リュグリエントは刻印の作業をしながら、ヴィオレッタの質問に答えた。

「これは模様じゃないよ…神代文字だよ。」

「ええっ…小さすぎて分からなかったっ…!よくそんな小さな文字を彫刻できますね…ってか、よく見えますね…‼︎」

「ふふふふ…目がよく見えるようになる『魔法』を使っているんだよ。…こうして神代文字を掘り込んで…精霊たちがミスリルから逃げないように封印するのさ。」

「へえええぇ〜〜っ!」

「こんなので驚いてちゃいけない。今回は私がお手伝いしたけど…普段はユグリウシアは、ひとりでこの工程全てをやってしまうんだよ。」

「ひえええぇ〜〜〜〜っ‼︎」

 そうしているうちに、リュグリエントは本体を完成させて…本体の上部の輪にS字型の針金を通し、ペンチで留めてミスリルのアクセサリーを完成させてしまった。

「できたっ!」

 それは…イヤリングだった。本体の裏面は神代文字の刻印でいっぱいだったが…表面は何と、左右が鋭角の楕円の真ん中に丸がひとつと言う…「眼」の意匠だった。

 すると…ユグリウシアが言った。

「30分休憩したら、もうひとつ同じものを作りますよ。」

「えええ…伯母上はタフですねぇ…。30分じゃ、私の魔力が回復しませんよ…こんな事なら、セイラムを連れて来ればよかった…」

「それはやめた方がいいですね。妖精は物理攻撃には強いですが、魔法攻撃には非常に弱いのです。万が一…あの炉の熱風を少しでも浴びたら…消えてしまいますよ。」

「げげげっ…セイラムを呼ぶのはやめときましょ…。」

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