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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百七十七章 エンチャント その1

五百七十七章 エンチャント その1


 アナは臨時の野戦病院になっているコッペリ村の宿屋をひと通り巡回診察した後、すぐにイェルマに取って返した。時刻はもう昼過ぎになっていた。

 祭事館に飛び込むと、アナはエヴェレットを探した。

「エヴェレットさん、エヴェレットさん…また、エルフの村に連れて行ってもらえませんか?」

「…今からですか?」

 エヴェレットはちょっと嫌な顔をした。

「ミスリルが手に入ったんですよ!」

 それを聞くと、即座にエヴェレットは外套を着て外出の準備をした。

「アナさん、行きましょう!」

 ヴィオレッタやユグリウシアが喜ぶ事に関しては、いちもないエヴェレットだった。

 エルフの村に到着すると、ユグリウシアが出迎えた。

「アナさん、今日は何か…?」

「ミスリルが手に入りました!」

「まあぁっ…‼︎」

 ユグリウシアはすぐに談話室で神代語の勉強をしているヴィオレッタを呼んできた。

 みんなは応接間の切り株のテーブルでハーブティーを飲みながら話をした。

 アナから詳しい話を聞いたユグリウシアは言った。

「すると、これは魔族領のミスリルなんですね。オリヴィアさんが持っていたものをジェニさん…あの『妖精の目』を持った女性の方が買い取ったと…。」

「その通りです。コイン二枚分のミスリルで量的に足りますか…?」

「これは非常に純度の高いミスリルなので充分ですよ。」

「ええと…エンチャントが終わったら、そのミスリルはジェニに返してもらえるんですよね?」

「もちろんです。…そうですか、あのジェニさんのミスリルですか…。」

 ヴィオレッタの顔は明るかった。

「アナ殿、ありがとうございます!これで伯母上からエンチャントアイテムの作り方を教授してもらう事ができます‼︎」

「どういたしまして!」


 アナとエヴェレットが祭事館に戻った後、ユグリウシアはヴィオレッタと連れ立ってエルフの村から少し離れた鍛冶工房に向かった。そこは山の斜面を穿って作られた洞穴のような場所で、それは外から見ると二つあった。

 二人はそのひとつに入っていった。洞穴の内側全てに耐火煉瓦がはめ込んであって、真ん中に小さな長方形の炉が置かれていた。この炉はリーンでも見る至って普通の炉だった。天井には排気のための大きな穴があって、下から覗いてみても空は見えなかった。多分、雨除け用の屋根が付いているのだろう。

「伯母上、ここでエンチャントの作業をするのですか?思ったより狭い工房ですね…。」

「ここは製鉄や鋼を鍛造する工房です。エンチャントは隣の工房で行います。ここは、道具を取りに来ただけですよ。」

 二人は隣の洞穴に入った。そこは耐火煉瓦の壁は同じだったが、製鉄用の工房よりも三倍以上も広かった。

「…ここは広いですね。ここでエンチャントを行うのですね。」

「ええ、エンチャントは…私たち以外にも作業を手伝う者が必要なので、工房は広くないと…。」

「…私たち以外?」

 工房の真ん中には半球形の炉が置かれていた。天井にはやはり大きな排気口の穴が開いていて、排気口の回りがなぜかキラキラと光っていた。

「伯母上…あれは何が光っているのですか?」

「高温の熱で、長い間に排気口の岩肌が溶けて…中の石英が硝子化して光っているのですよ。」

「…おおお…。」

 半球状の炉が珍しい形をしているなと思ってヴィオレッタが触ってみると、それは非常に硬く…頂点に小さな穴がひとつ、下方に大きな穴が二つ、計三つの穴が空いていた。

 ユグリウシアが言った。

「この炉で4000度の熱を作ります。でないと、ミスリルは溶かせませんからね。」

「うぉ…4000度っ‼︎」

 太陽の表面温度が約6000度、鉄を溶かす溶鉱炉で約2000度…ドラゴンブレスが約3000度くらいである。

 二人は炉の中の燃えかすを掻き出したり、天井の排気口の煤を払ったりして、日暮れまで工房の掃除をしたり荷車でコークスを運んだりした…疲れた。

 すると、ひとりの老エルフがやって来た。ユグリウシアが挨拶をした。

「これはリュグリエントさん、ちょうど良いところに来ましたね…」

「おや…またエンチャントを始めるのかい?」

「はい、セレスティシアにエンチャントの手解きをと思いまして。それで、リュグリエントさんにアクセサリーのデザインと彫金をお願いしたいのです。」

「ああ、いいよ。」

 二人が打ち合わせをしていると、工房からコークスを運び終えたヴィオレッタが出てきた。

「あ…こんばんわ。」

 ユグリウシアが言った。

「こちらはリュグリエントさん。魔導士ですが、副業で『細工職人』を持っております。エンチャントアクセサリーのデザインと彫金をお願いしました。」

「よ…よろしくお願いします。」

 その夜、ユグリウシアは談話室でヴィオレッタと一緒に本を読んでいた。ヴィオレッタはシーグアの著作物を読んでいたが…

「伯母上、何の本を読んでいらっしゃるのですか?」

「これは、先人から私に至る…これまでのエンチャントの結果をまとめて考察した研究書みたいなものですね…。」

「明日のエンチャントのための準備ですか?」

「その通りです。…今回はちょっと狙ってみようかと思いまして…」

「狙う…とは?」

「平たく言いますと、エンチャントとは…呼び出した精霊を特定の金属に固定する作業です。例えば、風の精霊シルフィを召喚して、金属に宿るように指示します…もちろん神代語でです。金属への精霊の固定に成功したとします。『ウィンドカッター』が欲しかったのに、しかし、実際に発現するのは剣士の『疾風』だったりします。…発現する『魔法』や『スキル』はランダムなのですよ…。その原因は…やはり、精霊への指示の仕方だと思うのです。これは逆を言えば…精霊への指示の法則性さえ理解できれば、狙って…こちらが望む『魔法』や『スキル』を発現させるエンチャントアイテムを作成することができるのではないでしょうか…。」

「伯母上…凄い…!上位職の『賢者ウィザード』は伊達ではありませんねっ‼︎…そっかぁ、やっぱり、『スキル』も精霊の仕業だったのかぁ…。斥候のダークエルフが闇の精霊が関与する『スキル』を使っているのに、通常の斥候の『スキル』も使えるのが不思議でした。魔法だったら…闇の精霊と他の精霊は反発し合うでしょう?」

「人間が使う『魔法』はパッケージ化された呪文が発動のトリガーとなっていますが、剣士や戦士などが使う『スキル』は…それとはまた別の法則が働いているのでしょうね…私はまだ、そこまで解明に至っておりません。…ふふふふ、嬉しい…まさか、自分の姪っ子とこのような精霊や魔法の小難しい話ができるとは思ってもみませんでした…。」

「あはははは…」

 するとそこへ、エヴェレットが祭事館から戻ってきた。

「お帰りなさい、エヴェレットさん。今日は遅かったですね。」

「はい…。祭事館から神官房への引っ越しのお手伝いをしてまいりました。けっこうな肉体労働でした…。」

「それはそれは、ご苦労様でした。」

 エヴェレットはテーブルに着いて、ユグリウシアが運んできたパンとスープを食べながら…時折チラッチラッとヴィオレッタの方に視線を投げ掛けた。それが上目遣いの視線だったので…

「エヴェレットさん、どうしました?」

「いえ…今日は…ありませんか?」

「何が…?」

「…プレゼント。」

「ワインですか…そう毎日毎日だったら、プレゼントにならないじゃないですか…。」

「先に言っておきます…最上級でなくてもよろしいのですよ…?」

「承っておきます…。」

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