五百七十五章 ボタンとアルフォンス 最終話
五百七十五章 ボタンとアルフォンス 最終話
ボタンはコッペリ村でキャシィから安く分けてもらった一等級ワインを皮袋に詰めて、それを右手に持ち左手には燭台を持って鳳凰宮の自分の部屋を出た。
護衛のアルテミスが言った。
「ごゆっくり…。」
「ありがとう…。」
明日はついにエステリック王国に向けて出陣する日で、今晩がアルフォンスと会う最後の夜となる。
一階の厨房から二つ目の部屋に入ると、アルフォンスは一生懸命、刀を研いでいた。
「アルフォンス、またやってるのかぁ〜〜。」
「おっ、ボタン…見てくれっ!こいつは稲妻や金筋の具合からして『ゴロウニュウドウマサムネ』かもしれんっ‼︎銘は切ってないが、『マサムネ』の刀は銘がない物が多いので有名なのだ。偽物の可能性はあるが…研ぎ終わって試し斬りをすればすぐに判る…むふふふ。」
ボタンは部屋の寝台の上に腰掛けて、アルフォンスにワインを詰めた皮袋を渡した。アルフォンスはそれを受け取って一服着けた。
「むぐっ…⁉︎酸っぱい…変わった酒だな。…果実酒かな?ゴクッゴクッ…なかなかにまろやかな味わいで美味いな。いくらでも飲めそうだ。」
「一気に飲むなよ。それはワインと言って、その中でも極上品で高いんだぞ。」
「むむ…極上品か。俺ひとりで飲むのは勿体無い…ボタンも飲め!」
二人は交互に皮袋から直接にワインを飲んだ。
「これが本物の『マサムネ』だったら…お前に『ヒコシロウサダムネ』をやったのは拙速だったやも…。『マサムネ』は『サダムネ』の師匠でな、師弟の名刀二本差しができたかもしれん。」
「あははは…『ヒコシロウサダムネ』はもう返さないぞ。」
「ふふふ、分かっている、分かっているとも…。」
アルフォンスは寝台の、ボタンの隣に座ってボタンに口づけをした。ボタンはアルフォンスの方に自分の身を預けた。
「明日は出発だ…。今日が最後になる…。どうしても、イェルマに留まってはくれいんだな…。」
「…すまんな。」
「私たちはたった一週間…一週間だけの夫婦だったな…。」
アルフォンスは左手の指にはめていた赤色の宝石の指輪を外した。
「ボタン、俺は今生の別れは嫌だ。心だけでもお前と繋がっていたい。それでな…貴族の間では指輪を交換して『婚儀』の証とするそうだ。この指輪を受け取ってくれないか?そうすれば…一生の夫婦になれる。」
「この指輪は神ベネトネリスからもらった大切な指輪じゃなかったのか…?」
「俺は、実は独占欲が強いのだ…別れた後、お前が別の男とよろしくやるなどと想像もしたくない。…俺と添い遂げてくれるか?」
「だが…私は代わりにお前にやる指輪など持ってないぞ…」
「お前のその美しい黒髪のひと房をくれ。」
「…分かった。」
ボタンは赤色の宝石の指輪を受け取って、左手の薬指にはめた。そして、アルフォンスが研いだ『ゴロウニュウドウマサムネ』でボタンは長い黒髪を少し削ぎ落として…手巾に挟んでアルフォンスに渡した。
「…一生、大事にするぞ。」
ボタンは嬉しくて、赤色の宝石の指輪をはめた左手をかざして二人してそれをしばらく眺めていた。赤い宝石はランタンの光を受けて、反射した光は妖艶な揺らぎを見せていた。
ボタンは言った。
「美しい宝石だな…」
「この指輪は火属性の抵抗を高める指輪だ。」
「そうなのか…この指輪のお蔭で、アルフォンスはあのスルトの炎にも平然としていられたのだな…。」
「…その通り。この指輪さえしていれば…ボタンは日差しの強い夏でも日焼けせず、その美しい白い肌と艶のある黒髪を保つことができる。肌身離さずつけておいてくれよ。」
「ははは、私の心配ばかりして…お前自身はどうするのだ?」
「いや、俺はどうでも良い。しかし、俺の嫁は美しくなくてはならないっ!その白くてキメの細かい肌と黒髪が俺は好きだ、大好きだ…」
そう言って…アルフォンスはボタンの額に口付けをし、次に左頬、それから右頬と口付けしていき…そしてそのまま、ボタンを寝台に押し倒した…。
ボタンはアルフォンスの愛撫を体に受けながら言った。
「なぁ…アルフォンス。お前は勇者候補とやらを見つけたら…イェルマに戻って来てくれるんだよな?」
「もちろんだとも…。その時は、『食客』だろうと指南役だろうと…何でもやってやるぞ。」
「…必ず戻って来てくれよ、絶対だぞ。」
「ああ、ボタンもそれまで息災でいてくれよ。」
二人は寝台の上で重なり合い、夜は更けていった。




