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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百七十四章 エルフの村での会合

五百七十四章 エルフの村での会合


 コッペリ村のエステリック軍をことごとく駆逐してから二日が経ち、城塞都市イェルマは落ち着きを取り戻しつつあった。

 アナは、野戦病院として稼働しているイェルマの祭事館とコッペリ村の宿屋を毎日往復して怪我人の治療に当たっていた。そして、アナの神聖魔法を必要とする重傷者もいなくなり、アナの仕事もだいぶ減った。

 セイラム、リグレット、フィアナ、テルマの叫び声やけたたましく走り回る床の音がこだまする祭事館で、アナが患者の事後観察をしていると、祭事館に護衛のタチアナを連れたボタンとマーゴットがやって来た。

「これは女王陛下…」

「アナ殿、そのまま、そのまま…どうぞ、仕事を続けてください。ちょっと様子を見に来ただけですから。」

 ボタンを見つけたセイラムとリグレットがやって来た。

「ボタン姉ぇちゃぁ〜〜んっ!…クソババァッ‼︎」

「セイラム、リグレット…いつも元気だなぁ〜〜。患者たちが寝ているから、起こさないようにね。」

 …無理な相談だった。

 ボタンがアナに言った。

「アナ殿、死にそうな重傷者はもういないのだろう?」

「そうですね…後は、軽傷の患者に薬を飲ませたり、包帯を取り替えたり…そんな感じですしょうか?」

「どうだろうか、戦争もほぼ終わったことだし、そろそろ祭事館を閉めて神官房に戻っては?」

「そうですね…もう患者さんたちはそれぞれの房の集団寮に移って治療を続けても差し支えないでしょう。それに、神官見習いたちの修行も再開しないといけないし…。」

 そこでアナはある事を思い出した。

「あっ…!」

「アナ殿、どうしたのだ?」

 アナは少し顔を曇らせた。

「セレスティシア様はマックスさんをどうするつもりでしょう…リーンに連れて行ってくれるんでしょうか?…できたら、ジャネットさんも一緒に連れて行ってもらうと助かるんですけどねぇ…。」

 マックスとジャネットに神官房にずっと居座られると…神官見習いの少女たちはまだ未成年だし、精神衛生上、非常によろしくない。

「…マックスは知らないが、ジャネットは…中堅のランサーだぞ。現在イェルマは練兵部の中堅が数少なくなっているから貴重だ。ジャネットをリーンに連れて行かれると、正直困るな…。」

 アナは患者の包帯を取り替えているエヴェレットに尋ねてみた。

「エヴェレットさん…セレスティシア様はマックスさんについて、何か仰ってましたか?」

「特に何も…。確かジャネットさんとはねんごろなのでしょう?でしたら、イェルマに残ってジャネットと所帯を持てば良いのです。マックスはリーンに帰っても…僧侶見習いは除籍になるでしょうから、他の仕事を探さないといけません…。」

「…除籍…どうして?」

「姦淫の罪です。見習いの間は女性と通じてはいけません。」

「…かわいそうに、何とかなりませんかねぇ?」

「なりませんねぇ。」

「セレスティシア様からその筋の偉い人に口添えをしてもらったら何とか…」

「断っておきますが、リーンに戻れば私はセコイア教の大僧正代理です。アナ殿が今言った『その筋の一番偉い人』です。」

「…げっ!」

「…『げっ』とは何ですか、『げっ』とはっ⁉︎」

 エヴェレットとは話ができそうになかったので、アナはヴィオレッタに直談判することにした。

 お昼になって、アナは北の五段目にある神官房を訪れた。同行者はボタンとエヴェレットだ。

 ちょうどジャネットが洗濯物を物干し竿に干しているところに出くわした。

「ありゃぁ〜〜っ!ボタン様、アナ様、エヴェレット様…」

「ジャネットさん、お久しぶり…ちょっとよろしい?」

「はいはい、どんなご用すかね?」

 アナは洗濯物を見て、その中に男性の下着も混じっていたので…もうこれは「夫婦」だなと思った。

「今からみんなでエルフの村に行きます。それで、これからの事を話し合おうと思います。マックスさんを呼んで来てください。」

「わ…分っかりました…マックスを呼んで来るっす!」

 エルフの村に行くということで、慌ててマックスが出てきて言った。

「な…何でしょうか、何の話し合いですか?」

 アナは少し呆れてしまった。

「何の話し合い…って、あなたたちの事ですよ!神官房を『新婚さんの新居』にしてもらっては困ります!」

「あ…ああ…!」

 マックスとジャネットは恐縮した。

 みんなは神官房からさらに上のエルフの村を目指して森の中の傾斜地を登っていった。

 アナは息を荒げながらボタンに言った。

「はぁっ、はぁっ、ボタン様、すみませんねぇ…」

「いつもセレスティシア殿には鳳凰宮に足を運んでもらっているから、たまにはこちらから訪問しないとな。」

 エヴェレットは当然、エルフの村への道案内だ。アナは誰か道案内がいないとエルフの村へ辿り着く事ができない。

 エルフの村に到着すると、ユグリウシアが出迎えた。

「いらっしゃいませ。あら…お珍しい顔ぶれですね。」

 アナが挨拶した。

「お久しぶりです、ユグリウシアさん。今日はセレスティシア様に相談がありましてまかりこしました。」

 ユグリウシアを見たマックスは叫んだ。

「ユグリウシア様、お久しぶりです!」

 マックスが両膝を折って頭を下げたので、ジャネットも慌ててその真似をした。ジャネットにしてみれば…マックスとヴィオレッタの関係は判るが、マックスとユグリウシアの関係性が今ひとつ判っていなかった。

「奥の談話室に参りましょう。セレスティシアは談話室で神代語の勉強中ですよ。」

「お邪魔でしたでしょうか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

 みんなは談話室に移動し、ユグリウシアはお茶の用意をした。

 ヴィオレッタは神代語の本を閉じて挨拶した。

「これはこれは、みなさん。私にご用があるのでしたら、いつものように『念話』で呼び出してくれれば鳳凰宮に出向きましたのに…。」

 ボタンは言った。

「いや、たまにはこちらからも伺わないとね。」

「それで、今日は何か?」

「マックスの件で…」

 ボタンがマックスとジャネットに視線をやると、二人は地面にひれ伏して土下座に近い状態だった。以前、ヴィオレッタがマックスに激怒した事があり、結果としてそれは許されたものの…二人はヴィオレッタに負い目を感じている。

 みんなが談話室のテーブルにつくと、ユグリウシアがハーブティーを持ってきた。それを飲みながら話をした。

 アナが切り出した。

「セレスティシア様はリーンにお戻りの際、マックスを一緒に連れて行くのでしょうか?」

「そうですねぇ…マックスさんはリーンに帰りたいですか?」

 マックスは土下座のまま言った。

「ははっ…ログレシアス様の葬儀以来、もう一年近くリーンへは戻っておりません。そろそろ、リーンへ戻りたいなと思っておりました。リーンに戻って、セコイアの御神木に拝礼しなければ…そして、親族や友人の顔も拝みたいなと…。」

 エヴェレットが言った。

「御神木への拝礼は必要ありませんよ。あなたは姦淫の罪により、僧侶見習いの資格を剥奪されますから。」

「…うげっ‼︎」

「…『うげっ』とは何ですか、『うげっ』とはっ⁉︎」

 ジャネットはセコイア教について何も理解していなかったので、資格剥奪がマックスにとって良い事なのか悪い事なのか分からず、土下座のまま、ただオロオロしていた。

 ヴィオレッタは腕組みして…

「とりあえず、円卓はまだ席が空いていますから…土下座はやめて二人とも椅子に座ってください。」

「…。」

 二人は恐縮しながら、談話室の円卓の椅子に座った。

 ヴィオレッタは改めて言った。

「まぁ、僧侶見習い…吟遊詩人を辞めるにしても続けるにしても、マックスさんは一度リーンに連れ帰りましょうか…。」

 アナはその言葉を受けて…

「…ジャネットさんはどうなるのでしょう?…マックスさんと一緒にリーンへ連れて行ってもらえないでしょうか?」

「ん…ジャネット?」

 ヴィオレッタはジャネットの顔をまじまじと眺めて、ああ…あの時のイェルメイドか…と思い出した。

「ボタン様はジャネットさんを手放したくないようですが…マックスさんとジャネットさんはもう『夫婦』です。セットとして考えるべきだと思います。ボタン様、セレスティシア様…どうか、二人を引き裂くような事をなさいませんように…!」

 その言葉を聞いたマックスとジャネットは椅子から立ち上がって、再び土下座をした。

 そうか、二人はもう「夫婦めおと」なのか、せっかく男刀おがたな女刀めがたなが揃っているのに、それをわかつのは酷だな…そんな事をボタンは考えていた。

 私とアルフォンスも「華燭の典」を挙げていない身体の繋がりのみの「夫婦」だ。この二人と私たちは同じではないか?…できれば二人が添い遂げられると良いな…。

 ボタンは渋々ながら…

「アナ殿の頼みだ…。どうだろうか、セレスティシア殿、二人をリーンに連れて行ってもらえるだろうか?」

「…分かりました。ジャネットさんは確かランサーでしたよね。イェルマとリーンは同盟を結んだ事だし…『人材支援』と言う事で、リーン軍の兵法指南役としてイェルマからリーンへジャネットさんを派遣してもらうと言う形をとりましょうか。」

 こうして、何とか二人の処遇に関する話はまとまった。その後も、ボタンとヴィオレッタはイェルマ軍の編成やエステリック王国への反攻勢の段取りについて話をした。

 ユグリウシアがみんなの前で…ポツリと言った。

「どなたか、ミスリルをお持ちの方の心当たりはありませんか?」

「ミスリル…?」

 ヴィオレッタは言った。

「伯母上からエンチャントアイテムの作り方を教えていただく予定だったのですが、肝心のミスリルが無くて弱っておりまして…。」

 ボタンは仕切りに首を捻っていた。エヴェレットが…

「リーンに戻れば、ミスリルのアクセサリーを持っている者はいるでしょうが…取りに帰るという訳にもいきませんしねぇ…。」

 実際…ダーナが首飾りにしたミスリルの欠片を持っていて、現在はマスター=ヨワヒムに貸与されている。

 アナはミスリルと聞いて思い当たる節があった。

(ミスリル?…ミスリル…ミスリル…ああ、そう言えば、ユニテ村のクエストで誰だったか、ミスリルコインを選んだ人がいたなぁ。…オリヴィアさん…だったかなぁ…?)

 あの時、アナは22枚の金貨の解呪に必死で、誰がミスリルコインを持っていったかはよく覚えていなかった。それがオリヴィアだったという確信が持てなかったので…この時点ではアナは何も言わなかった。

 ユグリウシアが溜息を吐いて言った。

「もし…ミスリルに心当たりがありましら、みなさん、是非ご一報ください…。」

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