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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百七十三章 エヴェレットとワイン

五百七十三章 エヴェレットとワイン


 ヴィオレッタはエルフの村でユグリウシアたちと一緒に夕食を摂っていた。すると、しばらくしてエヴェレットも祭事館から戻ってきた。

「もう秋ですねぇ、日が暮れるのが早くなりました。暗いと森は迷子になりそうですね…。」

「エヴェレットさん、お疲れ様です。祭事館はまだ忙しいですか?」

「アナさんがコッペリ村に出向かれたので…まぁでも、落ち着いては来てますね。」

「そうですか…。」

 ユグリウシアがエヴェレットのためにパンとスープを運んできた。エヴェレットはちょこんとお辞儀をして食べ始めた。

 ヴィオレッタはエヴェレットの明らかに疲れた顔を覗き見て…迷いながらも言った。

「疲れているようですね…そう言えば、コッペリ村で良いものを貰ってきました。これで少しは疲れも癒やされるんじゃないでしょうか?」

 ヴィオレッタはテーブルの下から陶器のボトルを出してテーブルの上に置いた。

「何ですか、それは?」

「実は昨日いただいた物なんですけど…ちょっと迷いまして。でも、頑張ってくれるエヴェレットさんにはご褒美をあげないといけないなと思い…遅ればせながら。」

「…はぁ?よく分かりませんが、セレスティシア様が私にプレゼントをくださるなんて珍しいですね…。」

「叔母上もいかがですか?…最上級のワイン。」

「ふふふ、ご相伴に預かろうかしら。」

 エヴェレットはというと…「最上級のワイン」と言う言葉に胸がときめいていた。ヴィオレッタは飲まないので…ユグリウシアが自分とエヴェレットとペーテルギュントのコップを用意して来てボトルの栓を開けた。芳しい香りが放たれて…周りを漂っていたフェアリーたちが一斉にボトルに集まってきた。

 ヴィオレッタは面白がって言った。

「へぇ〜〜…フェアリーって臭いが判るんだ?」

「かなり個体差はありますけど、花の蜜や花粉を好む子もいますからねぇ…」

 もちろん、エヴェレットにはフェアリーは見えていない。エヴェレットは言った。

「と…とても良い匂い。お…美味しいんでしょうかねぇ…?」

 美味しいに決まっている。エヴェレットの口調は少し上擦っているようにも聞こえたが、ヴィオレッタとユグリウシアは何も言わなかった。

 四人は話をしながら、食事を続けた。

「セレスティシア、イェルマはどんな具合?」

「最終局面ですね…うまくすれば、イェルマもリーンも同盟三国も…全部丸く収まるんじゃないかな…」

 そう話しつつも…ヴィオレッタとユグリウシアは横目でエヴェレットを注視していた。

 エヴェレットはパンを食べながら注がれたワインをひと口飲むと…目をひん剥いてコップを二度見した。ヴィオレッタは声を出して笑いそうになったが必死で堪えた。

 ペーテルギュントが言った。

「セレスティシアはリーンに帰るんだよね…」

「はい。」

「その時に、僕もドルイン自治区まで着いて行っても構わないかな?」

「あっ、エスメリアさんと会うんですね⁉︎もちろん構いませんよ!」

 ペーテルギュントは…ユグリウシアから離れる決心をしたようだ。

 すでにエヴェレットのコップは空になっていた。エヴェレットは物欲しそうな顔をしてヴィオレッタに言った。

「こ…このワイン、美味しいですね…さすがは最上級ですね…。」

 ユグリウシアは言ってみた。

「エヴェレット、もう一杯いかが?」

「えええ…晩酌なので…でも、そう仰ってくださるのならもう一杯…少な目で結構です…。」

 ユグリウシアがエヴェレットのコップにワインを注ぐと…エヴェレットはすぐにそれを一気飲みした。

(うわっ…一気飲みしおった!)

 ユグリウシアが慌てて話題を作った。

「…セレスティシア、どうしましょうか…あなた、エンチャントアクセサリーの作り方を教えて欲しいって言ってましたね?」

「はいはい…是非教わりたいです!私はイェルマ軍には同行しません。なので、イェルマ軍がエステリックに行って戻ってくる往復四週間の間…引き続きここにいますけど…。」

「そうですか。エンチャントはとても難しい魔法です…私もこの十年くらいご無沙汰しております。色々と準備が必要なのですよ…」

 痺れを切らせたエヴェレットが行動に出た。

「あの…そのボトルの中身はまだ残っていますか?ワインは残しておくといけないので…私が飲み切ろうと思います…。」

「まだたくさん入っていますので…栓をすれば明日も飲めますよ?」

 エヴェレットが突然立ち上がって叫んだ。

「それはいけませんっ‼︎」

(うひゃ…‼︎)

「いえ…私が言いたかったのは…これは最上級なので、私が責任を持って保管しようかな…とか…?」

「まぁ…このワインはエヴェレットへのプレゼントなのですから、それが筋でしょうねぇ。あなたが保管しても全然構いませんよ。」

「それではっ…私は明日も早いので…!」

 エヴェレットはテーブルの上の陶器のボトルを引ったくると、そのまま自分の円形家屋に持ち去ってしまった。パンもスープも食べ掛けのままだった。

 ヴィオレッタは言った。

「面白いですねぇ…でも、やばいですねぇ。あのワイン、ひと晩も保たないでしょうねぇ…。」

「良いんじゃないでしょうか、それでエヴェレットの疲れが少しでも取れるのなら…。」

「…取れますか?」

「…まぁ、ぐっすり眠れる事は請け合います。」

 次の日、エヴェレットはお昼前まで寝ていた。結果として、エヴェレットの疲れはだいぶ癒やされた…かもしれない。


 ヴィオレッタとエヴェレットを見送った後、ユグリウシアはエルフの村の老エルフたちの円形家屋を訪ねて回った。

「セレスティシアにエンチャントの手解きをするために、また…お願いできませんか?」

「んんん、この前あげた指輪が最後で…もう、ミスリルのアクセサリーは残ってないよ。プラチナじゃダメなのかい?」

「プラチナ単体では、エンチャントの成功率が極端に下がってしまいます…。せめて、ミスリル合金…せっかくセレスティシアに伝授するのだから、成功例を見せてあげたいのです…。」

 ユグリウシアは他にも老エルフの家を回ったが、結局、ミスリルを入手することはできなかった。

 ミスリルは非常に貴重な金属だ。この大陸でその産出が確認できているのは魔族領だけで、その南に位置するリーン、同盟三国、さらにこのイェルマ渓谷においてはミスリルの存在は皆無に等しい。

 西にある伝説の島…「エルフの故郷」はミスリルを豊富に産出していた。老エルフたちは海を渡ってこの大陸に移住してきた際、指輪や首飾りなどのアクセサリーとしてたくさんのミスリルを持ち込んでいた。ユグリウシアはそれを使わせてもらってエンチャントの研究をしていたのだった。そのミスリルも…ついに底を突いてしまったのだ。

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