五百七十一章 コッペリ村の支援
五百七十一章 コッペリ村の支援
イェルマの鳳凰宮に戻ったボタンはすぐに魔導士を通して祭事館のアナにコッペリ村への出動を要請し、黒亀大臣のチェルシーにはコッペリ村の食糧支援について相談した。
「チェルシー、コッペリ村はイェルマの領土になると思う。その村人が腹を空かせている…どうだろうか?」
「分かりました。何とか、食糧を捻出してみましょう…。」
「お…。私はきっと断られるだろうと思っていたが…?」
チェルシーは笑っていた。チェルシーは昔、貴族の下で屋敷全体を切り盛りする差配役をしていて、濡れ衣を着せられてイェルマに逃げ込んだ。貴族を憎むのと同じくらいに、貴族に虐げられた者に対してはより深い憐憫の情を持っていたのだ。
ヴィオレッタは言った。
「ボタン殿、交渉材料は確保しました。イェルマ軍の再編成をお願いします。できるだけ早く…エステリックに侵攻しましょう。」
交渉材料とは…捕虜にしたレンブラント将軍たちの事である。彼らはみんな上級貴族であり、人質としての価値は非常に高い。
「セレスティシア殿、あのカイルとかいう男の死体はどうする?奴ら、大事そうに麻袋に入れて荷馬車に乗せていたぞ。」
「カイルの死体も連れて行きましょう。父親はエステリックの軍務尚書…死体になっても彼の価値は高いのです。だから、持ち出そうとしたのですよ…。貴族は自分の身内の遺体は大切にして葬式を挙げるのに、目下の者たちの遺体は野ざらしでも何とも思わない…どうしようもない連中ですよ。」
「分かった。でだ…軍の再編成なのだが、中堅の1000人近くが死んだ…負傷者もいるので、戦える兵士は約1500くらいだ。」
「4000にしましょう!」
「…えっ⁉︎」
「戦えなくてもいいんですよ、頭数さえ揃えば…。獣人族は当然として、練兵部OGや生産部の女たちを混ぜて水増ししても構いません。皮鎧と剣を持たせれば立派な兵士です。」
「ほ…本当にそれでいいのかっ?」
「エステリック王国を威嚇するだけですからね。エステリック王国にはもうまともに戦える兵隊はいません…大軍を見せつけて、こちらの要求が通りやすくするのです。私のリーン族長区連邦からも8000ほど参加します…」
「おおお…!」
ボタンは白虎将軍のライヤに言って、兵の動員を急がせた。
ヴィオレッタは付け加えた。
「…あっと、忘れるところだった。レイモンドさんがユーレンベルグ男爵からお金を預かって来ているそうなので…チェルシーさん、キャシィズカフェで今までの取引の決済ができるそうですよ。」
「おお、それはありがたい!」
次の日の朝、イェルマ渓谷から多数の荷馬車が出発した。荷馬車には数人の食堂部門の駆け込み女が乗っていて、お米や小麦、トウモロコシなどの食糧が積まれていた。
荷馬車にはアナと神官見習いの少女たちも乗っていた。イェルマの祭事館はクラウディアやエヴェレットに任せて、コッペリ村のエステリック軍の負傷兵の手当てをするためにやって来たのである。
「確か…宿屋があったわね。そこを野戦病院として使わせてもらいましょう。」
アナたちは馬車一台を宿屋の前に停めると、すぐに手分けしてシーツや包帯などの医療物資を宿屋に運び込んだ。
それと同じくして、馬車を降りた食堂部門の女たちはコッペリ村の大通りに大釜を下ろして、炊き出し用の釜戸を五基設置した。すると、コッペリ村じゅうの家から村人が集まってきて、炊き出しが始まるのを今か今かと待っていた。
荷馬車には…麻袋の陰にオリヴィアが隠れていた。
荷馬車が停止すると、オリヴィアは人知れず降りて猛スピードでキャシキズカフェ目指してすっ飛んでいった。
キャシィズカフェでは、キャシィズカフェの住人とダンの雑貨屋の住人が集まって朝食をとっていた。グレイスの方針で…ライ麦パンとタマネギスープだけという、やっぱり倹しい朝食だった。
養い子で文句屋のヘンリーが言った。
「ねぇねぇ…炊き出しも始まったしさぁ、もっと美味い物食べようよぉ…。」
「バカッ、炊き出しったって、みんな我慢してんだ。うちだけ贅沢はできないでしょ⁉︎」
「でもさぁ…」
ヘンリーは食事をしているダフネの方を見やった。ダフネの食事だけ…何と目玉焼きが付いていた。ヘンリーと目が合うと…ダフネは申し訳なさそうにうつむいた。
「ヘンリーッ!ダフネには産まれたばかりの赤ちゃんがいるんだ、良いおっぱいを出さないといけないから…あれは二人分なんだよ!」
そこに…セドリックに飢えたオリヴィアが飛び込んできた。
「セドリックゥゥ〜〜ッ!」
オリヴィアはみんなの中にセドリックを発見すると、セドリックと仲良く食事をしていた養い子のサシャを押し除けて隣に座った。オーレリィは「やれやれ」と呟いた。
ダフネもオリヴィアと久しぶりに会って声を掛けようと思ったが、こんな風になったオリヴィアは何を言っても聞こえないのでやめた。
「セドリック…元気だったぁ、怪我はなかったぁ〜〜?」
オリヴィアは何度も何度もセドリックに頬擦りした。セドリックは一瞬笑ったが…すぐにその顔は曇ってしまった。
「…僕は大丈夫だったよ。でも…」
「でも…?」
「シルク工場の…機織り機が…全部壊されちゃった…」
「えええええええぇ〜〜〜〜っ⁉︎」
セドリックが涙ぐんでいたので…オリヴィアもエンエンともらい泣きした。
「まぁまぁ、オリヴィア姉ぇ…。あっ、そうだ、ユーレンさんからお金預かってるわよ。」
「なぬっ⁉︎」
「明細書を見ると…お米輸送の護衛料、セレスティシア様逃走時の協力の謝礼…オリヴィア姉ぇの取り分は金貨一枚と銀貨五十八枚ですね。」
「おっ、やったっ!セドリック…このお金で新しい機織り機買ったらいいじゃんっ‼︎」
「…全然足りないよ…機織り機は特殊な道具だから…新品を買い揃えるとなると金貨四十枚は必要なんだ…。」
「うえええっ…金貨…四十枚…⁉︎」
「特殊な道具だから、中古でも出回らないし…僕の持ってた資金はキャシィズカフェとシルク工場建設に使ってしまって、もう残ってないんだ…。養蚕も軌道に乗ってこれからだって時に…」
テーブルに顔を伏せてしまったセドリックをオリヴィアは両腕で優しく抱いた。
「だ…大丈夫よ、セドリック…。何とかする…私が絶対何とかする…。」




