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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百六十七章 最終決戦 その1

五百六十七章 最終決戦 その1


 依然として、エステリック軍とイェルマ軍はイェルマ橋を挟んで睨み合っていた。しかし、その裏でヴィオレッタは機を逃すまいと着々と準備を進めていた。

 コッペリ村の宿屋のエステリック軍の作戦本部に急を告げる情報がもたらされた。それをもたらしたのは、何とコッペリ村の鳩屋のクラインだった。

「将軍閣下、お取り込み中申し訳ございません。エステリックより鳩が参りまして…どうも火急の報せのようでございます。」

「何、本国からだと…非常に珍しいな…。」

 そもそも、距離が遠すぎてエステリック本国から直接の「念話」は届かないので、連絡には「軍鳩」を使っている。その「軍鳩」も、コッペリ村に巣を持つ「軍鳩」がいないので、エステリック本国からコッペリ村に飛んでいく「軍鳩」はいない。それはティアーク、ラクスマンも同じだ。コッペリ村に飛んでいく鳩を持つのは鳩屋だけである。鳩屋は鳩をコッペリ村で卵から育て、その後コッペリ村の鳩舎を故郷だと認識させた鳩をエステリックやティアーク、ラクスマンの鳩屋に馬車で移動させているのである。故に、機密漏洩の危険はあるが異例中の異例として本国エステリックは鳩屋を利用したのだ。

 レンブラント将軍は小さな筒を開いて中の手紙を読んで、顔色を変えた。

「ううっ…!」

 カイルが言った。

「将軍、どうされました⁉︎」

「ティアークの援軍が…何者かの邪魔によって…滞っておるそうだ…」

「…そんなっ!すぐにでも欲しいのにっ‼︎」

 それを聞いたフォーク司祭長は激昂した。

「何ですとっ⁉︎…すると、我々は…」

「いや、司祭長殿。安心召されよ、ラクスマンが残っておる…リーンや魔族と国境を接し、常に戦争をしている軍事国家のラクスマンの援軍こそが本命。」

「そ…そうか、それを聞いて安心した…」


 宿屋の床下に潜んでいたレイモンドは将軍の言葉をすぐにダンの雑貨屋にいるサムに伝えた。サムはすぐにイェルマのマリアに「念話」を送った。

 鳳凰宮のボタンの部屋で、その情報を受け取ったヴィオレッタは黒檀の椅子から立ち上がった。

「来ました…遂に来ましたっ!」

 ボタンや「四獣」は驚いた。

「セレスティシア…殿?」

「ティアークからの援軍は…来ませんっ!機が熟しました、ここから畳み掛けます…最終決戦は明日早朝ですっ!」

「おおっ!」

「マーゴット殿、コッペリ村のサムさんに『念話』をお願いします!内容は…」

 「念話」の内容を聞いたボタンは…少し狼狽した。ボタンが言った。

「セレスティシア殿、それは…必要な事なのか?」

「…必要な事です。残念ながら、戦争ではよくある事です…。これをやらないとこの戦争はずるずると長引いて…泥沼化する怖れがあります。これをやる事によって、敵の幕僚たちに撤退の決断の機会を与えるのです。」

 ボタンはうつむきがちに言った。

「むむむ、そう言うやり方は…本来私はあまり好きではないが、セレスティシア殿が必要な事だと言うのなら…きっとそうなのだろうな…。」

 勝ち気な性格のボタンだったが、軍師としてのヴィオレッタの才能には兜を脱ぐしかなかった。

 マリアから「念話」を受け取ったサムも…狼狽を隠せなかった。

「…だそうです、レイモンドさん…。どうしますか?」

「俺は斥候職だ…それは、俺向きの仕事だ。セレスティシア様がやれと言うのなら、俺はやる。」

 レイモンドはすぐに雑貨屋の裏口から出ていって、エステリック軍作戦本部がある宿屋へと向かった。

 サムの横には「鬼殺し」を持ったダフネがいた。

「ヴィオレッタ…鬼だな…。だが、卑劣で劣悪なエステリック軍にはちょうど良いかも…。」

 サムは言った。

「これでエステリック軍は…多分、コッペリ村から逃げ出すそうですよ。」

「ええっ、それは本当かっ!」

 ダフネは「鬼殺し」をギュッと握り締めた。コッペリ村がエステリック軍に占領されて約一カ月…言葉では言い表せないほどの屈辱と不自由を味わった。ダフネはエステリック軍に…一発で良いから報復の一撃を浴びせたかった。

 キャシィズカフェのみんなは…ほっとしていた。この数日、事態が急変してエステリック軍の幕僚たちが足を運んでくる回数がめっきり減り、その上、士官クラスが寝泊まりしていた工場や養蚕小屋も負傷兵を残してほぼ空っぽになっていた。それほどエステリック軍は多忙となり、追い詰められていた。

 久しぶりにみんなは静かな朝食を摂っていた。大麦のパンとトウモロコシのスープだけではあったが、それでも…久しぶりに落ち着いた朝食だった。

 キャシィが言った。

「ふぅ…一カ月ぶりかしらぁ…。忘れてたねぇ、この感じ…」

 グレイスが言った。

「何、感傷に浸ってるんだい…あんたには似合わないからやめときな。」

「な…何ですとぉ〜〜⁉︎」

 養い子のヘンリーがパンを食べ終わって、スープを啜りながら言った。

「戦争…どうなってるのかなぁ…。戦争が終わったら、オムライス食べたいなぁ…。」

 キャシィは言った。

「ざっと数えて…エステリック軍はもう1000人も残ってないわ。イェルマ軍をイェルマ回廊出口に釘付けにしてるだけで精一杯って感じだねぇ…。そろそろ、決着がつくんじゃないかなぁ?」

 養い子のカイトが言った。

「どっちが勝つの?」

「イェルマに決まってるでしょっ‼︎」

 すると、キャシィズカフェの裏からレイモンドが忍んできた。それを見つけてキャシィは言った。

「あっ、ちょうど良いところに来た…レイモンドさん、戦争はどうなってるぅ?」

「…いやいやぁ、詳しい事は教えられん。それよりも…少し食べ物と水を分けてくれないかな…」

「また、床下に籠るんですね?」

「まぁ、そういう事だ。」

「斥候さんも大変ですねぇ〜〜。」

 キャシィはレイモンドがコッペリ村で諜報活動をし、その情報をサムを通じてイェルマに流している事を知っている。なので、レイモンドを助けることに尽力を惜しまない。

 キャシィはレイモンドのために大麦パン二個と皮袋の水を用意した。

「ありがとな…んんっ?この皮袋、良い匂いがする…水じゃないな、中に何が入ってるんだ?」

「うふふふふふふ…レイモンドさん、イェルマのために頑張ってくれてるんで、ちょっとした労いの気持ちを皮袋に込めてみましたぁ〜〜。」

 レイモンドが皮袋の栓をとって匂いを嗅いでみると…得も言われぬ芳醇な香りがした。

「ぬおっ…酒かっ!」

「おや、レイモンドさん…ワインを知らないんですね?」

 レイモンドはワインなる物をちょっと口に含んでみた。

「ぬおおおおっ!…何じゃ、こりゃ⁉︎…これがワインか、ちょっと酸っぱいが…こんな美味い酒、初めて飲んだぞっ‼︎」

「あひゃひゃひゃ、いける口ですねぇ。ワインの中でも最上級…将軍が持って来た一等級ですからねぇ。それ飲んで、お仕事頑張ってくださいね。」

「うひひひ…床下は結構、しんどいのだが…良い楽しみができた。ありがとな!」

 九月も中頃を過ぎて…突き刺すような日差しも和らぎ、風も秋の気配を感じさせていた。それでも、床下となるとやはりじめじめしてその中での諜報活動はなかなかにきつい。これからレイモンドは深夜まで床下に籠らなくてはならない。


 次の日の朝、事態は急変した。

 ヴィオレッタの指示によって、物見櫓のアーチャーが使う阿弥陀籤状の階段を使って前日からアーチャーのほぼ全軍がイェルマ回廊の左右の絶壁に登って、コッペリ村側の回廊出口まで移動して隠れて布陣していた。そのアーチャー部隊に、イェルマ回廊出口で長蛇の列をなしたイェルマ軍主力2000の指揮官…ボタンが総攻撃の命を下した。

「アーチャーッ、射ち方始めえぇ〜〜っ!全軍、攻撃準備…絶対にイェルマ橋だけは落とさせるなぁ〜〜っ‼︎」

 左右の崖の上のアーチャー部隊がコッペリ村端に布陣するエステリック軍に矢の雨を降らせた。右の崖の上のアルテミスが叫んだ。

「よく狙って射てっ!魔導士を狙えっ‼︎」

 左の崖の上のアーチャー部隊の隊長タチアナは…ひとり、二人とローブ姿の兵士を正確に狙撃していた。

 ヴィオレッタが言うところの「最終決戦」…ボタンは総大将として出陣していた。さらにその背後には…「蒼竜将軍」のマーゴット、「白虎将軍」のライヤ、そしてアルフォンスもいた。まさしく「最終決戦」だった。残念ながら…他の房主たちは老齢のため、参加していない。

 後方では、ヴィオレッタがセイラムと一緒に馬に乗ってついて来ていた。セイラムは初めて触れる「馬」なる生き物に興味津々ではしゃいでいた。予知で馬のイメージを見たことはあるが…やっぱり「なま」は違う!

(…追撃をするためにも、絶対にイェルマ橋は死守しなくては…!)

 ヴィオレッタの予測では、最終的にはエステリック軍はイェルマ橋を落としてイェルマ軍の追撃を封じ敗走するのであるが…そうさせてはならない。そのために、いざとなった時に大精霊を召喚する準備をしていた。

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