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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百六十四章 ボタンとアルフォンス その6

五百六十四章 ボタンとアルフォンス その6


 あれから四日が過ぎても、ボタンは悶々としていた。

 日の出ているうちはイェルマ城門前広場や祭事館に顔を出し、夜になるとする事がないので…鳳凰宮の女王の居室で本を読んだ。自分の部屋にある本といえば「渓谷の夜は切なくて」しかない。読んでいるうちに…アルフォンスの事が頭にちらついて、ついには我慢が出来なくなってしまった。

(じっくり考えるまでもない…!何とかして、アルフォンスをイェルマに留めるっ!)

 夜の九時頃、ボタンは自室を出た。

 警護のアルテミスが言った。

「…いってらいっしゃい、ごゆっくり。」

「んん?…うん。」

 ボタンが一階の厨房の二つ隣の部屋を訪ねると、アルフォンスはいなかった。

(…まさか、もう出立してしまったのか⁉︎)

 ボタンは慌てて鳳凰宮を飛び出した。

「あっ…ボタン様、どちらへ…?」

 門番のアーチャーの声を振り切って、ボタンが数十歩走った時…ボタンの視界にアルフォンスが飛び込んできた。

「アルフォンスッ‼︎」

「やぁ、ボタン。そんなに慌ててどうしたのだ?」

 アルフォンスは左肩に三つの麻袋を担ぎ、右手でロバの手綱を引いていた。

「ど…どこに行っていたのだっ⁉︎」

「いや、泉のそばに荷車とロバを置きっ放しにしてたからな…大事な物をここに運んできたのだ。すまないが、ロバは鳳凰宮の馬屋で預かってくれないかな?」

「…何だ、そうだったのか。部屋にいないから、てっきり行ってしまったのかと…」

「はははは、そんな訳ないだろう!」

 そこに門番の二人のアーチャーが駆けつけて来た。

「ボタン様、どうされました⁉︎」

 ボタンは顔を真っ赤にして…二人のアーチャーに言い放った。

「な…何でもないっ!それよりも、早くこのロバを馬屋に連れて行け、水と飼葉もなっ!」

 アーチャーたちがロバを馬屋に連れて行く間に、ボタンはアルフォンスの腕を引っ張って鳳凰宮へと入っていった。

 部屋に入ると、アルフォンスは麻袋のひとつを開けて中身を確かめてた。そして、仕掛り品の刀の一本を取り出して…

「この刀…錆だらけだけどな、もしかしたら名刀かもしれん。マーラントの市場でナマクラと一緒に売られていた。まぁ、暇だし研いでみようかなと思ってな…。」

 ボタンは意を決して言った。

「アルフォンス、やっぱり行くなっ!ここに残って…ここに残って、私とずっと一緒にいろっ‼︎」

 麻袋から三枚の砥石を出そうとしていたアルフォンスの手がピタリと止まった。そして、しばらく考えて…言った。

「俺は…ちょっと可愛い女をめとり、夫婦になって旅をしながら勇者候補を探す…それが俺の理想だった。もう何十回、女に求婚しただろうか…。しかし、このイェルマでちょっと可愛いどころでない絶世の美女に出会ってしまった…それはボタン、お前だ。イェルマの東城門で会った時から一目惚れしていた。今、お前の気持ちを聞いて…俺もお前と離れたくはない、できる事ならイェルマに留まりたい。しかし…ここに留まる事はできないのだ…。」

「うううぅっ…‼︎」

 思い余って…ボタンはアルフォンスにしがみつきその体を預けた。アルフォンスはボタンの体を受け止めて床に倒れてしまった。ボタンは力の限り両腕でアルフォンスの体を締め付け、その胸の中で泣いた。

 そのまましばらく…時間が経過していった。そして…

「ボ…ボタン、お前に俺の愛刀『ヒコシロウサダムネ』をやる…。」

「…え…?」

「そ…その代わり、お前の体をくれ。お前の体は…『ヒコシロウサダムネ』よりも価値があるからな、交換だ。『うん』と言えっ!」

 これは自分の気持ちとボタンの気持ちを何とかしたいと言う…アルフォンスの苦し紛れの決断だった。

「……うん。」

 二人は床から起き上がると…寝台の上に横たわり折り重なった。

 ボタンの思いはただひとつ…

(一緒にいられないのなら…せめて、アルフォンスの子供が欲しい…!)

 朝の五時頃、ボタンは三階の自分の部屋に戻ってきた。

「おはようございます、ボタン様。」

「おおっ、おはよう、アルテミス!つ…つい、うっかりアルフォンスの部屋で寝入ってしまってな…」

 ボタンの声には張りと艶があり、顔もはつらつとしていた。それを見て取ったアルテミスは上手く事が運んだのだなと確信し、自分の事のように嬉しかった。

「ボタン様…」

「な…何だ?」

「六時には私と交代でタチアナが来ます。それまでにはお戻りください。」

 ボタンは顔を真っ赤にして言った。

「わ…分かった。それまでには必ず…戻る…。」

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