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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百五十章 嵐の前の…

五百五十章 嵐の前の…


 イェルマ回廊出口では、いまだエステリック軍とイェルマ軍の両陣営が睨み合っていて、双方動く気配はなかった。そんな状態が一週間以上続いていた。

 鳳凰宮三階の女王ボタンの部屋。

「敵は全く動きを見せないな…」

 ボタンの言葉にヴィオレッタが反応した。

「今のうちにイェルメイドたちにはしっかりと休息をとってもらいましょう。次の戦闘は今までになく厳しいものになるかもしれませんから。」

「うむ…。」

 エステリック軍が動きを見せないので、イェルマ軍の二交代制が復活した。

 ボタンは二交代制復活を決めた後、しばらくしてある事に気付いた。

(あっ、しまった…泉にはアルフォンスが…!)

 「待機組」となったイェルメイドたちは何はともあれまずは水浴びをするために、大挙して北の三段目を目指した。

「湯浴みしたいわぁ…髪がもうベトベト…。」

「湯殿でお湯を沸かすか⁉︎」

「沸かそ、沸かそっ!」

 茹だるように暑い昼下がり、アルフォンスは泉に浸かって隣のリザードマンと歓談していた。

「そこもとはどこの出身でござるか?」

「生まれはラクスマンだが、ずっと世界を放浪しておったよ。なかなかに面白い旅であったなぁ。」

「ふむふむ…言葉が近いせいか、そこもとには親近感を覚えるでござるな。」

「そ…そうかな、言葉が似ておるかな?」

 するとそこへ「待機組」のイェルメイドの集団がやって来て、泉のそばで皮鎧や鎖帷子、麻のシャツ、ズボンを脱いで、アルフォンスの前に惜しげもなくその裸体を晒した。

ドボォ〜〜ン、バシャバシャッ…!

 とりあえず次々と泉に飛び込んだイェルメイドたちはひと息吐いて、泉の先客たちにようやく気がついた。

「ありゃっ、リザードマンがいる。いち、にぃ、さん…げっ、100以上?半分がここにいるのか⁉︎」

「うう、狭い狭い…こら、トカゲ!良い加減に出てけ‼︎」

「こんなに一度に浸かったら…泉の水がぬるくなっちゃうじゃんっ!」

 イェルメイドのひとりが気付いた。

「…うおっ…男がおるっっ‼︎」

「えっ?」

「どこどこっ!」

「…幻覚じゃね?」

 イェルメイドたちの視線が一斉にアルフォンスに集中した。一糸纏わぬイェルメイドたちの姿を目の当たりにして…気遅れしたアルフォンスはみんなを刺激しないように、ゆっくりと泉から出て、ゆっくり体を拭き、ゆっくり衣服を着た。

「おい、お前っ!どっから来たぁ、何で『男』がここにいるんだぁ〜〜っ⁉︎」

 何十という突き刺すような視線に…アルフォンスはズボンのポケットから「魚璽」を出した。

「まぁ、待て…俺は通行人だ。決してエステリック軍の兵士ではないぞ。」

 それを見たイェルメイドたちは…コロリと態度を変えた。

「…東城門から来た通行人かぁ〜〜っ!そっか、そっかっ‼︎」

「えええっ…ちょっとあなた、お名前教えてくれるぅ…?」

「良い体してるじゃん…一緒に食堂でちょっと飲まない?」

 アルフォンスは言った。

「うぅ〜〜ん、困ったなぁ…ここから動くとなぁ…。」

 するとそこにボタンが慌てて駆け足でやって来た。女王ボタンを見るや、アルフォンスを誘っていたイェルメイドたちは固まった。

「これはボタン様…」

 ボタンはイェルメイドたちを見て…ハッとして、少し紅潮した。

「み、みんな…ご苦労っ!」

「ボタン様、えっと…『男』がいますっ!」

「むっ…ア、アルフォンスは『客人』なのだ。東城門で我々に力を貸してくれたのだ。すまなかった…すぐに連れて行く…!」

「連れて行く…どこへ?」

「どこって…も、もちろん…鳳凰宮…いや、神官房だ。」

「ええぇ〜〜っ!…連れて行っちゃうんですかぁ〜〜?紹介してくださいよぉ〜〜っ!」

「アルフォンスはこの戦争が終わったら、すぐにイェルマを出て行くのだ…ほらみんな、水浴びを続けてくれっ!」

 ボタンはアルフォンスをイェルメイドたちから引き離すため、腕を無理矢理引っ張って北の三段目から強制連行していった。

「ボ…ボタン、待て。ロバと荷車が…」

「あ、後で何とかするっ!」

 ボタンたちは北の五段目の神官房に到着し、二人して神官房の中に入った。

「ここは…?」

「すまない、アルフォンス。しばらくここで…お?」

 入ってすぐの神官房の講堂にマックスとジャネットがいて、親密そうにお互いもたれ掛かって長椅子に座っていた。

 ボタンに気づいて、ジャネットは驚いた。

「あっ、ボタン様っ⁉︎」

「なぜ…神官房に人がいるんだ…?」

「その男の人は誰…っすか?」

「う…その、客人だ。どうしよう…うん、そうだ…すまないが、彼をしばらく神官房で預かってくれ…。」

「ええぇ〜〜…」

 ボタンはアルフォンスを神官房に預けると、そそくさと出ていった。

 マックスは久しぶりに見る男の姿にちょっと興奮していた。

「やぁっ、僕はマックスです。よろしく!」

「…アルフォンスだ。」

「ここは女性ばっかりで男の人と話をするのは久しぶりですよ!ええと、客人という事は…まぁ、とりあえず座ってくださいよ。ジャネット、お茶をお出しして…。」

 ジャネットは厨房に引っ込んだ。二人だけの世界に突然よそ者が入り込んできて…ジャネットの気持ちは少し複雑だった。


 タビサはイェルマの鍛冶工房で新しい武器を作ってもらって痛くご満悦だった。新しい矛…「蛇矛」をブンブン振り回しながらタビサはオリヴィアに言った。

「これ、面白いやんかっ!槍先がヘビみたいにくねくねしとるっ‼︎」

「それで敵を突くと、槍よりも傷口が大きくなるのよ。両刃のほこだから横に振っても斬れるわね。」

「オリヴィア、ちょっと対戦してみようやっ!」

「おっしゃっ!」

 二人は鍛冶工房の外に出ると、蛇矛VSオリヴィアスペシャルマークⅡで軽く打ち合いを始めた。

カンッ、コンキン…カカンッ…

「タビサちゃん、斬る時は刃を立てて…寝かせちゃダメッ!」

「むむむぅ…難しいにゃ、これ…」

 ケイトはスモールシールドを右腕に装備して、ドーラとベラ相手に左利きになるための特訓をしていた。ドーラのロングソードをスモールシールドで受けて左のバトルアックスをベラが構えたラージシールドに叩き込んでいた。

「良いな、その調子、だんだん様になってきたな!」

「でもさ、テンパっちゃうと…咄嗟に右手で殴ろうとしちゃうんだよね…。」

「だったらさ…右手にトマホークを持てば?トマホークなら小振りで軽いし…。」

「あ…それ、いいかも…!」

 鍛冶工房のアヤメと戦士房OGのドミニクたちは、回転砥石で剣の刃を研ぎながら…オリヴィアたちの様子を微笑んで見ていた。

ガンッ!ガンッ…ガシッ!

「よくもやってくれたわねぇ〜〜っ…コン畜生おぉ〜〜っ!」

「うにゃにゃあぁ〜〜っ!それはこっちの台詞じゃあぁ〜〜っ‼︎」

 軽い打ち合いのはずが、オリヴィアとタビサはヒートアップしてしまって…本気モードに突入し掛かっていた。

 オリヴィアがマークⅡの先端の砂蟲の歯の鞘を外そうとしたので、みんなしてそれを止めた。

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