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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百四十八章 ヴィオレッタのピースたち

五百四十八章 ヴィオレッタのピースたち


 ハヤブサを介してヴィオレッタが行った指示をグラントはしっかりと紙に書き留めた。そうでもしないと、覚えられなかったからだ。

 グラントは馬車を曳いてホイットニーの家に寄った。

「レンドさん、ピックさん、ガレルさんはいるかい?」

 すると、家の戸が開いてシーラが飛び出して来た。その後をスタリーがハイハイと這って追いかけようとしたが、ルルブが捕まえてヒョイと抱き上げた。

「お父ちゃんならいるよぉ〜〜!」

「他の二人は?」

 ガレルが出てきて、その質問に答えた。

「二人は今、向こうの放牧地で牧草刈りをしてる。三人だけだからな…今から始めないとすぐに冬になっちまう…」

「セレスティシア様から指示があった。手が空いてる斥候は俺と一緒に来てくれないか?」

「お…ちょっと待ってろ、レンドとピックを呼んでくる!」

 ガレルがレンドとピックを呼んでくる間、グラントはシーラのお喋りに付き合わされた。

「あんねぇ、グラント。あそことあそこのうチがねぇ…今度、赤ちゃん産むんだよぉ〜〜。」

「うち…?ああ、牛かぁ…牛がいっぱいになったらいいねぇ。」

 グラントは二人の斥候を馬車に乗せて出発した。

 結局、グラントの馬車にはレンドとピックが乗った。ホイットニーの家にひとりは男手が必要だという事で、右腕が義手のガレルが残ることになった。ガレルは思った。

(俺ひとりで冬までに…牧草刈りを終わらせる事ができるだろうか…⁉)

 グラントたちは三日掛けて、ラクスマン城下町の南門に到着した。

「レンドさんとピックさんはここからティアーク領のオリゴ村に移動してくれ。そこにエビータさんがいるはずだよ。」

「分かった。」

 グラントは二人を残して城下町の南門に入っていって、大通りにあるポットピットの穀物問屋を目指した。

 穀物問屋に到着すると、四人の奉公人が出てきて馬車を馬屋に連れて行き、グラントは三階のポットピットの部屋に案内された。

 ポットピットの部屋には、ダスティン、ポットピット、そしてウィリー、アンソニー、ボイドがいた。

 ダスティンは言った。

「グラント、どうだった?セレスティシア様は何て?」

「はい、これ。」

 グラントはダスティンに紙切れを渡すと、テーブルの上の一等級のワインボトルに手を伸ばした。グラントがワインをコップに注ぎ、ゴクゴクと飲んでいる横で、ダスティンはポットピットと一緒に紙に書かれている内容を目で追った。

「…二週間後にラクスマンの軍隊が、イェルマ侵攻をしているエステリック軍の救援に出るらしい…。それと同時に、反抗勢力は蜂起して王城を攻めて欲しいだって…」

「すると、セレスティシアはリーン軍を動かしてくれるんじゃな?」

「ここに書いてある…王城を攻め始めたら、リーン軍もラクスマン領に突入させるって…」

「イェルマでの戦争で、エステリック軍はかなりの損耗を強いられたのは情報として知っておるが…本当にラクスマンに援軍要請をして来るじゃろうか…?」

「セレスティシア様がそう言ってるんだから、間違いないだろう。」

「…。」

 ポットピットはウィリー、アンソニー、ボイドに確認を入れた。

「反乱軍の仕上がりはどうじゃ?」

「仕上がりって言ってもなぁ…ど素人の集まりに武器と防具を買い与えただけだ。あまり、期待はせん方がええな。」

「南は何人じゃ?」

「約300。」

「西は?」

「約450。」

「東は?」

「約500だな…。」

「儂の北を併せると、約1800かぁ…何とか儂ら四人だけでも王城の内側にたどり着けたら良いがな…」

 ダスティンは言った。

「お前たち…死ぬつもりか?」

「貴族王族を皆殺しにできるなら、一緒に死んでもええのぉ…。」

 ウィリーが言った。

「俺たちも貴族どもに泣かされたクチよ。恨み骨髄に至るってな…ボイドなんか、両親を貴族に殺されたんだぞ。アンソニーは小さい頃から終身奴隷だったしな…。」

 そう言うウィリーも幼い頃に借金のかたに父親から娼館に売り飛ばされ、男娼として貴族の相手をさせられた。あの頃無学だったウィリーは、いつか身籠るんじゃないかと思って不安で不安で仕方なかったと言う…。

「…二週間と言ったが、グラントがここに来るまでに三日を費やしておる。正味十五日といったところか…すぐに準備に取り掛かろう。」


 レンドとピックは徒歩で三日かけてオリゴ村に到着した。

 レンドたちはリーン以外での生活は初めてで、木造の建物が建ち並ぶオリゴ村を大都市だと思った。

「凄いな…建物が密集して建っているぞ。」

「あの一番大きい建物は何だろう…リーン会堂と同じくらいか?…旅人の振りをしてちょっと入ってみるか?」

「…警戒を怠るなよ。」

 そこはオリゴ村の宿屋だった。

 二人は素知らぬ顔で一階ホールのテーブルに座った。すると…数人いた宿屋の客が一斉に二人をジロジロと眺め始めた。

「…何なんだ?こいつら、なぜ俺たちをめつけるんだ?」

「…分からん。」

 二人は居心地が悪くなって、何も注文せずにそそくさと宿屋を出た。宿屋を出た途端…

「あっ、レンドさん、ピックさん…何でここに⁉︎」

 少年に声を掛けられた。それはティモシーだった。

「おおっ、ティモシー!」

 ティモシーは二人を見ると、慌てて二人を村の外れに連れて行った。

「こっちこっち…二人とも、何で尖り耳を隠さないんですかっ⁉︎」

「え…?あっ!」

 リーンではハーフエルフも多く、尖り耳は普通だったので…リーンに長くいた二人はその事を失念していたのだ。

 手拭いをバンダナのようにして頭に縛りつけ耳を隠した二人は、ティモシーと一緒に村外れの一軒の小屋に入った。ここはベンジャミンたちが村長に話をつけて借り切った農家の空き家だった。

 そこにはエビータとベロニカ、そしてベンジャミン率いる傭兵たち総勢十人がそれぞれ椅子に座っていた。

 ベンジャミンたちは戦争参加を避けて、オリゴ村に逃げて来たのだが、なぜオリゴ村か…特に何かをしようでもなく、ベロニカが「近くにオリゴ村がある」と言ったからだ。

 ベンジャミンは二人を見て驚いた。

「お前ら、誰だ?」

「…えっ!」

 すると、エビータが立ち上がって言った。

「紹介する…私の仲間のレンドとピックだ。私が呼んだ。」

「…何だと?」

 もちろん、レンドとピックをエビータに合流させたのはセレスティシアの指示だ。

 ベンジャミンは嫌な予感がした。

(あまり自己主張をしないエレーナが俺を無視して仲間を呼んだだと?…俺たちをハメたのか?…何をするつもりだ⁉︎)

 続いてベロニカが言った。

「みんなぁ〜〜っ!ここで盗賊をやりましょぉ〜〜っ‼︎この付近を通る馬車を襲うわよぉ〜〜っ‼︎」

 あれ?…元に戻った、ひと月前と同じ状況になった…傭兵たちはそう思った。

「そうだったのかぁ…まぁ、戦争に行って死ぬよりは、盗賊の方がましか。早く言ってくれよぉ、ベンジャミン。」

 ベンジャミンは仲間の言葉を無視してベロニカに言った。

「盗賊は良しとしよう。だが、どうしてわざわざ、そこの二人が俺たちのグループに加わるんだ、その必然性は?」

「仲間は多い方が良いに決まってるじゃぁ〜〜ん!」

「おいっ、バカにするな!」

「ゴチャゴチャとうるさいわねぇ…。ねぇ、エビータ、こいつ…吊るしちゃおうよ。魔導士がひとり減ったって、できるんじゃない?」

(エビータ…エレーナがエビータ?エレーナは偽名⁉)

 エビータは言った。

「待て、ベンジャミンは頭が切れる。戦力として残しておいた方がいい。」

「お前ら…最初からグルかっ!何を企んでる…おいっ、みんな…」

 ベンジャミンが仲間をエビータとベロニカにけしかけようとした時…エビータが二本のナイフを抜いた。それに呼応して、ティモシー、レンド、ピックもナイフを抜いて、狭い小屋の中で5対9で対峙した。

 ベロニカは微笑みながら言った。

「やめときなよ。エビータから聞いた話だと…この三人はみんなエビータと同じくらい強い斥候らしいわよ。エビータ、九人を始末するのに何秒かかる?」

 エビータは淡々と答えた。

「そうだな、四人で『セカンドラッシュ』を同時に使えば一回で済みそうだから…一秒かな。」

 エビータは冗談を言わない…ベンジャミンは戦慄した。

 カールが言った。

「ベ…ベンジャミン、どういう事だ、何が起こってるんだ?俺たちは…カマキリ夫人と闘うのか?」

「いや…闘わなくてもいい。」

 ベンジャミンは両手をあげて、それから言った。

「…降参だ。ちょっと話をしたいんだが良いか?」

「いいわよぉ〜〜ん。」

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