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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百四十七章 チネッテの死

五百四十七章 チネッテの死


 ティモシーはパン屋、粉屋、薬屋に寄り、日が暮れると荷車を引いてチネッテのアパートメントに戻って来た。

 ティモシーは買い物袋を抱えて、チネッテの部屋に入った。

「おばさん、具合どお?」

 窓を開け放たれてもなお暗い部屋で、チネッテは寝台の上で寝ていた。

「ああ…だいぶ楽になったよ…。」

「すぐに晩ご飯作るからね…薬も買ってきたよ。」

「薬だって…そんな高いモン、要らないよぉ…お金は大切に使わなきゃ…」

「ダメだよ、ちゃんと薬を飲んで早く元気にならなくちゃ…!」

「ありがとねぇ…ありがとねぇ…」

 ティモシーは一階の共同の厨房でトウモロコシのオートミールを作り、二人でつましい夕食を摂った。その後、滋養強壮の薬を一服飲ませた。

「おばさん、明日…薬師さんのところに行ってみない?」

「いや、いいよ…薬師に掛かると、べらぼうなカネを取られるからねぇ…」

「…命はお金には変えられないよ?」

「いいって、いいって…あたしゃ行かないよ…。」

 チネッテの容態が急変したのは深夜になってからだった。

 チネッテの咳き込む声でティモシーは目が覚めた。ティモシーは急いで燭台に火を点けた。

「おばさん、おばさん…⁉︎」

「ゴホッ、ゴホ…ああ、あたしはもうダメみたいだよ…」

「そんな事言うなよっ!」

「もう、七十三年も生きた…充分だよ。最後にトムに会えてよかった…まるで孫を世話してるみたいで楽しかったよぉ…」

「もっと生きれるってっ!…頑張ろうよっ‼︎」

「トム…戸棚の一番下の引き出し…」

「ん…?」

 ティモシーが壊れかけた小汚いクローゼットの一番下の引き出しを開けると、一枚の羊皮紙と小さな皮袋があった。

「あたしがあんたに遺せる物は、それっぽっちしかない…ごめんねぇ…。お金は公証人役場で使って、ちょっと減ってるけど…」

 ティモシーが確認してみると、皮袋には金貨七枚と銀貨八十枚が入っていた。そして羊皮紙には…「アパートメント三階の角部屋をトムに相続させることを、チネッテがここに証明する」旨の内容が書き留められていた。それには公証人役場の印鑑が押印されており、法的にも正式な書類になっていた。そして、金貨七枚と銀貨八十枚というお金は、ワグナー邸の鉄製の古い釜戸を売って得た金貨八枚を…ほぼ手を付けずに残したお金だった。

「おばさん、おばさん〜〜…ううっ!」

 チネッテは次の日の朝日を見ることはできなかった。

 朝、ティモシーはエステリックの役場に行ってチネッテの死亡届を出した。その後、冒険者ギルドに行って人を雇い、アパートメントから彼女の遺体を下ろすと火葬場に運んで荼毘に付した。ユニテ村の事があって…同盟国では法律的に死体は火葬にする決まりになっている。

 ティモシーはチネッテの遺骨を彼女の夫と息子が眠る共同墓地に埋葬したかったが、共同墓地は城下町の外にあってそれが出来なかった。現在、エステリック城下町には戦時戒厳令が出ていて城下町の外に出る事が出来なかったからだ。

 お昼頃、ティモシーはチネッテの骨壷を彼女が使っていた寝台の上に置いて…それから言った。

「戦争が終わったら…家族のそばに埋めてあげるからね、待っててね。」

 ティモシーは部屋を出ると屑鉄屋の荷車を引いて城下町に出て行った。

 ティモシーが貴族町のワグナー邸の塀沿いにやって来ると、それを見つけてエビータが駆けつけて来た。

 エビータが柵越しに言った。

「ティモシー、良いところに来たね。セレスティシア様から指示があってね…今度、私たちはここから移動する、あんたもおいで。」

「僕は行かない…チネッテさんが亡くなった。」

「え…?」

「僕はチネッテさんの骨を家族と同じ墓地に埋めてあげたい…だから、非常事態宣言が止むまでここにいる…」

「そうか…チネッテさん、亡くなったのか…気の毒にね。でもね、ティモシー。私たちの主人はセレスティシア様だ…チネッテさんじゃない。…それは判るだろ?優先順位を間違えてはいけない…。」

「でも…」

 エビータは思った。この子は人の痛みが分かる優しい子だ…ポットピットに挑んでいった時も、あれは多分、殺された父親ホイットニーと右手を失ったガレルのために怒ったのだろう。斥候としては…優し過ぎる。ティモシーは斥候に向いていないのかもしれない。それでも…

「私たちはセレスティシア様から重大かつ難しいミッションを受けた。これは戦争を終わらせるためのミッションだ。早く終わらせてしまおう…それまでチネッテさんは待っててくれるよ。」

「…うん。」

 次の日の朝、ベンジャミンの傭兵部隊十人はワグナー邸の庭に整列した。

 ワグナー男爵が屋敷から出て来て、ベンジャミンに金貨十枚を渡した。

「約束のものじゃ…では、よろしく頼むぞ。急いで先発した軍隊に追いついてくれ。」

「分かりました、男爵様。」

 ベンジャミンは一台の幌付き馬車にベロニカとエビータを乗せ、残りの七人を徒歩で行軍させてワグナー邸を出発した。

 大通りをしばらく行軍していると、ティモシーが小走りで走り寄ってきて、馬車の荷台にピョンと飛び乗った。

 馬車について徒歩行軍しているカールが言った。

「あっ…馬車に乗りやがった、今のガキ、誰だ⁉︎」

 ガスも怒鳴った。

「こらガキ、降りろっ!」

 すると、エビータが荷馬車から顔を出した。

「私の息子だが…何か文句が?」

 子供がいたのか!…カールとガスは驚いた。

「えっと…そう言う事かぁっ!…カマキリ夫人、了解しやしたっ!」

「何がそういう事だっ!…それから、カマキリ夫人言うなっ‼︎」

 隣のベロニカがゲラゲラと下品に笑った。

 ベンジャミンたちは城下町の南門に到着すると、ワグナー男爵の書き付けを番兵に見せ、非常事態宣言中の城下町から外に出る事ができた。

 ベンジャミンたちは北の街道の次の分岐路を右に折れて南下した。

「あれ、ベンジャミン…俺たちはコッペリ村に向かうから、真っ直ぐじゃないのか⁉︎」

「いや…俺たちはオリゴ村に向かう。」

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