五百四十六章 完成したパズル
五百四十六章 完成したパズル
ヴィオレッタはエヴェレットを伴って鳳凰宮を訪れた。鳳凰宮のボタンの部屋には、すでに「四獣」たちが集まっていた。
マーゴットが言った。
「エステリックの城下町に潜らせておるベロニカから『念話』が参りました。内容が内容なだけに、すぐにヴィオレッタ殿にお伝えせねばと思った次第です。」
「お心遣い、感謝します。それで…?」
「はい…先程、エステリック王国よりイェルマに向けて2000の兵士が出発した模様です。その構成が…国境を守る騎士兵団1500と近衛兵団500が含まれているそうな…。」
「近衛兵が…!尋常じゃないですね…通常、近衛兵は王宮から動かずに王族を守る軍隊なのに…。近衛は軍隊の『選り抜き』だから強いですよ。」
「他にも、大量の食糧と多数の軍馬が…兵士は全て騎馬、コッペリ村到着予定は二週間後くらいですね。」
「二週間かぁ…。今いる兵隊と併せると…4000かぁ。この4000はほとんどが騎士兵以上ですから、今までで最も手強い軍隊となるでしょうねぇ。我々はこの二週間で…何ができるでしょうか…。」
「それとですね…。セレスティシア殿はエビータという者をご存知か?」
「はい…私の下僕ですが…」
「現在、ベロニカと行動を共にしておるそうです。セレスティシア殿の安否を痛く気しておるとのことです。」
「む…むむむ…むむむむむっ!エビータさんがベロニカさんと一緒にいるのですかっ⁉︎」
「そのようです…セレスティシア殿がティアーク王国から逃亡した時に二人はその手助けをしたそうで、顔見知りのようですね。それで…ん…セレスティシア殿、どうかなさいましたか?」
ヴィオレッタは両手で頭を抱え込んで、そのまま固まっていた。
「もしや…敵の数に驚かれましたか?いや、4000はすでに前の戦で経験済み…それとも、そんなに近衛兵団は手強い相手なのですか?」
エヴェレットもヴィオレッタに声を掛けた。
「セレスティシア様…?」
すると…ヴィオレッタはおもむろに顔を上げて…ニコッと笑った。
「…できたっ!パズルのピースがカッチリとハマりましたっ‼︎」
「えっ⁉︎」
敵兵の数や近衛兵団は問題ではなかった。
その瞬間、ヴィオレッタにはこの「第三次エステリック大侵攻」の…イェルマ軍とエステリック軍のこれからの成り行きの全貌が見えた気がした。戦術の上ではまだ細々とした変動はあるかもしれないが…戦略の上ではイェルマ軍の勝利の可能性を垣間見た。
ヴィオレッタはエビータがラクスマン城下町にいることは知っていたが…連絡を取る方法がなかった。それが何の偶然か…ベロニカも一緒にラクスマンに移動して、エビータという最強の「駒」が使えるようになった。「天の采配」としか言いようがない!
ボタンが不可解な顔をして言った。
「…パズルって…一体…?」
「ボタン殿、パズルが完成しましたっ!エステリック軍…いや、同盟三国まとめて…勝てるかもしれませんよっ‼︎」
「お…おお?…おおぅっ!…そ、それは素晴らしい…して、方法は?」
「ふふふ…まずは何とかしてコッペリ村にいるエステリック軍を殲滅しましょう。すると、カイルとやらは必ずラクスマンとティアークに泣きついて『援軍要請』をするでしょう…そこが勝機です!」
「ええっ、『援軍要請』されたらまずいんじゃなかったのか…?」
「マーゴット殿、ベロニカさんに『念話』をお願いしますっ!」
「は…はい。」
(エビータなら…やってくれるに違いないっ!)
ベロニカはワグナー邸の詰め所でマリアからの「念話」を受けた。
(ちょっ…マリアッ!…それを本気でやれってか⁉︎…うんうん、えっ…分かった、そういう事ならやる…やらせていただきますっ‼︎)
ベロニカは「念話」を終わらせると、すぐさま詰め所の外に飛び出し、傭兵に訓練を施しているエビータに詰め寄った。
「エレーナ、ちょっと話がある!」
「訓練中だ、後にして…」
「今、今だってばっ!」
ベロニカはエビータを詰め所に無理やり引っ張って行った。
「イェルマから凄いミッションを受注したっ!…これが成功すれば、晴れて私はイェルマに帰れるわっ‼︎」
「む、イェルマから『念話』が来たのか。セレスティシア様は…?」
「だからぁ〜〜…そのミッションがセレスティシアの計画の一環なのよっ!」
「おおっ…そうかっ!セレスティシア様は元気なのだな…それで⁉︎」
「私たちのミッションは…三週間後に出発するであろうティアークの援軍の邪魔をすること!」
「どうやって…?」
「ティアークの援軍って事は東の街道よね。徒党を組んで東の街道に伏せて…ティアークの援軍の『食糧』を襲うのよ!食べる物が無くなったら…前には進めないでしょ?」
「なるほどっ‼︎」
「戦術面はエビータに一任するってさ。」
「おお…!」
セレスティシア様が自分を頼ってくれている…エビータは嬉しくて強い高揚感を感じた。
ベンジャミンがワグナーの屋敷から戻ってきた。そして、開口一発…
「クソッ…頑固親父め…」
ベロニカは言った。
「ベンジャミン、どうしたの?」
「ワグナー男爵は、是が非でも俺たちをイェルマ遠征に加えたいようだ…今、あんなところに行ったら全滅必至だ…」
ベロニカは含み笑いをしながら…言った。
「ふふふ…行きましょうよ。」
「えっ⁉︎…お前、昨日は絶対にダメだって言ってただろう…?」
「…気が変わったわ。」
「コロコロ変えるなっ!」
「ちょっと聞いて、聞いて…良いこと思いついたのよ。イェルマ遠征に加わる振りをして…途中で逃げちゃうのよ!」
「…何だと?…そんな事出来る訳ないだろう。契約を交わした以上…主人を裏切る訳には行かない…」
「…あんた、今までどんだけ悪い事して来てるの、今更、何、良い子ぶってんのよぉ。相手が貴族だろうが王様だろうが…騙される方が悪いでしょっ⁉︎…契約?約束?…そんなモン、破るためにあるに決まってるでしょぉ〜〜がぁ〜〜っ!」
「いや、その点は同意見だ。いざとなったら仲間すら裏切る…それが傭兵だ。俺が言いたいのはな…お前は知らんだろうが、俺たちがワグナー家の私兵になってまだひと月しか経っていない。今の美味しい生活を手に入れるために、俺がどんなに苦労したか知ってるのか⁉︎…そう簡単に今の境遇を捨てる事はできないと言ってるんだ。」
横にいたエビータが言った。
「それでも…男爵は私たちを戦争に行かせるつもりだろう?貴族は一度言い出したら聞かないよ…それなら、心証を悪くする前にできるだけカネをせびって、大人しく命令に従った振りをしたらいい。それで…城下町の門を出たら、こっそり離脱すればいい。」
「んむむ…確かにな。お前たち、昨日まで不仲だと思っていたのに…突然、仲が良くなったのはなぜだ⁉︎」
見ている者はしっかり見ている。ベロニカはゲラゲラ笑いながら…
「そんな事ないわよぉ!ねぇ〜〜っ、エレーナ⁉︎」
「…。」
ベンジャミンは再びワグナー邸を訪ねると、ワグナー男爵にイェルマに出征することを承諾した。その条件として、ワグナー男爵にひと月分の護衛料金貨十枚の前払いを了承させた。




