五百四十二章 ラクスマン王国の二人
五百四十二章 ラクスマン王国の二人
ラクスマン王国の城下町。その冒険者ギルドのカウンターでダスティンとグラントがビールを飲んでいた。
「おい、グラント。イェルマはどうなってるんだ、セレスティシア様はご無事なのか…何か情報はないのかよぉ…。」
ダスティンは、ヴィオレッタが子飼いにしている斥候のホイットニー一族のひとりだ。
「一度、リーンに戻ってみないと判らないなぁ…。もしかしたら、セレスティシア様がハヤブサを使って何か言って来てるかもしれない。今は、エステリックは戦時非常事態宣言が出されてて中に入れないし、ティアークのレイモンドはどっかに行っちゃって捕まらないし…情報の集めようがないんだ…。」
グラントはヴィオレッタの側付きだったが、今はリーン、ラクスマン、ティアークを定期的に行き来して、潜伏している密偵から情報を回収して回っている。
するとそこに、数人の男がギルド会館に入って来て掲示板に一枚の大きな羊皮紙の広告を貼った。ギルドの受付嬢のソニアがすっ飛んできて、その男たちに文句を言った。
「ちょっと、無断で広告を出してもらっては困りますっ!」
「これくらい、いいじゃないか!」
男たちとソニアは声を荒げて揉めていた。
それを見ていたダスティンは「やれやれ…」と言って、揉め事の仲介に入った。
「ソニア、どうしたんだい?」
「あっ、ダスティンさん。この人たちが勝手に広告を出したんですよぉ〜〜…!」
ダスティンは冒険者ギルドに登録して、その腕の確かさでそこそこに人気があり、今ではもう三級冒険者だった。ダスティンは男たちに言った。
「お前たちは冒険者なのか?」
「…違う。」
「依頼者か?それなら、ギルドの決まりを守って、クエストの依頼はちゃんと受付けのソニアを通してくれよ。」
「ごちゃごちゃ、うるせぇなぁ…こっちは忙しいんだよ…!」
ひとりがダスティンに突っ掛かっていって、ダスティンの胸ぐらを掴んだ。ダスティンはすぐにその腕を絡め取って、後ろ手にして肩関節を決めた。
「痛ててて…ま、参ったっ!」
ダスティンは男を突き放して解放した。男たちは持っている広告の束を見せながら言った。
「すまなかった…俺たちは今日じゅうに城下町にこのビラを全部貼って回らにゃならんのだ。急いでいたんで…気が立っていた。」
「一体、何のビラだ?」
ダスティンがビラの一枚を手に取って読んでみた。
「…ラクスマン王国の将来を憂う会…集会へのお誘い…何じゃ、こりゃ?」
ビラを覗き込んでソニアが目を丸くして言った。
「ああ…これは、今、巷で噂の『反政府運動』ですねぇ。これは…却下です。こんなものギルドの掲示板に貼られると…憲兵に見つかったら大変な事になりますっ!」
男たちは言った。
「どうだ、集会に来ないか?」
「いやぁ…俺は政治向きは判らん。」
…とは言ったものの、最も留意すべき「エステリック大侵攻」の情報は全く入ってこないし、かと言って、毎日ダラダラとしているのも気が引けたので…
「んん…暇潰しにちょっと行ってみるかな…どこでやるんだ?」
「おおっ、今晩八時…場所は城下町中央の噴水広場だ。」
「そうか…分かった。」
すると、ソニアが血相を変えて言った。
「だ…だめですよ、ダスティンさん。冒険者は中立だし…それに、もし憲兵に見つかったら捕まっちゃいますよ!」
「大丈夫、大丈夫。いざとなったら、俺だけでも逃げ出すさ。俺は…斥候だぜ、遁走は得意分野だ。」
グラントがビールを飲みながら言った。
「…帰っても何もする事ないからなぁ、僕も行ってみようかな。」
まぁ…二人だけなら何とかなるだろうとダスティンは思った。
その日の夜八時、二人は城下町中央の噴水広場に行った。もう時間だというのに、噴水広場には誰もいなかった。
「おかしいなぁ…誰もいない。時間か場所か、間違ったかな?」
ダスティンは不意に背後に人の気配を感じた。すると、暗がりからひとりの男が現れた。
「…こっちこっち!」
「ん…?」
「憲兵に見つかたらまずいので…場所を変えているんですよ。参加者の中には、密告する奴もいますからね。」
「ほぉ…納得だ。」
ダスティンとグラントは男の後ろを着いて行き、真っ暗な城下町の裏道を歩いていった。そして、裏道の薄汚い酒場に入って行った。
酒場の一階ホール…そこには50人ぐらいの人々が集まっていて…なんと、中で炊き出しが行われていた。
(…女子供もいるな…。服装からして、食うに困った連中が大多数か…。)
すると、二階からひとりの若者が降りてきて大声で言った。
「みなさん、よく集まってくれました。この酒場は今晩は我々が貸し切っていますので安心してください。僕はデイヴィッドと言います。この会の主催者です…」
デイヴィッドは二十歳を少し過ぎたくらいの若者だったが、ラクスマン王国の城下町でも屈指の大きな穀物問屋の支配人だった。
「みなさんは今、このラクスマン城下町に住んでいて…幸せですか?お腹いっぱいに食べていますか?不安はありませんか?…今のこの王国の制度は正しいと思いますか?」
「税金を無くしてくれ!」
「貴族がうざい!」
「もっと小麦粉を安くしてちょうだい!」
会場は騒めいた。
「まぁまぁ、落ち着いてください。…そうですね、今のラクスマン王国は貴族たちには良いけど、我々貧乏人には住みにくいですよね。一体、どこが…何が悪いのでしょうね。」
「…貴族だ!」
「貴族が悪い!俺たちから税金って名目でカネを巻き上げて贅沢してやがる‼︎」
「まさしく…その通りです。全ての元凶は貴族です。知っていますか?今、東の方では大変な戦争が起こっています。もしかすると、ラクスマンにも飛び火して…また、徴兵が行われたくさんの平民が死ぬかもしれません…」
デイヴィッドの話を聞いていて、グラントが隣のダスティンに小声で話した。
「…そうなのか、貴族ってそんなに悪い奴らなのか?」
「バカだなぁ…群衆の中にサクラが混じってるんだよ。貴族が悪いってのは、あながち嘘ではないが…」
ダスティンの背後で含み笑いが聞こえた。
ダスティンが後ろを振り返ると、ビールのジョッキを持った背の低い老人が立っていた。
「お前さんは目先が利くようじゃのう。どうじゃ、儂らの仲間にならんか…」
「…お⁉︎」
「…んん?」
ダスティンは老人の顔を見て驚いた。
「あんた確か…ポットピット…さん?」
「ありゃ、どこぞで会ったかいな?」
グラントは言った。
「ポットピットって…誰?」




