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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百四十一章 幕間 その5

五百四十一章 幕間 その5


 オリヴィアはドーラ、ベラ、タビサ、そしてケイトと共に南の斜面の鍛冶工房にいた。

 ケイトは同じ戦士房の古参のドミニクにスモールシールドを作ってもらって、それを右腕に合わせていた。

「どうだい、重くないかい?右手が使えないから、皮バンドで右腕に固定したほうがいいね。」

「鋼製ですか…思ったより小さいですね。元々右利きだったから、右の方が筋力があるのでこのくらいの重さなら大丈夫かな…。」

 ドーラが言った。

「ケイト、ちょいと練習してみようぜ。おばちゃん、模擬刀かなんかあるかい?」

「そこらじゅうにまだ研いでないロングソードやショートソードがいっぱいあるじゃないか。それを使いな。」

「ちょっくらお借りしまぁ〜〜す。」

 ドーラ、ベラ、ケイトは工房の外に出て、ドーラとベラはロングソードを持ってケイトを攻撃し、それをケイトが右腕に装着したスモールシールドで受ける練習を始めた。

 タビサは工房に置いてある剣や槍を見ながら言った。

「あんねぇ…うちが槍を使うとすぐに折れるんよね。もっと強い武器はないやろか?」

 戦士房OGのクラリッサが…

「獣人族は人間よりも腕力があるんだろ、だったら『ほこ』を使いなよ。」

「…矛?」

「長い棍棒の先に剣がくっついていると想像してくれたら間違いない。槍は突くだけだけど…矛は斬る事もできるよ。槍よりも柄を太くして、そのままショートソードをくっ付けりゃいい。ランサーのベレッタが使ってる『青龍刀』なんかはどでかい片刃の首級刀がくっ付いてるよ。」

「ほうほう…ええなぁ。うちにもそんなんを作ってくれん?」

 オリヴィアはボタンの母アヤメと話をしていた。

「オリヴィア…スペシャルナントカはどうだったかい?」

「うん、もぉ〜ね…バッサバッサって感じだった!」

「で…敵を一万人、やっつけたかい?」

「うぅ〜〜ん…まだ…千人ぐらいかなぁ?」

「ウソつけぇ〜〜っ!」

 そう叫んだのはケイトの相手をしているドーラとベラだった。

「う…百人…八十人くらい…かな…。」

 アヤメは大笑いしていた。八十人でも…実は凄い。

「まぁ、オリヴィア…死なない程度に頑張れ。」

「うん、あんがとね。ボタンのおばちゃん!」

 オリヴィアの言葉を聞いて驚いたケイトは、ドーラの攻撃を受け損ねて…ロングソードが頭部に直撃した。

「…あたたたたたぁっ!」

「うおっ…ケイト、大丈夫か⁉︎」

「ちょっ…!オリヴィアさん、今…『ボタン』のおばちゃんって言った?」

 オリヴィアの代わりにベラが答えた。

「アヤメさんは…ボタン様の母ちゃんだからな!」

「うえええええっ…‼︎」

 ケイトは…アヤメの顔を知らなかった。


 エステリック軍が大敗し戦闘がとりあえず中断して、運び込まれる負傷者が減ったおかげで、アナたち救護班は地獄のような忙しさから解放された。

 アナはセイラムを連れて祭事館を巡回診察をしていた。毛布の上に寝ている負傷したイェルメイドたちの事後観察をしているのである。

「具合はいかがですか?…昨日より顔色が良くなりましたねぇ。」

「アナ様、ありがとうございます。」

「クラウディアさんが処方した増血剤が効きましたね。明日には部隊に復帰できるでしょう。」

 セイラムが何かを見つけてアナの袖を引っ張った。

「あぁ〜〜っ、セシルママめっけ!」

 セシルが負傷者に紛れて毛布を被って寝ていた。まぁ…セシルも「ヒール」を頑張ってくれているので責める訳にはいかない。 

「あなたのママはお気楽で良いわねぇ…もう少し寝かせておいてあげましょう。」

「オキラクってなぁ〜〜にぃ?」

「幸せって事よ。」

「そっかぁ、セシルママは幸せなんだね⁉︎」

 巡回診察を終えて、アナはある事に気づいた。

「あれ?…ジャネットさんの姿が見えないわねぇ…。」

 現在、祭事館の救護班は神官房のメンバーに加え、「ヒール」要員の魔導士たちと服飾部門のお針子さんたちと数が多くなって、ジャネットひとりが消えていても分からない状態だった。

 アナは神官見習いのマーシーに尋ねた。

「マーシー、昨晩ジャネットさんと一緒に神官房に行ったわよね、あれからジャネットさんは?」

「それがですねぇ…マックスさんのお世話は自分がするからって言って…戻ってきませんでしたぁ〜〜。」

「えええっ!…それは…‼︎」

 恋愛自体は個人の自由で、アナが口出しすることではない。しかし、アナは場所を問題にしていた。神の下僕しもべを育成する神聖な神官房で「あらぬ行為」を致すという事がアナには許せなかった。

「ちょっと神官房に行ってきます!」

 そう言って、アナは祭事館を飛び出した。すると、セイラムが追い掛けて来て言った。

「アナ、神官房に行くのぉ〜〜?」

「そうよ!」

「分かったぁ〜〜っ!」

 セイラムは光の翼を広げ、アナの背中にしがみついた。

「うきゃあああぁ〜〜っ‼︎」

 セイラムによって空中に拉致されたアナはあっという間に北の五段目に到着した。鼓動が収まらないアナを笑顔のセイラムが神官房にどんどん引っ張っていった。

「あ…セイラムちゃん、ちょっと待って。」

 神官房の家庭菜園に誰かがいるのを見つけて、アナとセイラムはベネトネリス廟の陰に隠れた。

 それは…ジャネットだった。手籠を持ったジャネットが神官房の家庭菜園でニンジンやダイコンなどを収穫していた。

 ジャネットが神官房に引っ込むと、アナとセイラムもこっそり着いて行った。

 アナとセイラムが覗き見ると…ジャネットは厨房で鍋に火を掛け、収穫した野菜を包丁で切っていた。

「マックスゥ〜〜…夕食は一時間後の予定…っす。」

「ああ、ありがとう。」

 ジャネットはお茶を持ってマックスと同じテーブルに着いた。マックスは無数の羊皮紙をテーブルいっぱいに広げて英雄詩と格闘中だった。ジャネットが散らかった羊皮紙を整理して重ねると、すぐにマックスがそれをまた広げて散らかすのだった。それでもジャネットは笑顔で再び整理して重ねることを繰り返していた。

 マックスはお茶を飲みながら言った。

「ジャネット、聞いて聞いて。ここのフレーズ…永久とこしえ久遠くおん、どっちが良いかな?」

「私は…マックスのセンスを信じる…っす。」

 二人があまりにも幸せそうだったので…アナは何もすることができず、セイラムの手を引いて神官房を離れた。

(あの二人…心が通じ合っていたわ。きっと…ベネトネリス様も許してくれる…)

 セイラムが言った。

「ジャネットはオキラクで良いねぇ!」

「そ…そうね。」

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