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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百三十七章 幕間 その3

五百三十七章 幕間 その3


 中広場では、朝の炊き出しが行われていて、イェルメイドたちは味噌汁とトウモロコシ粉のおやきに行列を作っていた。

 その中広場に…美しい歌声が響き渡っていた。

あしたに起きて日輪を拝み、我がわざく成す…日の落ちるを見るに家路を急ぎ、家族と共にその日のかてに感謝する…ああ、神よ、我があるじよ、天の玉座におわして我らに糧を与え給う…♪」

 その歌声は朝起きたイェルメイドたちに今日一日の活力を与えた。

 昨夜、ロミナは中広場でみんなに請われて「鎮魂歌」を歌った。それを偶然聞いていた女王ボタンが痛く感激して、わざわざ中広場まで赴いてロミナに「戦時慰問要員」という肩書を与えた。そのお蔭で、ロミナは穴掘りのお手伝いから解放されて…同じ農産部門の仲良しのジニーをサポーターとして、朝と夕方の炊き出しの始まる時間になると中広場で歌った。ヴィオレッタも「精神衛生上、非常に良い事」と評価した。


 一夜明けて…祭事館は負傷者の治療をひと通り終えて、落ち着きを見せていた。

 ジャネットが祭事館の隅で、手鏡に自分の姿を映していた。そこにアナがやって来て声を掛けた。

「ジャネットさん、お身体の具合はいかがですか?」

「ううん…体を動かすと、なんか突っ張って少し痛みが走るっす…」

「やっぱり…体の内側の火傷がまだ治ってないからですねぇ…。戦場には出ない方が良いですねぇ…。」

 ジャネットはアナの質問に返答しつつも、少し赤みを帯びた自分の顔の左側を指でなぞっていた。体の痛みよりも…こちらの方が気になるようだ。正確には…マックスがこの顔をどう思うか…というのが不安なのだ。

 ジャネットは言った。

「アナ様ぁ…これ、どうにかならないっすかねぇ…」

 ジャネットの声には…僅かに悲壮感が漂っていた。

「うぅ〜〜ん…ちょっとおしろいでも塗ってみる?」

「塗るっす!」

 アナは自前の化粧道具を持ってくると、化粧筆でジャネットの顔におしろいを塗った。しかし…

「うぅ〜〜ん…ちょっと…」

「…うまくいかないっすねぇ…」

 火傷で顔の半分が赤くなった部分におしろいをはたいて、うまく赤と白の境界をぼかしていったが…それでも、遠目で不自然さが残ってしまう…。

(この顔をマックスが見たら…)

 ジャネットは思い余って…ロングヘアーの一部をごっそり前に持ってきて、前髪にして顔の左半分を隠して…みた。

「おっ…アナ様、アナ様、どおっすか⁉︎」

「ううっ!…火傷の痕はきれいに隠れました…隠れましたけどおぉ、かえって目立ってません?」

 ジャネットはどこかの国の典型的な幽霊のような顔をして、アナを片目でじろっと睨みつけていた。

「…ううぅ〜〜ん。それはやめた方がいいかもぉ…。」

 ジャネットはアナから「準戦闘員」認定をされてしまって、戦闘に参加すぐことができず、中広場での「待機」を余儀なくされた。

 中広場で死体の片付け作業を手伝うも、力仕事をすると体に痛みが走るので、仕方なく祭事館で負傷者の包帯の交換や、着替えの介助などの簡単で軽い作業を手伝った。

 夕方、神官見習いのマーシーが言った。

「アナ様、今からご飯を持って北の五段目に行ってきます。」

「お願いするわね。」

 それを近くで聞いていたジャネットが食いついてきた。

「北の五段目って…もしかして、マックスのところにご飯を持って行くんすか?」

 慌てているジャネットを見て…アナは考えた。

(…これはもう、早めに決着をつけた方が良いんじゃないかしら。好かれるにしろ嫌われるにしろ…。)

 アナはジャネットに言った。

「暇だったら…ジャネットさんも一緒に行ったら?」

「えっ!…えええっ、それは…どうしようかな…。」

「…じゃ、ここにいなさい!」

「あ…い、行くっす!」

 ジャネットは手鏡を持って、前髪を垂らしたと思ったら元に戻して、アナからから借りた化粧筆でおしろいを塗りたくって…結局は前髪を垂らして、マーシーと一緒に祭事館を出ていった。

 中広場での炊き出しは兵士の精気を養うべく、この数日、ご馳走が振舞われていた。今晩はドンブリに白米を入れて、その上に少し辛めの具を乗せたドンブリ飯だ。

「うわっ…このゴロッとしたの、ヤギの肉じゃない⁉︎」

「す…凄げぇっ!」

 ジャネットとマーシーは、まず自分たちの夕食を食べ、それからマックスの分を持って北の五段目の神官房へと向かった。

 神官房に到着すると、一階でお腹を空かせたマックスが待っていた。

「ああ、やっと来てくれたね。腹が減って腹が減って…おやっ、ジャネットじゃないか、久しぶりだねぇ〜〜っ!」

「ああ…久しぶり…っす。」

 マックスはマーシーからドンブリを受け取ると、すぐに食べ始めた。

「お…ヤギの肉が入ってる!」

 マーシーはお茶を淹れるために厨房へ行った。ジャネットはその場でずっと固まっていた。

 すると…マックスが言った。

「ジャネット、髪型変えたんだねぇ。面白い髪型だねぇ。」

ギクッ…!

 ジャネットは垂らした前髪を咄嗟に撫でた。

 マックスはドンブリ飯を平らげると、テーブルいっぱいに散乱している羊皮紙の一枚を取って羽根ペンで何やら書き込んでいた。

「ねぇ、ジャネット。下じゃ…戦争してるんだよね?」

「う…うん。」

「ジャネットも参加したの…戦ったの?」

「う…うん。」

「どんなだった⁉︎僕は今ね、イェルマの英雄詩を構想してるんだ…これって『第三次エステリック大侵攻』って言うんだろ?これも英雄詩に加えられたらなぁ…何か、燃えるよね。」

「いやぁ…仲間や友達もいっぱい死んだし…酷い戦いだったし…」

「…そうなのかぁ…ごめん。変な事言っちゃった…。あ…もしかして…」

 マックスは突然立ち上がって、ジャネットのそばに来るとジャネットの不自然に垂らした前髪を掻き上げた。

「…あっ‼︎」 

 咄嗟にジャネットはマックスの手を払って顔を背けた…だが、見られてしまった。

 マックスは心配そうな顔で言った。

「その顔…どうしたの⁉︎」

「こ、これは…敵の『ファイヤーボール』が…」

 マックスはすぐにジャネットを抱き寄せて、両手を背中に回して強く抱きしめた。

「ジャネット、ああ…可哀想なジャネット…!」

「ううううぅ…マックス。私は…私は醜くなった…」

 涙を流すジャネットに…マックスは言った。

「何を言ってるんだい…君は僕の大恩人じゃないか!僕がこうして英雄詩を書けるのも…君がセレスティシア様に掛け合ってくれたお蔭だ!君は僕の最大の理解者で…もうパートナーだよ!腕が失くったって…顔が火傷で爛れていたって…何も変わらないよっ、ジャネットの心はジャネットのままだよっ‼︎」

 マックスに抱きすくめられたジャネットは猛烈に感動していた。

(ああ…幸せ…幸せっすぅ…!もう、絶対にマックスから離れないっすっ‼︎)

 二人は抱き合って…激しく唇を求め合った。

 厨房からお茶を持って来たマーシーはそれを目撃して、茶器を落としてしまった。

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