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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百三十六章 幕間 その2

五百三十六章 幕間 その2


 イェルマ軍は狭いイェルマ回廊の入り口に騎士兵団から奪ったタワーシールドで二重の防衛線を設け、その後ろにさらに二個大体250人が控えていた。

 イェルマ回廊に陣を貼ったイェルメイドたちは、イェルマ西城門からやって来た荷馬車を見つけると、一斉に群がった。荷車は豚汁の大鍋を積んでいた。

 食堂部門の女がイェルメイドたちにどんどん豚汁を振る舞って、大鍋はあっという間に空になった。

 お腹を満たした剣士房のフレデリカ師範は叫んだ。

「斥候房のコニー師範はいるか?」

「…ここにいるよ。」

 背中から声が聞こえて来たので、フレデリカは驚いた。

「…おお、びっくりしたぁっ!コニー、そこにいたのか…ホント、お前たちは気配がないな。実はな、エステリック軍の偵察をしてきて欲しい。イェルマ回廊からイェルマ橋までで良いからさ。せっかく斥候も加わったんだから、働いておくれよ。」

「分かった。おい…アンネリ、モリーン、行っといで。」

 すると…斥候職中堅のワンピース姿のデボラがゆっくりと斥候部隊の中から出てきて言った。

「コニー…私は?私が行きたいのだけど…」

「う…今度ね、今度。」

 アンネリとモリーンは「シャドウハイド」「キャットアイ」を発動させて、真っ暗なイェルマ回廊を音を立てずにゆっくりと進んでいった。

 二人は回廊を約100m進んだところで…かがり火の灯りを発見した。

(えっ⁉︎…何でこんなところに…?エステリックの兵隊がいるのか?)

 アンネリとモリーンが顔を見合わせていると、松明を持ったタワーシールドと金属鎧の騎士兵がこちらにやって来た。アンネリとモリーンは「シャドウハイド」ですぐに回廊の岩陰に隠れた。

 騎士兵はすぐにかがり火の方に引っ込んでいった…巡回兵のようだ。

 この先がどうなっているのか…アンネリとモリーンは相談して、回廊の絶壁を登ることにした。約15mの絶壁…骨だ、でも、これが斥候の仕事だ。

 二人は二本のナイフを使って絶壁を登り始めた。すると、10mくらい登ると、絶壁を穿って作ったイェルマの伏兵が使っていた側溝があった。15mも登らずに済んだ。

 アンネリとモリーンは腹這いになって、側溝の中をかがり火の方向に進んだ。側溝は途中で途切れていた。

 二人はそこまで来て…とんでもないものを見た。何と、イェルマ回廊の中に広い平坦地が造成されていて…簡易的な釜戸と複数の幕屋があって、一個大体…100人以上の騎士兵団が駐留していた。スペースの広さからして、もっと詰めれば一個師団が駐留できるかもしれない…!

 スペースの後方では、皮鎧の義勇兵たちがスコップとツルハシを持って絶壁を砕き、さらに回廊を拡張すべく…掘削作業をしていた。

 側溝の中でアンネリとモリーンは小声で話した。

「…驚いた、100mしか離れてないところにエステリック軍がいるなんて…!こいつら、何やってるんだ⁉︎」

「ここは、目隠しされたエステリック軍の駐屯地って訳ね…まだまだ広げていくつもりだわ。このまま、広がっていったら…ここはエステリック軍の『出城』になっちゃうんじゃない?」

「…って、イェルマ回廊を要塞規模まで削るって…一体何年掛かるんだよ!」

「…なるほどねぇ。投石機で飛ばしてた弾丸…ここで突き崩した石くれだったんだ。ものの数日でここまで掘り崩したんだ。やばいわねぇ…」


 大雨が降ったため、北の五段目の田畑ではウシガエルの捕獲をしていた農産部門の女たちは作業を中止した。

 リーダーのドーリーが大声で叫んだ。

「…練兵部から要請があった。今から、中広場の穴掘りの手伝いに行くよぉ〜〜っ!」

 みんなはウシガエルの捕獲作業を止めて、手に手に鍬を持ってぞろぞろと急勾配の階段を降りていった。

 みんなは山積みされた死体を見て顔を歪ませながら…鍬で火葬用の穴を掘った。

 すると…

「おや、お前…じゃなくて、あんた…でもなくて、あなたは…ロミナ…さん?」

 ロミナは射手房中堅のスーザンに声を掛けられた。

「え、そうですけど…?」

「ああっ、やっぱり…!建国祭とセレスティシア様の歓迎会であなたの歌を聴いて…私はあなたのファンになりました、あなたは私の『推し』ですっ‼︎」

「そ、そうですか…ありがとうございます…。えっと、穴を掘らないといけないので…」

 スーザンはロミナと会ったことを友人の剣士房のレイラに話し、レイラは友人の戦士房のシンシアに話し、シンシアは友人の武闘家房のオリヴィアに話した。

「何ですとぉ〜〜っ⁉︎あの歌姫のロミナが近くにいるのぉ〜〜っ?」

 オリヴィアはすぐにロミナを探し始めた。

 オリヴィアの仲間たちは口々に言った。

「ん…オリヴィア?」

「オリヴィア、どうしたんだ?」

「ふにゃあぁ〜〜?」

 オリヴィアは…ロミナに会って…金貨のお釣りを要求しようと思っていた。ある時は豪胆なくせに女々しかったり、ある時は太っ腹なのにせこかったり…良くも悪くも、これがオリヴィアという女だ。

 オリヴィアは穴掘りをしているロミナを発見した。

「ロォ〜〜ミィ〜〜ナァ〜〜ッ!会いたかったあぁ〜〜っ‼︎」

 オリヴィアはロミナを抱き寄せると、抱え上げて力任せにブンブンと振り回した。

「あのね、あのね…あなたにあげた金貨なんだけどぉ〜〜…」

 するとそこに、ドーラ、ベラ、ケイト、タビサも駆けつけて来た。

「あっ、この人知ってる。…ロミナ、建国祭で優勝した歌姫のロミナだ。」

「おおお…なんでこんなところで穴掘りしてるんだ?」

「ロミナの歌声…美しかったよねぇ。もう一度、聴かせて欲しいな…。」

 ロミナの事を聞きつけて…次第に人が集まり始めた。

「えっ、歌姫のロミナだって?…ここにいるの?」

「私、あの歌声大好きぃ〜〜っ!」

「ねぇ、何でも良いから…ロミナ、歌ってぇ〜〜っ!」

「ロミナァ〜〜ッ!」

「ロミナッ!」「ロミナッ!」「ロミナッ!」…

 中広場に「ロミナコール」が巻き起こった。

「えええぇ〜〜っ…」

 すると、リーダーのドーリーが笑みを浮かべて言った。

「ロミナ、歌を聴きたいという人がいれば、どこででも行って歌う…そう言ったのは嘘だったのかい?」

「…嘘じゃありません!でも…穴掘りは…?」

「たくさんの仲間が死んだ…みんな、慰めが欲しいんだ。穴掘りは誰にでもできるけど、歌はあんたにしか歌えないだろ?」

「…は、はいっ!」

 ロミナは中広場の中央に立って、それから言った。

「亡くなった人たちへの鎮魂歌を歌います…」

 中広場が沸いた。ロミナは歌った。

「…悲しみが世界を覆い、人は死してその幕を閉じる…悲しむことなかれ、魂は神のもとに召され、来たりし場所へと還るのみ。憂うことなかれ、魂は神の御胸に抱かれ、来たる時に備えて安寧と休息を得るなり…我らが為すは祈る事のみ。…さぁ祈ろう、友の魂が家族の魂が神の御許に無事届くようにと…さぁ祈ろう、友の魂を家族の魂を神が慰め、あるべき姿にあるべき場所に戻すようにと…♪」

 ロミナの透き通るような声が夜の闇を震わせて、中広場じゅうに響き渡った。イェルメイドたちは仲間を偲んで目に涙を溜めながら…粛々と己の仕事に従事した。

「ん…この歌声はロミナか…?」

 ボタンは祭事館でロミナの歌を聴いた。そして、ヴィオレッタとマーゴットを引き連れて中広場へと降りて行った。

 オリヴィアもまた目に涙を溜めて、ロミナの鎮魂歌を聴いていた。

(ううう…心に染みるわぁ…なんて、美しい歌声なのかしら…リューズを思い出しちゃった。ううう…この状況で、釣り銭は請求しづらいわねぇ…次の機会にしましょ…)

 その後、オリヴィアに次の機会は巡ってこなかった。

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