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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百三十四章 幕間 その1

五百三十四章 幕間 その1


 カイルとレンブラント将軍は、イェルマ城門中広場での敗戦の報告をキャシィズカフェで聞いた。

「えっ…負けた?それも、惜敗ではなく…大敗を喫したと⁉︎…なぜそうなるんだっ‼︎」

 カイルはテーブルを叩き、伝令の騎士兵を激しく詰問した。

「途中までは優勢でしたが…雨が降りました。それと同時におよそ300のトカゲの怪物が現れて…この怪物は剣も魔法も効かず…」

「たった300…たった300の援軍に負けたというのか…?それで…投石機は…投石機は⁉︎」

「はぁ…これも、空を飛ぶ白い魔女によって…破壊されました。」

 カイルは椅子を倒して立ち上がった。

「僕たちは…魔族と戦っているとでも言うのかっ⁉︎これは人魔大戦かっ⁉︎…怪物だの魔女だの…良い加減にしろっ…‼︎」

 レンブラント将軍は鶏肉プレートセットを食べながら言った。

「相手が怪物であろうと魔女であろうと…我々は勝たねばならん。実際…我々は人魔大戦で三連勝しておるではないか。勝てないはずはない…それは戦術面での指揮官の知識不足と努力不足だな…。」

「ううう…」

「それで…こちらの損耗は?」

「…騎士兵と義勇兵を合わせて…3884です。」

「ふぅ…累計で5591か。こちらはもう兵士が5591人も死んだのか。それで…敵の損耗は?」

「…およそ…2000かと…。」

「その数字は本当なんだろうな…⁉︎その数字が事実であれば…戦闘に参加できない負傷者を考慮すれば、敵兵士の半分以上はすでに壊滅しているはずだぞっ⁉︎」

 騎士兵は…答えなかった。

 カイルは少し冷静になって、再び騎士兵に尋ねた。

「…回廊の拡張工事は進んでいますか?」

「はいっ…それはもう急ピッチで進めておりますっ!昼夜問わず、義勇兵100人を稼働させて壁を掘削しておりますっ‼︎」

「200人にしなさい。」

「それが…回廊は馬車がすれ違えるほどしか幅がありませんので、100人程度が適当かと…200人を稼働させても効率は上がらないかと…。」

「そうですか…早急に三個師団が駐留できるスペースを作ってください。くれぐれも…敵に悟られて邪魔される事がないように…。」

「はっ…!」

 一個師団は兵士625人で、三個師団は兵士1875人である。

 カイルと他の幕僚たちは頭を抱えて…エルフのハーブティーすら喉を通らないという有様だった。先日、本国に軍鳩で「イェルマの陥落は時間の問題」と送ったばかりだと言うのに…。

 それに引き換え、レンブラント将軍は平静を保ったまま…鶏肉プレートと山盛りのご飯を平らげてしまった。

(うぅ〜〜む、三種類のソースとは気が利いておる…。私の好みは味噌と鶏がらスープを合わせたソースだな。)

 そこにキャシィがやって来た。

「将軍様、そぼろおにぎりはいかがですかぁ〜〜?鶏と卵のそぼろを握り込んだ、これまた絶品のひと品ですよぉ〜〜っ!」

「そうか、じゃぁ…それもいただこうかな…?」


 ヴィオレッタは祭事館の毛布を敷いた床の上で目を覚ました。

「うぅ〜〜ん…ここは?」

 そばにはボタン、マーゴット…そして、エヴェレットがいた。

「セレスティシア様、大丈夫ですか?…どこか痛いところはありませんか?」

 心配して慌てるエヴェレットを抑えて、ヴィオレッタは言った。

「大丈夫…大丈夫ですよ。ただ、魔力を使い切っただけですから…。」

「これをお飲みくださいっ!」

 エヴェレットが青いポーション…魔力回復ポーションを差し出したので、ヴィオレッタは受け取って飲んだ。

 それを見ていた神官見習いのフランがアナを呼びに一目散に走っていった。

 ボタンが声を掛けてきた。

「セレスティシア殿には無理をさせてしまった…申し訳ない!」

「いえいえ…それで、戦況はどうなりました?」

「勝ちましたよっ!城門は奪還、イェルマ回廊入り口付近も我が軍が押さえましたっ‼︎これも…セレスティシア殿が大精霊を召喚して、投石機を破壊してくれたお蔭ですっ‼︎」

 すると、アナもセイラムを従えてやって来た。

「セレスティシア様、具合はいかがですか?」

「具合も何も…魔力喪失による失神でして、今までにも何回もありました。魔力が回復すれば、すぐ元気になりますのでご心配には及びませんよ。」

 ヴィオレッタはアナの横にセイラムがいるのに気づいて…

「あっ…セイラムちゃん。できれば…『魔力共有』をしてくれない?」

「うん、いいよぉ〜〜。」

 セイラムはヴィオレッタの手を握った。すると、一瞬目眩はしたものの…それからぐんぐんと魔力が回復していって、ヴィオレッタの気分は良くなり意識もはっきりしていった。セイラムが腹に収めているミスリルナイフ…「リール女史」の効果だ。

「よし、万全…治りましたぁ〜〜!」

(くっ…「リール女史」さえあったら…バルキリーは10分は保てたなぁ…。それで、こんな無様な姿をみんなに見せることもなかったのにぃ…。)

 ヴィオレッタがちょっとセイラムの方に視線をやると…セイラムは「ん?」っという顔をしてニコッと笑った。

 バルキリーの召喚はヴィオレッタの中では想定内だった。あの投石機が戦略上どうしても邪魔だったので、どうやって投石機を葬ろうかと考えた結果のことである。それで…まだ神代語を完璧にマスターしていないヴィオレッタは、あらかじめ、バルキリー召喚の神代呪文と投石器破壊の神代語の命令を準備して…暗記していたのだった。しかし、実際やってみて…やはり単独での召喚はきつかった。

(次やる時は…絶対セイラムを誘おう…。)

 ヴィオレッタは言った。

「セイラムちゃんは…『念話』は出来る?」

「出来るよぉ〜〜っ!」

「それは凄いねぇ、じゃぁ…私と『念話』してみよう。」

「うんっ!」

 ヴィオレッタとセイラムは両手を繋いで、何度か「念話」で会話をした。これでいつでも「念話」で呼びつけて…セイラムを「召喚」出来る!

 マーゴットがこれからの展望を語った。

「セレスティシア殿とリザードマン族の援軍のお陰で、何とか盛り返す事はできましたが…これから、どういたしましょうか…?コッペリ村からの情報では…エステリック軍は本国に『援軍要請』をしている模様です…。近いうちに、新手がやって参ります。こちらの兵士の損耗は著しく…戦線を維持するだけでも大変かと…セレスティシア殿には何か妙案はありましょうや?」

「うぅ〜〜ん…」

 ヴィオレッタは考えた。最善の方策はリーン族長区連邦の軍を動かして、エステリック王国の後方を脅かす事だ。そうすれば、エステリック王国はコッペリ村にこれ以上の派兵はしないだろう。しかし、リーン軍をエステリック王国領に進軍させるとなると、必ずラクスマンかティアークの領土を侵犯せねばなず、両国と戦端を開くことになる。それに…リーン側が同盟国側に戦争を仕掛けた事は今までに一度たりともないので、それには非常に抵抗があった。

「…こちらの死者と負傷者は…?」

「累計で…死者は841名となりました…。アナ殿とエヴェレット殿、それからセイラムの大車輪の活躍で戦場へ復帰していく兵士は少なくはないのですのが…それでも、四肢の欠損や血の不足などで参戦できない負傷者もおります…」

 ヴィオレッタが祭事館を見回して見ても…300人近い負傷者が毛布の上に寝て、神官房の手当てを受けていた。イェルマ軍の人的戦力は約5000…これは十五歳班や五十歳以上のイェルメイドOGたちも含めた数なので、戦局が長引けば少女やご老体も最前線へ赴く事になってしまう。そうなると、イェルマ軍の個々の戦力自体も低下していく…。

「うぅ〜〜ん…」

 ヴィオレッタは今のところ…良いアイディアが浮かばなかった。

 良いアイディアは浮かばなかったが…とりあえず、ヴィオレッタは言った。

「死んだ騎士兵団のタワーシールドとボウガンは優秀なので再利用しましょう。しっかり回収してください。弓削師にボウガンのボルトを作ってもらうように手配してください。まぁ…毒は必要ないでしょう。」

 ボタンが憮然とした表情で言った。

「敵の装備を再利用…⁉︎それは屈辱だっ!そんなことは断じてできないっ‼︎」

 ヴィオレッタは鋭い目をした。

「ボタン殿…戦争はプライドや意気込みだけでは勝てません。少しでも勝率を上げるために、敵の装備だろうが使える物は使わないと…」

「だが…!」

「…次に戦闘が起きた時には、十二歳班、十五歳班の女の子、それからもう引退した五十代のイェルメイドOGたちも最前線に送り出すことになるやもしれません…彼女たちを無為に死なせるのですか?…出来ることは何でもやりましょうよ。」

「うう…」

 マーゴットが言った。

「セレスティシア殿のげんは正しいと思われます。ボタン様、良いではありませんか。敵の装備を使って、敵に目に物を見せてやりましょう。自分たちが作った武器で自分たちが死ぬ…これほど痛快な皮肉がありましょうや?」

「むむ…分かった。我々は切羽詰まっていると言うことを忘れていた…。すぐに手配する。」


 イェルマ城門中広場では、イェルメイド総動員で死体の片付けを余儀なくされていた。雨が降ったこともあって…死体を放置しておく訳にはいかない。死体の腐敗が進むと、疫病が発生してそれがイェルマじゅうに蔓延してしまう怖れがある…。

 生産部の駆け込み女も招集されて、夥しい数のかがり火の中、中広場の火葬用の穴掘りに駆り出されていた。

 二つの穴を掘って、死体を敵味方で区別して穴に放り込み、女魔導士が火魔法で火葬にする。味方の骨は後で集められ、北の五段目の集団墓地に埋められて丁重に供養する予定だ。

「おぉ〜〜い、騎士兵のタワーシールドとボウガンは集めとけぇ、金属鎧は鋳潰すそうだ。それ以外は全部燃やしていい。…矢は抜いて、回収して回ってるアーチャーに渡せ。」

 剣士房OGは担架で死体を運びながら、目に涙を溜めていた。

「ううう…この子はまだ十六なのに…。」

 そう言って…仲間の死体を掘り進められている穴に転げ落とした。

 死体を処理する合間を縫って、イェルメイドたちは夕食を摂っていた。イェルメイドたちの疲労がピークだったため、急遽、生産部の炊き出し部隊が臨時で北と南の一段目から中広場に移動してきていた。今晩の炊き出しは味噌味の豚汁だった。ウシガエルではなくて豚肉とは大盤振る舞いである。兵士の労をねぎらっての事だ。

 オリヴィアたちは炊き出しの大鍋のそばで、まだ乾いていない地面に胡座をかいて座り、ニンジンやダイコンが入った豚汁を口に掻き込んでいた。

「タビサちゃん、腕の火傷の具合はどお?」

「こんなん…すぐ治るっちゃ。」

「ケイト、右手はどお?」

「うん…」

 ドーラが豚汁を食べながら言った。

「左手を利き手にしたら良いんじゃない?左手で斧持って…右手は軽いスモールシールドかバックラーを持ったら?」

 ベラも言った。

「ダフネが『鬼殺し』を使いこなすのに二週間くらいで両利きにしたじゃん?頑張れば、ケイトもいけるいける!」

 それを聞いて、ケイトの顔が少し明るくなった。

(ああ、そう言えばそうだった。ダフネに出来るんだから私にもできる!…頑張ろう‼︎)

 オリヴィアは「よっこらしょ」と言って立ち上がると、豚汁の二杯目をもらいに炊き出しに並んだ。すると、タマラとペトラがやって来た。

「お前ら、飯食ったら…死体の片付け、手伝えよ!」

「うっさいわねぇ…分かってる、分かってるってぇ〜〜っ!」

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