五百三十一章 中広場の死闘 その1
五百三十一章 中広場の死闘 その1
投石機による岩塊の投擲は続いていた。
イェルメイドたちは中広場のほぼ中央に着弾する投石を避けて、イェルマ中広場の北と南の斜面側に貼り付くように寄って布陣していた。
城壁の右側で、エステリック軍の様子を見ていたボタンは異変に気づいて叫んだ。
「イェルマ回廊から敵兵が出てきたぞっ!…凄い数だ、すぐに城門に防衛線を作るんだっ‼︎」
エステリック軍はイェルマ回廊から出てくると隊列を組んだ。いつも通り、タワーシールドを構えた金属鎧の騎士兵団が先頭を歩き、その後ろから皮鎧の義勇兵団が歩を進めてきた。騎士兵の数はおよそ1000、そして義勇兵の数もおよそ1000だ。
ボタンの側にいたタチアナは「イーグルアイ」で見て、それから言った。
「ボタン様、義勇兵の中にまたローブ姿の者が混じっています…!」
「魔導士か…城門から距離をとって布陣するように伝えろ。それから、魔法戦に備えてこちらも魔導士を配置せよ。」
ヴィオレッタはボタンのすぐ横にいて、ボタンやタチアナの指示を静かに聞いていた。
イェルマ軍は破壊された城門に設置された騎馬返しから30mの距離を置いて、盾持ちの剣士と戦士が並び、そして、その後ろに遠距離攻撃のアーチャーと魔導士が並んだ。この位置ならば投石機の弾丸の射程外だ。その他のイェルメイドたちは左右に分かれて、臨戦体勢を取って待機していた。
アーチャーの隊長、ブレンダが号令を出した。
「アーチャー隊、射撃開始っ!『アジャスト』のスキルを持ってる者は使えっ‼︎」
アーチャーは城門跡を通すように…エステリック軍に対して射撃を開始した。
幾本かの矢は騎士兵団のタワーシールドに弾き返されたが、幾本かはタワーシールドを飛び越して僅かに角度を変え義勇兵団に命中した。「アジャスト」は矢の軌道を修正するスキルだ。できればここで敵の魔導士を潰したいのだが…。
それでもエステリック軍は止まらなかった。そして、城門騎馬返しの手前10mで停止すると、エステリック軍の魔導士が呪文の詠唱を始めた。
「法と秩序の神ウラネリスの名において命ずる。集え、火の精霊サラマンダー。集いて幾重の火輪となり、而して我が敵に仇をなせ…爆ぜよ!ファイヤーボール‼︎」
エステリック軍から数発の「ファイヤーボール」が城門を塞ぐ騎馬返しを狙って発射された。「ファイヤーボール」は数基の騎馬返しを爆砕して城門付近は濛々とした炎に包まれた。
エステリック軍の魔導士たちは城門の直前で待機し、タワーシールドの騎士兵団は破壊されたイェルマ城門をくぐって、遂に城塞都市イェルマのうち懐に侵入した。騎士兵団は城門付近に強固な陣を形成すると、タワーシールドが左右に割れ、中から夥しい数の義勇兵を吐き出した。
それと同時にイェルマ軍の猛攻も始まった。
まずは、城門30m手前に布陣したアーチャーに加えて、北と南の一段目に配置されたアーチャーの「クィックイショット」が義勇兵団を襲った。ラージシールドと皮鎧だけという軽装備の義勇兵の体に面白いように矢が突き刺さり、義勇兵たちはバタバタと倒れた。さらにアーチャーの後ろに控えていた魔導士たちがコーネリア師範の号令に呼応して、「ウィンドカッター」「ロックバレット」「ファイヤーアロー」の比較的射程の長い魔法で追い討ちした。
これで義勇兵団の三分の一程度が壊滅し、そこへ左右から槍を持ったランサーの歩兵とベレッタ率いる騎馬兵が突っ込み、蓋をするように城門手前で待機していた盾持ちの剣士、戦士も加わった。
ベレッタの騎馬隊は「ライダー」を発動させて、両手持ちの矛や槍でエステリックの義勇兵たちを血祭りに上げていった。特に、ベレッタの持つ青龍刀は盾だろうが剣だろうが、その巨大でずっしりと重い刃で全てを弾いて…ひと振りで数人の敵を散らして、逃げ腰になった敵を剣士、戦士、ランサーが止めを刺して回った。
イェルマ軍はエステリック軍を三方向から包囲し…敵兵を100人単位で殲滅していった。しかし、エステリック軍は次から次へと義勇兵を投入し、中広場での戦闘は次第に混戦状態になっていった。
「ひえぇ〜〜っ…殺しても殺しても、キリがないぞ、コレッ!」
「こいつら…一体、何人いるんだよぉ〜〜っ!」
戦況を見たボタンは狼狽した。すでに中広場には1000人近い敵兵が友軍と戦っており、城門外の城門前広場にもさらに同じ数の敵兵が控えていた。
「むむっ…出し惜しみしていては捌けぬ数だ、全軍出撃っ!」
ボタンの全軍出撃命令で、武闘家房と獣人族を含む待機していた部隊も参戦した。敵があまりにも多いため、各房二交代制で対処するという余裕がなくなったのだ。剣士房のフレデリカ師範の檄で、休憩待機のイェルメイドたちも武器を手に取って出撃した。
オリヴィアは叫んだ。
「来た来た、キタァ〜〜ッ!ここにいる敵…全部わたしがぶっ殺ぉ〜〜っす‼︎」
オリヴィアはオリヴィアスペシャルマークⅡの砂蟲の歯の鞘を取り外すと、三つのスキルを発動させて敵兵の塊に向かって突進した。他の武闘家や獣人族もオリヴィアの後を追った。
接敵したオリヴィアは敵のショートソードを左のマークⅡの鋼部分で受け止めると、右のマークⅡの砂蟲の歯で義勇兵のラージシールドを横に薙いだ。すると盾は綺麗に真っ二つに切れ、がら空きになった義勇兵の胸をオリヴィアは改めて右のマークⅡの砂蟲の歯で攻撃した。砂蟲の歯は皮鎧を鎖帷子諸共に貫通して義勇兵の胸に深々と突き刺さった。そして、それをそのまま横に振ると、何の抵抗もなく…砂蟲の歯は肺、肋骨、鎖帷子、皮鎧を裂いて義勇兵の左脇から出てきた。その直後、義勇兵は左脇から大量の血を吹いて…絶命した。
背後に気配を感じてオリヴィアが振り返り様にマークⅡを振ると、それが義勇兵の首に当たって…首がスパッと切れて頭部があさっての方向に飛んでいった。「四硬」のひとつ…砂蟲の歯の前に、それを阻むことができる物は何もなかった。オリヴィアは縦横無尽、手当たり次第に義勇兵をマークⅡの錆にしていった。
それを後ろから見ていたドーラはみんなに注意を促した。
「みんなぁ〜〜、オリヴィアが荒ぶってるぞぉ…あまりオリヴィアに近づくなぁ〜〜っ!…アレに当たったら即死だぞぉ〜〜っ‼︎」
ベラは言った。
「砂蟲の歯…ハンパないなっ!」
タビサは地団駄を踏んでいた。
「うにゃあぁ〜〜、オリヴィア、カッコええやんかぁ…うちも帰ったら、飾ってある砂蟲の歯で武器作ろっ!」
敵兵に取り囲まれても、オリヴィアはマークⅡをクルクルと高速回転させ、鋼製で重量のあるのマークⅡを義勇兵の腕、脚、頭部にぶち当てた。激痛で義勇兵が怯んだ隙に、オリヴィアはマークⅡの砂蟲の歯を敵兵の喉や心臓の急所にサクッサクッと刺し込んだ。
オリヴィア以外の武闘家も奮闘していた。タマラとペトラは大槍と柳葉刀を持って、次々と義勇兵たちを屠っていった。ドーラ、ベラ、カタリナ、バーバラたちも大槍で健闘していた。
特に、獣人族は平民が多い義勇兵相手には無双状態だった。ウェアウルフの族長ネビライが槍で皮鎧の義勇兵の腹を突き刺し、そのまま持ち上げて、すぐそばの義勇兵の群れの中に投げ込んだ。…まぁ、そんなことをしているからすぐに武器が破損してしまうのだが。
ケットシーのタビサは猫爪蛇形拳の低い姿勢から短く持った槍を義勇兵の足を狙って高速で突き、転倒したところを後続のケットシーたちが止めを刺すという連携を見せていた。
オリヴィアが奮闘していると、義勇兵に地面に組み伏せられて苦戦しているイェルメイドを見つけた。すぐにオリヴィアは駆け寄って行って、義勇兵の背中をマークⅡで串刺しにした。
「大丈夫っ?…あっ、ケイト⁉︎」
それは戦士房のケイトだった。
「あ、ありがとう、オリヴィアさん…。」
オリヴィアはちょっと合点がいかなかった。
「ケイトほどの手練れが何で…こんな素人如きに…?」
ケイトは少しためらいつつ…手斧を握った右手をオリヴィアの方に突き出して見せた。
「城門前広場の戦いでね…敵のロングソードを受け損なっちゃって…」
オリヴィアがケイトの右手をよく見ると…手斧の柄と右手がリネンの包帯でぐるぐる巻きにしてしっかりと縛り付けられていた。
「何これ…ケイト、どうしたの?」
「敵兵二人を同時に相手にして…盾と斧で二本のロングソードを受けたんだけど…。右手の人差し指と中指をね…アナ様に治してはもらったんだけどね…」
ケイトは右手の人差し指と中指を欠損して、右手の握力が著しく低下し…思うように手斧を振れなくなってしまっていたのだ。
「…無理しちゃダメよぉ〜〜っ!」
「だって…ルビィとローズが…殺されちゃったから…!」
「ルビィとローズが…うえええぇ〜〜っ‼︎…こっちもねぇ…リューズがねぇ…」
オリヴィアは…ケイトの肩を抱いて一緒に泣いた。オリヴィアは戦士房の中堅たちとは顔見知りで大の仲良しだ。
するとそこに、城壁を越えて投石機の岩塊が飛んできて、中広場に着弾し十数人の義勇兵とイェルメイドを潰した。
「うぎゃっ…危ねっ!こいつら、正気かっ、仲間も道連れかっ⁉︎」
「あまり真ん中に行くなぁ〜〜っ‼︎」
イェルマ軍とエステリック軍は戦いながら、そして逃げ惑いながら…混乱の戦場で長い時間を費やしていった。
ボタンは戦況を見て唸っていた。
「ううう…城門が敵に占拠されてしまった…。」
ヴィオレッタが言った。
「三方向から敵を包囲して攻撃…形はイェルマ軍が断然有利です。エステリック軍を中央に釘付けにしている分、投石機からの被弾は我が軍よりもあちらの方が多い。ですが、問題は…城門を敵軍に握られたため、戦いの主導権を取られてしまいました。兵を投入するのも引くのも、あちらのタイミング…つまり、戦闘を続けるも止めるもあちらの都合に合わせなくてはなりません。それと、兵力差ですねぇ…個々の兵力差はイェルメイドが遥かに上ですが、あちらはそれを補うだけの兵の数を投入してきてます…。コッペリ村にはまだ敵の余剰兵力が2000くらいいるそうです。こちらが相手を擦り潰すか、逆に擦り潰されるか…予断を許しません。」
ヴィオレッタの見解を聞いて…ボタンは思った。4000の敵を擦り潰すために…我らは仲間を何人擦り潰されなくてはならないのか⁉︎
ヴィオレッタも戦況を危惧していた。
(やっぱり、投石器はうざいな…。偶然だとしても、投石が確実にイェルメイドを減らしている…こちらの兵力が1000を切ったら、絶対数でもう防衛が出来なくなってしまう…。)
ヴィオレッタはふと空を見上げた。
「…どうしました?」
ボタンの問いにヴィオレッタは答えた。
「雲が出てきましたね…夕方あたり、雨が降るかも…。雨が戦況にどう影響するでしょうか…。」




