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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五十三章 再びオーク討伐 その2

五十三章 再びオーク討伐 その2


 牧草地を見渡すと、オークの姿はなかった。馬車が到着した時に牧草地にまばらにいたオークは、お昼前には冒険者達によって狩り尽くされていた。その後も散発的にオークを狩ったが、この30分ぐらいオークは現れなかった。

「あたしが辺りを見てこようか?」

 斥候のアンネリが言った。

「ああ…アンネリ、頼む。」

「ついでに草トラップでも仕掛けてくるよ…ちょっと行ってくる…。」

 草トラップというのは、生えている草を二つ束にして結ぶという単純な罠だ。足元の注意がおろそかな間抜けは足を取られて転ぶ。

 アンネリは中腰になって一面の牧草の中に入っていった。しばらくして、戻ってきたアンネリはヒラリーに報告した。

「この辺りにオークはいなかったねぇ。」

「そうか…ありがとう。」

 待ちきれないオリヴィアがついに動いた。

「わたし、オークを引いてきますっ!」

「おいおい…大丈夫か…?」

 ヒラリーの心配をよそに、オリヴィアは「飛毛脚」を発動させ、牧草地を矢のように走っていってアンネリが設置した草トラップに引っかかって牧草の中に消えた。そして起き上がるとまた走り出して見えなくなった。 

 しばらくすると、オリヴィアが十数匹のオークを引き連れて戻ってきた。オリヴィアは時折振り返ると、オークに「大震脚」をお見舞いし二本の柳葉刀で一、二匹を始末して数を減らしてはまた走った。

「何だかんだ言っても、オリヴィア上手いな…。」

 ヒラリーの感想だった。

 パーティーから30mぐらいの距離に辿り着くと、オリヴィアはぴょんっぴょんっと飛び跳ねて柳葉刀を掲げてぐるぐる回した。それを見たサムはオリヴィアにヒールを飛ばした。スキルを使うと体力が減るのである。

「オリヴィアさん、凄いですね。ヒールの距離がちゃんと分かってますよ。」

「一見、出鱈目に見えるけど…天才なのかもしれない…。」

 サムとヒラリーはオリヴィアの戦闘センスに感心していた。

 ヒールを貰ったオリヴィアは「飛毛脚」と「大震脚」を駆使して、残り七匹を相手にしていた。ダフネとデイブが助けに入ろうとすると…

「こらあぁっ、来るなぁぁ〜〜っ‼︎」

 と…オリヴィアに怒られた。

 オリヴィアは複雑な歩法を使って包囲されないように動き回りながら、大きくて動作の鈍いオークの手首を跳ね、足をすくい、腹を切り裂いた。無理に致命傷を与えようとせず、少しずつ少しずつ手傷を負わせ、動けなくなったオークに改めてとどめを刺していった。とうとうひとりで十数匹を平らげてしまった。これで無傷だったのだから本当に凄い。

 オリヴィアはぜいぜい忙しく息をしながら言った。

「ヒラリィ〜〜、これで十四匹ねっ!この前のと合わせたら二十四匹…ちゃんと覚えといてよぉっ!…サム、ヒールちょ〜だいっ…。」

 サムとアナはオリヴィアをヒールした。無傷だったので全回復した。

「よしっ、もっかい行ってこよっ!」

「オリヴィア、あんまり欲張るなよぉ〜〜っ!」

 ヒラリーの忠告を聞いたか聞かずか、オリヴィアは再び「飛毛脚」で丘陵地帯の牧草地を全速力で駆け上がっていき…見えなくなった。

 しばらく静かになった。曇り空の中、一陣の風が緑の牧草地を渡っていった。ワンコはアナの隣で伏せて半分寝ていた。

 最初に気づいたのはワンコだった。ワンコは微かな地鳴りに気づいて飛び起き、みんなも異変に気づいた。牧草地の地平にオリヴィアがちょこっと姿を見せ、そしてその後ろからゆうに五十匹はいようかというオークの大群がオリヴィアを追って現れた。

 その恐るべき数を見たワンコは職場放棄をしてステメント村の方向に一目散に走って逃げてしまった。

「欲張るなって…言ったのにぃ〜〜っ…」

 突然、冒険者達はとんでもなく忙しくなった。ヒラリーはサムを通じて各パーティーに念話で指示をして、自分たちは後退し鶴翼の陣を敷いた。

「ジェニ、オークウィザードとアーチャーがいたら全力で射殺せっ!」

「は…はいっ!」

「サム、魔法の準備っ!オリヴィアに当たらないように、できるだけ数を減らしてっ!」

「分かった!」

「アナはいつでもホーリーライトが発動できるようにしといてっ!アンネリは前衛の援護をっ…ダフネ、デイブ、私でオークの先鋒を受け止めるよぉ〜〜っ‼︎」

「おうっ!」

 オリヴィアはぴょんぴょん飛び跳ねながらこちら向かって必死に爆走していた。

「…いや、ヒール、全然届かないよ。」

 サムはヒールの代わりにオリヴィアの後方にサンダーボルトを落とした。直撃の一匹は確実に即死、側撃を受けた周りの数匹が感電し地面を転がった。

 他のパーティーが左右側面からファイヤーボールやウィンドカッター、弓攻撃をオークの大群に浴びせた。しかし、なかなか数を削ることはできなかった。オリヴィアと三十匹余りのオークがヒラリーパーティーに突進してきた。

「アナッ!」

「はいっ…法と秩序の神ウラネリスよ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者…願わくば、聖なる光を灯し邪なる者を我らから遠ざけよ…顕現せよっ、神の威光!」

 アナを中心に強い光が放たれた。オリヴィアは間一髪でその光のフィールドに飛び込んだ。オーク達の足は止まり、呻いて目を両手で覆う者、背中を向ける者など戦意喪失する者が続出した。

 サムが「チェインライトニング」を放った。「チェインライトニング」は密集した相手にはよく連鎖する。電撃が五匹のオークの胸を貫いた。

「ジェニ、全力で目の前のオークを射殺せっ!」

 ジェニは「マグナム」三連射をオークの群れに放った。中距離で放たれた「マグナム」は分厚いオークの皮を貫通して深々と刺さった。「神の威光」は15秒しか持たない。アナはリキャストタイムを計算しつつ「神の威光」を連打した。

「掃討戦に入るぞっ!サム、ヒールと援護魔法に専念っ‼︎」

 三つのパーティーがオークの群れを包囲するように集まり、少しづつその数を減らしていった。

 サムはダフネとデイブに「シールド」を掛けた。ヒラリーとオリヴィア、そしてアンネリは回避能力が高いので、彼女達には必要ないと判断した。あとはひたすら分の悪そうな前衛にヒールを飛ばした。

 サムの「シールド」を貰ったダフネは俄然張り切った。「神の威光」に顔を背けているオークの頭を斧で殴りまくった。左から棍棒が飛んできて、ダフネはスモールシールドで受けたがオークの力に負けて右側に転倒した。するとすぐにサムのヒールがダフネを癒した。

(サムがあたしを気にかけてくれてる、あたしを見てる!いいところを見せなきゃっ‼︎)

 ダフネは「パワードマッスル」と「ウォークライ」を発動し、怯んだオーク達にがむしゃらに斧を叩き込んだ。

 アンネリは牧草に隠れつつ、デイブを襲うオークの利き腕や足にクナイを投げつけた。

 ヒラリーも奮戦した。レイピアに「護刃」を掛けオークの攻撃を巧みに回避して、脇の下や心臓、喉元を貫いた。なんとか、あらかたのオークを始末することができた。「マグナム」三連射を三度行ったジェニはアナの隣で伸びていた。

 行って帰って来るだけで精一杯だったオリヴィアが息を切らせながら言った。

「あ〜〜っ…びっくりしたぁ、死ぬかと思ったぁ…。」

「オ〜〜リ〜〜ヴィ〜〜アァ〜〜…」

 オリヴィアはヒラリーに怒られた。

 この日は、その後特に目立ったオークの襲撃もなく、数匹を倒して日が暮れた。みんなは野営なしの取り決めに従って迎えに来た二台の馬車でステメント村に帰還した。

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