五百二十八章 ベロニカ復活
明けましておめでとうございます。
旧年中、ご贔屓にしていただいた読者の方々、どうもありがとうございました。
今年もよろしくお願いいたします。
お正月ということで、三本をアップしたいと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。
五百二十八章 ベロニカ復活
ベロニカはユーレンベルグ男爵の長男、リヒャルドが経営するエステリック城下町のワイン工場の一室にいた。
エステリックの薬師から急性アルコール中毒と診断された日から約一ヶ月…なんとか病気は快癒して、毎日、ベロニカはボォ〜〜っとその日を過ごしていた。
アルコール中毒が治り切らない頃、マリアからの再三の「念話」が着信すると、それは酷い頭痛となってベロニカを悩ませた。
今では頭痛はおさまり、マリアからの「念話」も普通に受けることができていたが、返信するのが怖くて…既読スルーしていた。
(…絶対にマーゴットにどやされる…!嫌だなぁ…返信したくないなぁ…)
しかし、あまり無視ばかりしていると…本当にイェルマに居場所が無くなってしまう…。
ベロニカは一大決心をして、マリアの「念話」に返信する事にした。
そう思っていると、マリアから「念話」が来た。
(ベロニカ師範、ベロニカ師範…聞こえていますか?聞こえていたら、返事をください!)
(ああ…聞こえてるよ、マリア。)
(おおおっ!やっと通じた…一ヶ月も、今までどうしていたんですか?こちらからいくら「念話」を送っても全然返事が来ないから心配しましたよ。)
(ええとね…ちょっと大病を患ってしまって…。うん、もう大丈夫よ。)
(…大病⁉︎それって…「念話」もできないような病気だったんですか?)
(そうそう、病名もわからない謎の病気…罹患して即意識を失って、酷い頭痛と吐き気がずっとずっと続いてねぇ…。魔法って精神統一が肝心じゃん?「念話」を送るどころじゃなかったのよぉ…!)
(…もう、マーゴット様はカンカンですよ…!)
(まぁ、それは置いといて…何の用、何かあったの?)
(何て呑気な…何の用じゃないですよぉ!イェルマがエステリックから攻撃を受けているんですよ…)
(えっ…‼︎)
(イェルマ橋、イェルマ回廊が突破されちゃって、城門も壊されちゃって…もう、仲間が200人以上死んでるんですよっ‼︎)
(えええっ…ウソでしょ⁉︎…そ、そんな事になっているとは…)
(それでですね、ベロニカ師範…そちらで諜報活動をお願いします。ひとつはエステリック王国を出発する兵士や馬車の数、馬車は何を運んでいるかまで判れば最高です。あと、指揮官についての詳しい情報が欲しいです。よろしくお願いします…以上。)
(えっ、ちょっと…病み上がりの私に情報収集で走り回れってか?おい、おぉ〜〜い…)
マリアの「念話」は途絶えた。ベロニカはしばらく頭を抱え込んで、どう動き出すかを考えた。
(確か…ユーレンベルグ男爵がエステリック軍の動静を調べてたよなぁ…。)
ベロニカは自分の部屋から出て、ワイン工場の事務所を訪ねた。そこにはユーレンベルグ男爵の長男リヒャルドと数人の使用人がいた。
リヒャルドは言った。
「おや、ベロニカさん。ご気分はいかがですか?」
「ああ、ありがとう…だいぶ良くなったわ。」
「朝食は食べられますか?ご用意しますよ。」
「あのぉ…お父上は今どこに…?」
「あぁ〜〜…父はイェルマとかいう国に行きましたよ。その後、何の音沙汰もなくてねぇ…僕も心配してるんですがねぇ…。」
「そっかぁ…ううぅ〜〜ん…」
ベロニカは考えた。
(そう言えば…エビータ親子がいたなぁ…。そうだ、男爵と情報共有してたはずだ。)
「あのぉ…以前、ここでお世話になったエビータ…じゃなくて、エレーナとトムは、今どこにいるかご存知かしら?」
リヒャルドは首を捻った。すると、使用人のひとりが言った。
「…確か、エレーナさんは傭兵ギルドでどこかのお屋敷の警備をしておられるはずです。トムくんは屑鉄屋のお手伝いで毎日市中を回っておりますよ。」
「そ…ありがと。じゃ、城下町を探してみるわ。」
ベロニカはワイン工場から城下町へ出たけれど、すぐに戻ってきた。
「あのぉ…悪いんだけど、少しお金を貸してもらえるぅ?」
ティモシーはチネッテを乗せた新品の荷車を引きながら、エステリック城下町の中を歩いていた。
「チネッテさん、体の具合が悪いなら部屋で寝てればよかったのに…。」
「いやいや…毎年の事さね。今年の夏はちょっと暑かったからねぇ…夏バテだよ、夏バテ。こんな事でいちいち休んでいたら、おまんまの食い上げだよ。」
「そんなぁ…この前、金貨八枚も儲けたじゃないか。チネッテさん、もう歳なんだから…もっと楽をしたらいいのに…」
「…あの金貨八枚は、いざという時のためにとっておかないと。」
ティモシーはチネッテの姿を見て…擦り切れて袖や裾がほどけて細かい糸を垂らしている麻のワンピースや、傷だらけで底が少し取れてパコパコ言っている靴を買い替えたら良いのに…と思っていた。
すると、二人の行く手を遮る者がいた。
「やぁ〜〜っ、ティモ…じゃなくて、トム。探したよぉ〜〜っ!」
「あれぇ〜〜…ベロニカさん、元気になったんですね⁉︎」
「なった、なった!屑鉄集め…精が出るねぇ。ホントあんた、こういうちまちました仕事が好きだねぇ。」
「いや、それほどでも…」
「褒めてないって。」
チネッテがこちらの方を向いて心配そうに見ていたので、ティモシーはベロニカを紹介した。
「チネッテさん、こちらはベロニカさん。ええと…冒険者をやってた頃の…知り合い…かな?」
「…そうかい…よろしく。」
チネッテはよそよそしかった。そんなチネッテをよそにベロニカは本題に入った。
「あのさぁ…男爵って、今どこにいるの?」
「判りません。こっちが知りたいくらいですよ。」
「あんたさ、男爵と情報共有してたじゃん?今さ、エステリック軍ってどうなってるの?」
ティモシーは驚いて荷車を放り出し、ベロニカを路地の中に引っ張り込んだ。おかげでチネッテはもう少しのところで荷車から落ちそうになった。
「ちょっとベロニカさん、いきなり何を言うんですか!…密偵だって、バレるじゃないですか!」
「ああ、ごめんごめん。ずっと伏せってたから、勘が鈍っちゃって。…で?」
「僕はよく判りませんよ。ユーレンベルグさん、難しい話をしてたから…。多分、母さんの方がよく知ってると思いますよ。」
「そうか…。で、あんたの母さん、どこの屋敷で警備の仕事をしてるの?」
「ええと…ワグナー男爵のお屋敷です。」
「あんがと、そっち行ってみる。」
そう言って、ベロニカは早々に立ち去った。
ティモシーが路地から出てくると、チネッテがティモシーの両肩を捕まえて言った。
「トム、あの女はダメだよ…できるだけ、関わらない方がいい。一体、何歳年上なんだい?それに、世間擦れしたあの雰囲気…男をダメにするタイプの女だよ!」
「う…ううん…」
チネッテの言葉が的を得ていただけに…正直者のティモシーは否定する事ができなかった。
エビータはワグナー男爵の屋敷の庭の芝生の上で、三人の男たちに稽古をつけていた。
「こら、何度言ったら判るんだい⁉切り込む時に前のめりになるな、重心は後ろに残しておけっ!」
エビータが三人の男たちを手玉にとって何度も芝生の上に転がしていると、正門の警護をしていた男がやって来て言った。
「エレーナ姐さんに会いたいって女が来てるけど…?」
「…ん?分かった。お前たち、30分休憩を入れたら仕事に戻れ。」
エビータはワグナー邸の正門に向かった。そこにはベロニカがいて無邪気に手を振っていた。
「おぉ〜〜い、エレーナァ〜〜ッ!」
「ベロニカ…元気になったんだね。」
「なった、なった。それでさぁ…」
「おいっ…ここじゃ止めろっ!」
「あっと…そうだった。ティモシーにも止められたんだよねぇ…。」
「お前なぁ…何とか時間を作って夜にワイン工場に行くから、その時に…」
するとそこに…
「エレーナ、そいつは誰だ?」
声を掛けたのはベンジャミンだった。
「ベンジャミン…どうして…?」
「俺は暇な時はいつも仲間の様子を見ている。その女は?」
ベロニカが笑顔で言った。
「ベロニカよぉ〜〜、よろしくねっ!エレーナとはねぇ…冒険者ギルドで知り合ったのよ。ねえぇ〜〜っ!」
「う…うん、その通りだ…。傭兵ギルドに加入する前に、冒険者ギルドにも立ち寄ったんだ…その時に知り合った…。女冒険者は少なかったから、とりあえず友達になった…。」
「そうか…その風体、お前は魔導士だな。おい、エレーナ…こいつは使える魔導士なのか?」
「…そこまではよく知らない。」
ベンジャミンはベロニカに歩み寄った。
「ベロニカ、お前の得意な魔法は何だ?」
「私は火と地の魔導士、得意な魔法は『念話』。普通の魔導士の1.5倍くらいの距離を飛ばしちゃうよぉ〜〜っ!」
「ほぉ…いいな。俺たちのグループに入らないか?」
「いいよぉ〜〜っ!」
ベロニカの即答に、エビータ、ベンジャミンの二人はしばらく唖然とした。
…ベンジャミンは改めて言った。
「…魔法の腕を見てからに…するか。」
「失礼ねぇ〜〜…」
ベロニカは呪文を唱え始めた。
「美徳と祝福の神ベネトネリスの名において命じる…地の精霊ノームよ、冥府より這い出でて敵をその虎バサミで拘束せよ…縛れ、アーストラップ!」
ベンジャミンの足元が沈んで、ベンジャミンは地中に囚われた。
すぐにベンジャミンは呪文を唱えた。
「法と秩序の神ウラネリスの名において命じる…地の精霊ノームよ、地中より這い出でて地の上に堆く布陣して城砦となれ…出よ、ビルドベース!」
ベンジャミンの足元が盛り上がり、元に戻った。
「うむ…呪文詠唱も速いし、魔法も正確だ。だが…『ベネトネリス』って何だ、どこで魔法を覚えた?」
「それは…ナ・イ・ショ!」
「まさか…お前、イェルメイドじゃないだろうな⁉︎」
「イェルメイド?…何ですかそれは…違いますよぉ〜〜。」
ベロニカは何のためらいもなくキッパリと否定してニコッと笑った。エビータはベロニカのそう言った底意地の悪さに少し嫌悪感を感じていた。




