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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百二十七章 ユグリウシアとペーテルギュント

五百二十七章 ユグリウシアとペーテルギュント


 ユグリウシアとペーテルギュントはイェルマの鳳凰宮での「作戦会議」を終えて、イェルマ渓谷の北の五段目からさらに上にあるエルフの村に戻っていった。

 村に到着すると、ユグリウシアはペーテルギュントをお茶に誘った。

「ペーテルギュント、お疲れ様です…お茶を淹れますから、談話室のテーブルでハーブティーでもいかがですか?」

「…はい。」

 基本的にユグリウシアが自分をお茶に誘うことはない。きっと何か言いたい事があるのだろう…ペーテルギュントはそう思った。それは、嬉しくもあり悲しくもある…。

 ペーテルギュントは、普段ヴィオレッタが神代語の勉強をしているテーブルに座った。ユグリウシアがハーブティーを二つ持ってきて、ひとつをペールギュントの前に置いた。

 ペーテルギュントは言った。

「…何でしょうか?」

 ユグリウシアはハーブティーをひと口飲んで言った。

「ペーテルギュント、あなた…人間を殺しましたね?」

「はい…五人ほど。僕がイェルマのアーチャーと仲が良いのはご存知でしょう。あの時はアーチャーたちに命の危険がありました。…申し訳ありません。」

 しばし静寂が流れた。

「やはりあなたは…私たちと共にイェルマに来るべきではなかったかもしれませんね。自分の運命を見定めるには…まだ若すぎたのですね…。」

「…年齢は関係ありません。ここへ来たのは僕の意志です。」

 ユグリウシアは3028歳、ペーテルギュントは2355歳である。

「ですが…だからと言って、敵であったとしても、情に流されて人を殺めるのはここにいるエルフの総意ではありません。」

「僕は…みなさんと運命を共にしたいと思ってここにいるのです。これからは細心の注意をします。」

「みなさん…?」

「何を今更…僕はあなたと一緒にいたい、ただそれだけです。900年前、ドルイン湾でも言いましたが…お慕い申し上げております。」

「…私は銀髪碧眼のリーン一族、あなたは金髪緑眼のハイデル一族。エルフのしきたりでは私とあなたが結ばれることはありません…」

「分かっております…」

「…それで、もしあなたが良ければ…もう一度、ドルイン湾に行ってみませんか?あなたに紹介したい女性がおります…」

「ドルイン湾って…もしかすると…エスメリア=ハイデル…?」

「おや、エスメリアの事、知っていたのですね。セレスティシアから聞いたのですか?」

「はい…。」

 ユグリウシアはペーテルギュントの決意を尊重していた、イェルマにやって来てここでみんなと共に滅んでいくという決意を…。なので、エスメリアの存在をしばらく伏せていた。エスメリアの存在がペーテルギュントの決意を鈍らせるのではないかと思っての事だった。

 しかし、ペーテルギュントがイェルメイドを救うためとは言え、「人間と敵対しない」というエルフの村の「総意」に反した行動を取ったので、ペーテルギュントの決意を再確認しようと思ったのだ。

「彼女はハイデル一族の末裔です。あなたと同族…同じ金髪緑眼ですよ。」

「それは…ユグリウシア様ではなく、エスメリアを選びなさい…と言う事ですか?」

「その通りです。魔族領にハイデル一族がいるかどうかは判りませんが、バーグ湾はリーンの一部ですよね。リーンにハイデル一族の未婚女子がいるのであれば…同じハイデル一族のあなたとつがうのは何の不思議もないでしょう…」

「…それはそうですが…!」

「あなたはまだ若い。自分の運命を決めてしまうのは、まだ早いのではないですか?この戦争が終わったら…会ってみるだけでも会ってみては?」

「…。」

 エルフの社会では、同じ一族の中で結婚をする事はエルフのしきたりにかなう普通の事だ。それは一族の血を薄めずに、一族特有の能力をより高めるためだ。

 金髪緑眼のハイデル一族は身体能力が高い一族で、剣や弓の達人を多く輩出している。それに対して、銀髪碧眼のリーン一族は生まれながらにして魔力量が多く魔法を得意としている。

 また、エルフは基本的に「恋愛」で結婚はしない。一族の中で、概ね結婚相手が決まっていて、ある一定の年齢に達すると自然にそれぞれの「許嫁いいなずけ」と結婚する。家同士での上下関係はないが、主流と諸派での血縁の近さや能力の有無で大体決まる。なので、将来、自分が誰と結婚するかは、家系図を見ればある程度まで相手を絞る事ができる。

 この結婚に関するしきたりはエルフの気質に起因している。

 純血のエルフは約4000年の寿命を持つ。エルフは約200〜500歳で成人となり「思春期」を迎える。しかし、十年一日の如き生活を繰り返し「変化」を好まないエルフは、思春期を迎えても結婚する事に消極的で…子孫を残す行動に及ばない。これがエルフの「種」としての限界でもあった。

 また、妹のレヴリウシアのように年齢に達してすんなり結婚をするエルフもいれば、姉のユグリウシアのように「個」の幸福…魔法研究を優先して頑として結婚を拒むエルフもいる。

 ユグリウシアは言った。

「エスメリアは103歳、早くに両親を亡くし…ドルイン湾でマーマンと共に暮らしているそうです。ですから、普通のエルフとは違うかもしれませんね。そうですね…例えるなら、ずっと人間と共に生活をしていたセレスティシアに似ているかもしれませんねぇ…。」

 ペーテルギュントは思った。

(僕はエルフの子供の「子守り」役じゃない…。でも、ここにいても何の展望も期待できそうにないな…さて、どうしたものか?)

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