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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百二十六章 作戦会議

五百二十六章 作戦会議


 朝になって、北の五段目の鳳凰宮のにイェルマの重鎮たちが集まった。ボタンを含めた「四獣」と「食客」のヴィオレッタ、エヴェレット、そしてエルフの村のユグリウシア、ペールギュントである。

 ボタンの部屋の紫檀のテーブルの上には敵、エステリック軍のボウガンが置かれていた。

 初めて見るボウガンを手に取って、ボタンは困惑しながら言った。

「これで矢を飛ばすのか…小さいな。こんなもので兵士を倒せるのか…?」

 マーゴットがテーブルの上のボルトを示しながら言った。

「この矢の先に毒が塗っております。それで、ちょっとでも体に食い込めば…全身が麻痺して動けなくなります。」

 ボタンはボルトをテーブルから摘み上げてボウガンのレールの上に乗せ、右手で取手を引こうとした。

「むむ…固い!これは…どうやって使うのだ?」

 ヴィオレッタがボタンからボウガンを受け取って使い方を説明した。

「…こうやるのですよ。」

 ヴィオレッタはボウガンの先端に付いているあぶみのような部分に足を掛け、背筋の力でボウガンの取手を引き上げようとした。

「…んむむむぅっ!」

 ヴィオレッタには無理だった。それで、ボタンが代わってボウガンの弦を引いた。ガチっという音がして弦がフックに掛かった。

「なるほど、かなり強力そうだな…。セレスティシア殿はこの武器を使ったことがあるんだな。」

「いえ、本で読んだ程度です…これは従来のボウガンをさらに小型化して携帯しやすくした物ですねぇ…。」

「セレスティシア殿、我々はボウガンを使ったことがない。…詳しく説明してもらえるかな?」

 ヴィオレッタは説明を始めた。

「弓というものは両手を使わないと矢は飛びません。それに的に当てるためにはそれなりの訓練が必要になります。そこで、素人でも的に当たるようにしたのがクロスボウです。クロスボウは弓と違って矢を放つ動作を機械的に行うので、手によるブレが起こらず命中精度が高くなります。しかし、クロスボウは重量があり大型なので、クロスボウを携帯すると…もう、盾や剣は持てなくなってしまいます。そこで、クロスボウを改良して小型化したのがボウガンですね。それをもっと小型軽量化したのが、このエステリック軍のボウガンです。これなら、腰にぶら下げて運べそうですし、片手で支持して射つことも可能でしょう。ただし…射程距離は非常に短いと思われます。せいぜい、10mくらいじゃないでしょうか…。」

「10mか…。飛び道具がないと思って、剣で斬りに行ったらコイツでやられてしまうという訳か…。対処法はないのか?」

「徹底して、盾持ちの前衛を前に押しだして、ボウガンが使えないくらいの至近距離で戦う…くらい?」

「マーゴット…この毒に対する解毒薬はあるのか?」

「現在、毒の特定を急いでおります…。毒の特定ができませんと、解毒薬は作れませぬ。」

「そうか…。」

 ヴィオレッタが言った。

「クレリックやプリーストが使う神聖魔法に『神の処方箋』というのがあります。毒による中毒などの状態異常を回復してくれる魔法です。確か、エヴェレットさんも使えましたよね?」

「はい…有機毒なら大丈夫です。」

「その魔法…アナ殿は使えるのだろうか?」

 ボタンの疑問にユグリウシアが答えた。

「アナさんは使えますよ、彼女は優秀ですよ。」

 以前ユグリウシアはアナを「フォーチュンテラー」で鑑定している。

 ボタンは…それを聞いてホッとした。そして次に投石機について言及した。

「エステリック軍はあの投石機の回りに強固な陣を張っているが…みんな、それについて忌憚の無い意見を聞かせて欲しい…。」

 ライヤは言った。

「オリヴィアが頑張って投石機の車輪をひとつを破壊したらしいですね…ただ、仲間のリューズが亡くなったそうです…」

 マーゴットが言った。

「傾いた投石機…修理をして、再び使用するつもりでしょうか?」

 ヴィオレッタが言った。

「…修理して使ってくるでしょうねぇ…でなければ、あれだけの死人を出してまで投石機を守りはしません。」

「そうなると、城壁の上にアーチャーや魔導士を置いての防衛が難しくなりますねぇ…。」

 ボタン、マーゴット、ライヤはうつむいて暗い表情をした。

 ヴィオレッタが続けた。

「投石機を導入してきた敵の目的は…ひとつは、城門を壊すこと。もうひとつは城壁の上に人を配置させないこと。これによって、敵軍は城壁の側まで近づくことができます…」

「すると…城壁に開いた穴、城門付近が主戦場になるわけか。現在、騎馬返しで何重にもバリケードを築いてはいますが…」

 ヴィオレッタはしばらく沈黙して…それから再び喋り始めた。

「ちょっと良いですか?…気になっている事があります。城内に落下した投石機の弾丸を見ました。直径約50cm、重さは約80kgで真球に近い大理石でした。普通…投石機に使う弾丸は岩塊などです。そもそも投石機というものは、岩塊を数十発射ってその中の数発が城壁に当たれば御の字みたいな武器です。それを…大理石を削り真球にするまで時間を掛けて研磨するとは…あの組み立て式の投石機の設計者はよほど、投石機の命中精度にこだわりを持っていたんじゃないかと思います。実際、信じられない事にたったの三発でイェルマの城門を破壊していますよね…まさにピンポイントですよね。もしかしたら、ボウガンの設計者も同じ人じゃないでしょうか…」

 ボタンは言った。

「…設計者?」

 ヴィオレッタは続けた。

「設計者は頭が良くてとても神経質な人だと思います。そんな人なら…自分の設計した武器が期待通りの結果を出すのを、近くで見届けたいと思うんじゃないでしょうかね…?そして、戦場近くで自分が設計した武器の使い方を細かく指示しているのではないかと…。私も対ワイバーン用のいしゆみを設計した事がありますけど、やっぱり自分の設計したいしゆみがどの程度実用に耐え得るか…この目で確かめないとと思いました。」

「…ん?それはどう言う…」

「私が言いたいのは…この設計者がエステリック軍の指揮を執っているんじゃないかって事です。軍の指揮官の素性、性格が判れば…その指揮官の考える事、やりそうな事もおおよその見当がつきます。それで、コッペリ村にいるレイモンドさんに探りを入れてもらいますので…少し時間をいただけますか?」

 それを聞いたマーゴットはすぐに情報収集担当の副師範のマリアに「念話」を送って、コッペリ村のサムと連絡をとった。


 マリアからの「念話」を受け取ったサムはすぐにレイモンドと相談をした。現在、レイモンドはヴィオレッタから指示があればすぐに動けるようにとダンの雑貨屋に居候している。

「エステリック軍の指揮官について調べて欲しいそうですけど、レイモンドさん…できますか?」

「そうですねぇ…作戦本部が宿屋ってことだから、床下にでも潜って地道に情報収集って感じですかね。…何日も掛かりそうだ。」

 するとそこに、雑貨屋の入り口からキャシィが入って来た。

「こんちゃあぁ〜〜っ!」

 一階にいたダンやオーレリィが応対した。

「キャシィ、どうしたんだい?」

「卵を持ってきたよぉ〜〜。ダフネに精をつけさせようと思って。」

 そう言ってキャシィは、卵三個をオーレリィに渡した。

「ああ…ありがたいねぇ。気を遣ってくれて…ありがとうねぇ。」

「ちょっとダフネとユノちゃん見てこ…あれ、みんな何で集まってるの?」

 サムが暗い面持ちで言った。

「イェルマが大変らしいんだ…。どうやら苦戦を強いられているらしい。それで、マーゴットさんから、エステリック軍の指揮官の素性を調べて欲しいって『念話』が来たんだ。…で、今、レイモンドさんに諜報活動を頼んでたところだ…」

「指揮官?…レンブラント将軍、それとも…カイル参謀、どっちかなぁ…」

 みんなは驚いた。

「えっ…キャシィ、どうしてそんな事知ってるの⁉︎」

「だってさ、エステリック軍の幕僚たちがさ、日に三回、キャシィズカフェにご飯食べに来るからさ…それで時々、兵士がやって来て戦況報告とかしてるし…。んんん…報告を聞いてるのは決まってカイルだなぁ…。あいつが指揮官かも知れない…」

 サムが興奮して言った。

「その…レンブラント将軍とカイル参謀について詳しく教えてよ。どんな奴なんだい?」

「んとねぇ…レンブラント将軍はグルメだねぇ…」

「…グルメとか嗜好はいい。性格はどんな感じ?」

「普段は温厚…だけど、怒ると平気で人を殺す感じ。宿屋のおっちゃん…殺されちゃったよぉ〜〜っ!」

「…カイル参謀は?」

「アイツはいけすかないヤツ。なんか、理屈っぽくてさぁ…几帳面でさぁ、凄く冷たい感じで、顔色ひとつ変えずに毎日死体の数を数えてるねぇ…。」

「そうかぁ…。よし、すぐにマーゴットさんに報告しよう。キャシィ、これからもその二人の言動に注意して、何かあったら僕に教えてくれ。」

「分かったぁ〜〜。」

 そう言うと、キャシィはダフネと赤ちゃんがいる二階へと登っていった。


 オリヴィアは激昂していた。

「早く出撃させろおぉ〜〜っ!…リューズの仇を…エステリックの奴らを一万人ぶっ殺す、絶対殺すっっ‼︎」

 それに同調して、ドーラやベラたちも騒ぎ立てた。

 辟易したタマラは言った。

「私じゃなくボタン様に言えっ!…それに、お前はさっき出撃したばかりじゃないか、次は私たちの番だ、しばらく休んでろっ‼︎」

「んにゃっ…着いて行く、絶対行くっ!」

 そう言って、オリヴィアは両手に装備したオリヴィアスペシャルマークⅡをブンブン振り回していた。

 バーバラが心配して後ろからオリヴィアに近づいて、言った。

「…気持ちは分かるけどさぁ、少しは体を休めなよ…」

 バーバラの言葉でオリヴィアが振り向いた途端…振り回していたオリヴィアスペシャルマークⅡが運悪くバーバラのこめかみ辺りにヒットしてしまった。

「はぐぁっ…!」

 バーバラは倒れた。

 慌てたオリヴィアはすぐにバーバラを抱き起こしてゆさゆさと揺すった。

「うわっ、バーバラ…大丈夫⁉︎死ぬなぁ〜〜、死んだら借金、払わないぞぉ〜〜っ‼︎」

 朦朧とした意識の中で…バーバラは呟いた。

「お…おのれ、オリヴィアァ〜〜…借金だけは…死んでも払えぇ〜〜っ…!お金は私の墓前に供えろぉ~~っ…!」

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