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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百二十三章 オリヴィアの悲しみと怒り

五百二十三章 オリヴィアの悲しみと怒り


 オリヴィアは目を覚ました。

 オリヴィアの顔の上にはケットシーのタビサの顔があって、心配そうに覗き込んでいた。その回りをオリヴィアと仲の良いドーラ、ベラ、バーバラ、カタリナが囲んでいた。

「んんん〜〜…ここはどこだぁ、わたしは一体どうなったんだぁ…?」

「おおっ、オリヴィア、目が覚めたんかね。」

「…タビサちゃん、それからみんなも…」

 オリヴィアは辺りを見回してみた。かがり火に照らされていてもみんなの表情は暗く、オリヴィアはイェルマが苦戦しているのだなと思った。

 オリヴィアが目覚めたのはイェルマ中広場の武闘家房が固まって駐留している陣地で、地面に直接毛布を敷いて、その上にオリヴィアは寝かされていたのだった。

「何でわたしはこんなとこに寝かされてるんだぁ〜〜?」

「あんたは負傷者じゃなくて、単純に体力が切れただけだから…魔導士から一回『ヒール』をもらって、ここに連れて来たんだよ。今、神官房になってる祭事館は怪我人でいっぱいだからねぇ…」

「そっかぁ…なんか、久しぶりにたっぷり寝た気がするぅ…。ちょっと、お腹が空いた気もするぅ…。」

 すると、バーバラがすぐに気を利かせた。

「じゃ…私が炊き出しでご飯もらってくるわぁ〜〜!」

 そう言って、バーバラは北の一段目に全速力で走っていった。バーバラにしてみれば、これから悲嘆に暮れるであろうオリヴィアのために何かしたい、何かしてないと場が保たない…と言うのが本音だった。

 バーバラが持ってきたドンブリいっぱいの野菜とウシガエルのごった煮とライ麦パン三個を、オリヴィアは急いで口に掻き込んだ。

「ふぃ〜〜…良い腹持ちになったぁ〜〜。そう言えば…リューズが見えないねぇ。リューズどこ行ったぁ?」

 みんなはしばらく黙っていた。そして、ドーラが重い口を開いた。

「リュ…リューズはねぇ…祭事館にいるよ。ちょっと…ねぇ…」

「ああ、リューズ…怪我をしたのかぁ。具合はどんな感じなの?」

「んんん…寝てる…かな…。」

「ちょいみんなでお見舞いに行ってくるか…」

 そう言って、オリヴィアはあまり話し掛けたくはないけれど、武闘家房全体の隊長であるタマラに声を掛けた。

「タマラァ〜〜、リューズのお見舞いに行ってきたいんだけどぉ〜〜?」

 タマラはリューズの身に起きた事を知っていた。

「…いいぞ。次に出撃命令があったら、私とペトラで残り半分を率いて行くから…しばらくお前たちは待機だ、ゆっくりして来い…。」

「ゆっくりって…あひゃはははは、すぐ戻って来るってば。」

 タビサは言った。

「うちは…まだ、ボウガンの毒で少し痺れがあるけぇ…みんなで行って来ぃ…。」

「…毒?タビサ、大丈夫?祭事館で手当てしてもらえばぁ?」

「大丈夫、だいじょぉ〜〜ぶやけぇ。」

 バーバラとカタリナも…

「私たちも…前の戦闘で槍が折れちゃって、新しいのに慣れておかないとだから…。」

「そっかぁ、分かった。」

 結局、お見舞いに行くのはオリヴィア愚連隊の面々だけとなった。これは…タビサやバーバラたちの配慮だった。

 オリヴィアは言った。

「ふふふ…そうだ、リューズのやつ、お腹を空かしているかもだから、炊き出しのご飯を持っていこう!」

 ドーラは言った。

「…多分、食べないと思うぞ…。」

「えっ⁉︎…リューズの怪我、そんなに酷いの?」

 ドーラとベラはその問いには答えなかった。

 オリヴィアたちは祭事館に到着した。

 祭事館の周りにも多くのかがり火が立てられていて、祭事館の外にたくさんのイェルメイドが地面に寝かされており…体の上にむしろが掛けられているのがよく分かった。

 それを見たオリヴィアは…

「むっ…これって…こんなに死んじゃったのぉ…⁉︎…酷い。くっちょぉ〜〜…エステリック軍めぇ〜〜…‼︎」

 オリヴィアが祭事館の中に入って行こうとしたので…ドーラはそれを止めた。

「オリヴィア…そっちじゃないよ、こっちだよ…。」

「…えっ!」

 ドーラたちは無数のむしろの間を縫うように歩いて行って、ひとつのむしろの前で止まると、オリヴィアに手招きした。

 オリヴィアは理解した。

「ええええぇ〜〜っ!…寝てるって…言ったじゃんよぉ〜〜っ…‼︎」

「うん…リューズは…ここに寝てるよ…。」

 オリヴィアはおぼつかない足取りで…ゆっくりとそのむしろの前まで歩いて行った。そして…ゆっくりとむしろの上半分をめくってリューズの顔を見た。

「…クラウディアさんがさ、ボウガンの矢が心臓に達していて…多分、即死だったんだろうって言ってた。苦しかったのは一瞬だったろう…って。」

 オリヴィアは無言だった。右手でリューズの頬に触れ、優しく撫でると…オリヴィアの脳裏に昔の記憶が蘇ってきた。

 リューズと初めて会ったのは学舎に入った七歳の時だった。同じ孤児院から引き取られてきたリューズ、ドーラ、ベラ、キャシィはいつも一緒で徒党を組み、学舎の他の子供たちを威圧していた。

 気の強いオリヴィアとリューズがぶつかるのは必然で、二人は大喧嘩をし、それでお互いに認め合う仲になった。「オリヴィア愚連隊」の誕生だった。

 毎日のご飯が足らない、肉をお腹いっぱい食べたいと言う事で、みんなして山の中にイノシシ狩りに入って歌を歌いながら行軍した。アシッドボアと遭遇して、みんなして追いかけ回された。覚えたての「震脚」でみんなまとめて失神させた事もあった。後でリューズから散々文句を言われた。

 大人になってオリヴィアがタマラ姉妹と対立した時も、いつも味方をしてくれた。

 オリヴィアが他所よそ行きの白い毛皮の外套が欲しいと我儘わがままを言うと、みんなして冬のクソ寒い雪の山中に分け入って、ユキヒョウを捕まえるのを手伝ってくれた。

 最近だと…苦労して砂漠の巨大なサソリやヘビを一緒に退治して、砂蟲を見に行った時にはその大きさに驚嘆してみんなで全速力で逃げた。あの時のリューズの半ベソの顔が面白おもしろ可笑しく、今もはっきりと思い出される…。

 今思うと…リューズはいつもわたしのそばにいて、わたしの我儘わがままを通す手助けをしてくれていたよね…。

「う…ううっ…リューズ…何でえぇ〜〜…何でこんな事にぃ…」

 オリヴィアの頬に幾筋の涙が伝った。リューズの頬に触れていた右手はいつの間にか握り締められてこぶしとなり…悲しみは怒りとなってオリヴィアを飲み込んだ。

「うおおおおぉぉ〜〜〜〜っ‼︎…許せん、絶対許せん…殺す、ブチ殺すっ…‼︎」

 オリヴィアは悲痛な雄叫びを上げて、その場から走り出した。

「オ…オリヴィア…どこへ…?」

 オリヴィアの行き先は…南の斜面の鍛冶工房だった。

 オリヴィアは無我夢中で夜の南の斜面を走って登った。足元も見えない暗闇の中、何度もつまずいて転びそうになった。

 鍛冶工房に飛び込み、開口一番オリヴィアは叫んだ。

「オリヴィアスペシャルマークⅡ…ちょぉ〜〜だいっ!」

 鍛冶工房には夜番で戦士房OGのドミニク、ラムジィ、ミカエラがいた。三人はいきなり現れたオリヴィアに驚きつつも…オリヴィアの汚れた顔についた二本の筋を見て言った。

「オリヴィア、あんた、泣いてたんだね…どうしたんだい?」

「ううう…リューズが死んだ…殺された!大事な仲間だったのに…親友だったのに…」

「…そうかい、そんな事が…。私たちは兵士だからねぇ…戦場では必ず兵士は死ぬ。たまたま、今回はリューズだったんだよ。仕方のない事だったんだよ…。」

「やだっ…そんなのやだあぁ〜〜っ‼︎」

 オリヴィアはドミニクの胸に顔をうずめて激しく泣いた。その様子を横に見ながら…ラムジィとミカエラは二本の「ト」の字型の武器を持ってきた。それは…丹念に磨かれてまばゆいばかりの銀色の光を放っていた。

 それを見たオリヴィアは、すぐに二本の鋼製のかいを受け取ると両手に持って構えた。

「…殺す、エステリックぶっ殺す…一万人殺すっ‼︎」

「少し重くないかい?…無垢の鋼で造ったからねぇ…」

「やっ…これでいいっ!」

「先端の『砂蟲の歯』には鞘を付けてある。誤って仲間を傷つけないためだ。十分注意して扱うんだよ。」

「分かったあぁ〜〜っ!」

 オリヴィアは疾風の如く鍛冶工房を飛び出していった。

「こらぁ…危ないから、松明たいまつを持っていきなぁ〜〜っ!」

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