五百二十章 攻城戦 その3
五百二十章 攻城戦 その3
ボタンはすぐに城壁の上にいるイェルメイドに退避命令を出した。
「みんな…階段まで退避…退避しろぉ〜〜っ‼︎」
城壁の上にいたアーチャーと魔導士たちは左右に分かれて、北と南の三段目の階段に向かって逃げた。
イェルマの城壁が砕けるのを見たオリヴィアは半狂乱になった。
「うぐおぉりゃあぁ〜〜っ!」
オリヴィアは、タワーシールドに密着しているウェアウルフの背中を蹴って「軽身功」で四重のタワーシールドを飛び越し、敵陣内に着地した。すると、騎士兵と義勇兵が殺到して来た。すぐにオリヴィアは「迎門三不顧」を発動させて、敵兵士を蹴散らしながら投石機に向かって突進した。そうしているうちに…投石機の第二射が発射された。
師団長は叫んだ。
「投石機を3度左に傾けよっ!準備が出来次第、すぐに第二射を発射せよっ‼︎」
騎士兵たちは投石機の前と後ろで逆方向に押し込んで位置を僅かにずらすと、大理石の弾丸が装填されてすぐに発射された。
ドゴオオォ〜〜ン…‼︎
弾丸は城門のすぐ上に着弾し、城壁の煉瓦がボロボロと崩れて…城門を釣り上げる大きな鉄の鎖の一本が露わとなった。
「投石機を5m下げよっ!」
獣人族の決死の活躍によって、タワーシールドの壁にいくつかの穴が開き、イェルメイドたちがどんどんと食い込んでいった。
オリヴィアは敵陣の真っ只中で奮闘していた。二本の拐で敵の攻撃を弾きつつ、義勇兵の顎や腹部を狙って拐を突き込んだ。倒しても倒しても敵兵はどんどん湧いて隙間を詰めてくる。身動きが取れなくなる前に、オリヴィアは「軽身功」でピョンピョン飛んで場所を変えた。投石機に近づけば近づくほど敵兵の数が多いので、オリヴィアが跳躍する度に投石機からは遠ざかっていく…。
「くっちょおおぉ〜〜…!」
オリヴィアはもう一度「迎門三不顧」を発動させて投石機までの道を作った。その瞬間…オリヴィアは目眩を感じた。
オリヴィアは常時、「軽身功」「黄巾力士」「梅花掌」を保持しながら戦闘をしている…その上に、二度も「迎門三不顧」を発動させたせいで、オリヴィアの体力は半分を切っていた。
投石機の第三射が発射された。
ズガガアァ〜〜ンッ‼︎
弾丸は城門に見事命中し、分厚い城門とそれに重なる黒い鉄格子が粉砕され、それに伴って城門の上の城壁もことごとく崩れ落ちた…。二百数十と余年を掛けて、遂にエステリック軍は城塞都市イェルマに一点の風穴を開けた瞬間だった。
「…ぅおにょれええぇ〜〜っ‼︎」
オリヴィアがやっと投石機を視界に捉えた時、四発目の弾丸を装填している最中だった。
オリヴィアは拐を振り回して投石機に近づいていった。が…拐の一本が折れてしまった。いくら硬い樫の木といえど、無数の鋼の剣を受けているうちに徐々に削れて強度が落ちてしまったのだ。
「…くぅ…!」
オリヴィアは二本の拐を捨てて、三度目の「迎門三不顧」を敢行した。
一発目で群がる雑魚を吹き散らし…二発目、三発目の拳を投石機の車輪にぶち当てた。
その衝撃と同時に、次々とロープを握る騎士兵の手が離れ…ゆっくりとアームが起き上がって弾丸が発射された。発射された弾丸は大きな放物線を描いて…城門の10m手前の地面に着弾した。騎士兵がみんな同時ではなく、バラバラに手を離したため、錘がゆっくり落ちて城門に到達するための十分な瞬発力が得られなかったのだ。
ビキィッ…
車輪の金具のひとつが弾け飛び、車輪の一部に亀裂が入った。すると…その車輪は投石機の重みに耐えかねて潰れ、投石機はガクンと傾いた。オリヴィアの二連撃を受けた車輪は、その部分の金具が少しずれたのだ。そのため、投石の反動と投石機の重みの荷重がその弱くなった部分に集中し…金具が弾け飛んだのである。
オリヴィアは三回に亘る「迎門三不顧」の発動で体力を使い果たし、前後不覚となって倒れた。
「…バタンキュウゥ〜〜…」
敵兵が殺到してきた。
「このアマァ〜〜ッ!…ぶっ殺してやるぅっ‼︎」
「…させるかよぉ〜〜っ‼︎」
そこにリューズたちオリヴィア愚連隊が駆け付けてきて、騎士兵たちと交戦となった。後からやって来た獣人族も加わって…獣人族の圧倒的火力で投石機付近の敵を皆殺しにしていった。
リューズは言った。
「危なかったなぁ…。このバカ、無茶しやがってぇ〜〜…。とりあえず撤退しよう…おい、ドーラ、ベラ…オリヴィアを抱えていくぞぉ〜〜。」
「おうっ。」
ドーラとベラはオリヴィアの足を片方づつ持ち、リューズは中腰になってオリヴィアの体を持ち上げた。
「…うぐっ!」
リューズが呻いた。リューズの左の背中に皮鎧と鎖帷子を貫通して…ボウガンのボルトが深々と刺さっていた。それは、地に伏した騎士兵が死に際に放った一撃だった。
城壁の脇で戦況を見ていたボタンとヴィオレッタは、投石機が傾いたのを見て…
「セレスティシア殿、どう思われる?」
「…投石機は強固な土台がないと、重量のある弾丸を発射できません。もし、あの状態…傾いたままで再び発射したら、多分、投石機は自壊するでしょう。」
「そうか…」
イェルマ回廊はいまだに多くの騎士兵と義勇兵を吐き出していた。次々と倒れていく仲間たちを見かねたボタンは…全軍に撤退命令を出した。
「…負傷者を回収しつつ…全軍を撤退させよっ!」
ヴィオレッタが独り言のように小さな声で苦言を呈した。
「…あの投石機は修復できないところまで粉々に破壊した方がいいかも…。」
「いや…軍を再編成して…仕切り直す…。」
ヴィオレッタは思った。あの投石機が一台だけとは限らないし…無理をして破壊しても再び投石機が持ち込まれる可能性はある。状況が変わらないのであれば、ここでひと息つく事は選択肢のひとつなのかもしれない…と。
イェルマ軍は潮が引くように、一斉に撤退を始めた。負傷者を拾って荷馬車に乗せ、仲間同士で肩や腕を貸し合って…地獄の戦場を後にした。
一匹のウェアウルフがオリヴィアとリューズを両肩に担いで愚連隊と共に全速力でイェルマ城門の内側に駆け込んだ。獣人族にはある程度の毒への耐性があるようで、ボウガンのボルトを食らった者も自力で帰還した。
荷馬車を操っていたのは練兵部のOGたちだった。1000人近くを攻城戦に投入したため、退役して予備役になっているOGたちも呼集されたのである。
OGたちは負傷したイェルメイドや死体をどんどんに馬車に担ぎ込んでいった。すぐに荷馬車が満杯になったため…
「…だめだ。息をしている者優先にしよう。息をしていない者はその場に置いていこう…。」
負傷者を探しているOGのひとりが死体のそばで膝を折って泣き崩れていた。
「あううう…ヘレン…」
「…もう死んでるよ。助かる者を…助けていこうよ…。」
イェルマ回廊周辺を制圧したエステリック軍は、投石機を中心に新規投入された騎士兵団が重厚な陣を構えた。
イェルマ軍は全壊して跡形もない城門の代わりに前広場と中広場の騎馬返しを集めてきて急拵えのバリケードを作った。




