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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五十二章 再びオーク討伐 その1

五十二章 再びオーク討伐 その1


 喪が明けた。

 オーク討伐に出発する冒険者達は朝五時に起きて準備を始めた。 

 オーク討伐の布陣については、結局ヒラリーの、8人構成のパーティーを5個作って夜の野営なしで実働三日休み二日の案が採択された。

 本人の希望で、新たにジェニがヒラリーのパーティーに加わり、ヒラリーパーティーは…ヒラリー、デイブ、サム、ダフネ、アナ、アンネリ、オリヴィア、ジェニ…となった。

 朝六時頃、宿屋で朝食を食べていた時、ご機嫌なデイブが口の中のパンを飛ばしながらみんなの前である告白をした。

「ほっほっほぉ〜〜っ…今朝はええ夢を見たぞぃ。神様が出てきて金の斧と銀の斧を示して俺にどちらかを選べと言うんだ。俺が金の斧を選ぶと、神様はその金の斧で俺の頭をかち割ったんだよ…。」

 ヒラリーはその夢を知っていた。

「おっ、デイブ。さてはスキルを覚えたね?」

「ほっほっほ!『ウォークライ』覚えたっ、ダフネに並んだぞぉ〜〜っ‼︎」

「げっ…!」

 そう叫んで、ダフネはちょっと嫌な顔をした。その横でアンネリはもっと嫌な顔をしていた。

(夢が丸かぶりじゃんかぁ…!)

 アナがくすくすと笑っていた。

 ジェニが言った。

「デイブさん、もし銀の斧を選んでたらどうなるんですか?」

「前の『パワードマッスル』の時は控えめに銀の斧を選んだんだ…やっぱり頭をかち割られたがなっ!」

「何それ…。」

 みんなは笑った。

 「スキル」を獲得する前に、みんなそれぞれに個性的な「予兆」がある。ジェニのように悪寒を感じる者、アンネリやデイブのように前の夜に夢を見る者など、それぞれに不思議な体験をすると言う。

「あたしの場合は空から何か…金タライみたいな物が頭に落ちてくるんだ、ガァーンッ…って。」

 ダフネの「予兆」にサムがスープを吹き出してむせた。横のデイブが、汚ねぇ〜なっと言って、サムの背中を叩いた。また笑いが起こった。

 その様子を見てダフネも笑った。ちょっと恥ずかしい反面、嬉しくもあった。

 オリヴィアは稼ぎ時に備えて、黙々と朝のエネルギー補給をしていた。


 ヒラリーパーティーを含む3個パーティーは二台の馬車に分乗し、丘陵地帯を登った。一匹の大型犬がオリヴィアの乗った馬車の後を追いかけていた。

 20分ぐらい馬車に揺られて牧草地に近づくと、すぐに1匹のオークと遭遇した。三日の喪の期間で、オークの行動範囲が広がってしまったようだ。

「俺にまかせろっ!」

 デイブが「ウォークライ」を初披露すべく馬車から飛び降り、果敢にオークに挑んでいった。アンネリもこっそりと馬車を降りていった。気づいたオークは猛然とデイブに襲いかかってきた。デイブは「ウォークライ」を発動させた。

「うおおおお〜〜いっ…!」

 オークが…止まったのは一瞬で、そのまま棍棒を叩きつけてきた。デイブはそれを辛うじてラージシールドで受け止めた。

 後から来たアンネリが覚えたての「セカンドラッシュ」を発動させ、オークの腹にナイフの四連撃を喰らわせた。「セカンドラッシュ」はその名前の通り、術者の動作を一秒間だけ2倍の速度に加速するスキルで深度が増すごとに秒数が増えていく。最大のメリットは移動速度だけでなく、攻撃速度も加速されることである。

 オークは腹から腸を出して唸りながらうずくまり、デイブがバトルハンマーでオークの頭を砕いた。デイブは自分の喉をさすりながら、しょげかえっていた。

「何じゃ、こりゃぁ…何でダフネみたいに、いかんのじゃぁ〜〜っ!」

 単純に練習不足である。

「デイブさん、気合いが足りないんだよ。それにしても…アンネリもスキル覚えたのかぁ…深度1カンストだろぉ〜、ずるいよ。いつの間に覚えたんだよぉ⁉︎」

「ふっふっふっふ…。」

 ダフネのやっかみに含み笑いで答えるアンネリだった。本来ならイェルメイド以外には隠し通すアンネリだが…どうしてもアナにいいところを見せたかった。アンネリがアナの方を見ると、アナは微笑んでいた。

 シビルを倒したパーティーは過分の経験値を獲得していたようだ。


 馬車から降りた三つのパーティーはそれぞれ100m程の間隔をとって展開した。遥か先に数体のオークの姿が見える。やはり勢力範囲を広げていたようだ。

 オリヴィアは着いて来ていた大型犬に近づいていった。大型犬はオリヴィアを見るや否や、耳を倒してころんとひっくり返ってお腹を見せた。オリヴィアは喪中の二日の間にこの大型犬を手なづけていた。

「いいこと、ワンコ!あなたはオークと喧嘩したら食べられちゃうから、ここで後衛さん達を守るのよ、分かったぁ?」

 まぁ…分かる訳はない…それでもワンコは分かったふりをして尻尾を振った。踏まれても蹴られても、定期的に餌をくれる人間を主人と思ってしまう悲しき畜生の性か、それとも今までの人(犬)生の中でよっぽどオリヴィアの鉄拳制裁が衝撃的だったのか…ワンコはオリヴィアに従順になっていた。

 それを傍で見ていたパーティー全員はほっと胸を撫で下ろしていた。みんな、オリヴィアがワンコを自分の尖兵としてこき使い使い捨てにするつもりではないかと思っていたからだ。

 ヒラリーはパーティー初参加のジェニに声を掛けた。

「ジェニ、シビル戦で思ったけど、あんたの課題は体力と近接戦闘への対応だね…。」

「…はい。」

「とりあえず、遠くにいるオークを撃ってみようか。殺さなくていいから足を狙ってみて。『マグナム』や『クィックショット』は使わなくていいから。」

 ジェニはヒラリーのアドバイスで普通の木軸の矢をたくさん持って来ていた。カスタムの鋼製の矢は威力はあるが、野戦向きではない。アーチャーは敵を倒すと矢を回収して使い回すことで矢の損耗を最小限にする。しかし、野戦ともなると矢は使い捨てになる。ヒラリーは今のうちに使い捨てができる安い矢でジェニを慣れさせようと思ったのだ。

 ジェニは「イーグルアイ」を発動させて遥か遠くのオークの足を狙って撃ったが…外れた。もともと目が悪いジェニだ。スキルを使ってもこの遠距離だと少し目標がぼやけていた。

「とにかく撃て、撃って撃って撃ちまくれっ!」

 ジェニは撃ちまくった。それを見ていたオリヴィアは文句を言った。

「ジェニ、ずるぅ〜〜い。わたしにも獲物を回してよぉ〜〜…。」

「オリヴィアさん、私は賞金は要りませんよ。私がとどめを刺しても気にしないで左耳を取っちゃってください。」

「そなのっ⁉︎ジェニって良い子ねぇ〜〜っ、お姉さん嬉しいっ‼︎」

 アンネリとアナがジェニの側にやってきて、アナが言った。

「ごめん…なんか、私の不用意な発言で、オリヴィアさん変なスイッチが入っちゃったみたいね…。」

「いいんじゃないか?きっとオリヴィアさんがオーク一万匹殺して、このクエスト終わらせてくれる。」

 アンネリ達の会話を聞いていて、ヒラリーは頭を抱えた。一万匹って…数百殺したらクエスト終了なんだけど…オリヴィアには何て言おう…。

 アナはアンネリに尋ねた。

「ねぇ、アンネリ。オリヴィアさんって年齢いくつなの?」

「二十一歳だよ。」

「…私より年下じゃん。」

 ふっと…ジェニは射撃を止めた。

(…私とタメじゃん。)

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