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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百十四章 大型荷馬車

五百十四章 大型荷馬車


 祭事館にイェルメイドの負傷者がどんどんと運び込まれた。

 神官見習いの少女たちは、運び込まれた負傷者の服や装備を手分けして脱がしていった。そしてクラウディアが傷口と患者の容体を確かめて、重傷者と軽傷者に振り分けていった。

 10人の女魔導士が重傷者に「ヒール」を掛けている中…セシルは自分も何か手助けをしようと、少女たちに混じって負傷者の革靴の紐を一生懸命解いていた。

「うぅ〜〜ん…この紐固く結んでて、なかなか…」

 その様子を見て驚いて、アナは叫んだ。

「セシルさん…あなた、魔導士でしょっ⁉︎『ヒール』をお願いしますっ‼︎」

「あ…そっか!」

 アナはあらかじめ「神の聖水」の神聖魔法を掛けておいた大鍋の中の水を、肌を露わにした患者の患部に振り掛けて消毒し、それから「神の回帰の息吹き」を掛けた。アナの横でセイラムはその手順や所作をじっと見ていた。

「次、お願いします!」

 アナが次の負傷者の患部を触診すると…アナは顔色を変えた。

「ううっ…患部に槍の刃の欠片が残ってる。…手術が必要だわ。」

 アナはすぐに重傷者数人を診て、セイラムに言った。

「私はこの人に掛かりっきりになるから…セイラムちゃん、あの人とそこの人の傷口をこの水で洗って治してあげて。」

「分かったぁ〜〜っ!」

 アナは手桶で水を汲んできて、聖水にすると自前の手術道具をその中に沈めた。そして、患者に麻酔…「神の微睡まどろみ」を掛け、手際よく消毒した小刀で患部を探った。槍の破片を摘出すると、すぐに患部を糸で縫い…「神の回帰の息吹」を掛けた。

「終わったぁ…」

 アナは少し目眩めまいを感じて常備していた青いポーションを飲んだ。

 アナに任された二人の負傷者の傷を治して、アナの苦しそうな顔を見たセイラムは心配して、アナのそばにやって来た。

「アナァ〜〜…だいじょぉ〜〜ぶぅ?」

「…魔力をいっぱい使っちゃった。しばらくしたら、元に戻るから…大丈夫よ。」

 負傷者はまだまだたくさんいる…アナの治療をたくさんのイェルメイドが待っている。たったひとりの患者を手術しただけで魔力が底をつくなんて…アナは自分の無力さを痛感していた。

 すると、セイラムがふと…アナの腕を掴んだ。

「…ん、セイラムちゃん、どうしたの?」

 セイラムの手がアナに接触した瞬間…アナの目眩めまいはどこかに飛んでいってしまい、むしろ気分が良くなるのを感じた。

「こ、これって…もしかして、セイラムちゃんの能力⁉」

 「今日は絶好調?」とか思ってしまうセシルとは違って…アナはとても敏感だ。自分に起きた奇跡がセイラムの能力に由来するものだとすぐに気がついた。

 無垢のミスリルナイフ…「リール女史」を体の中に隠し持つセイラムと「魔力共有」したおかげで、アナの魔力も急速に回復していった。

「す…凄いわ、セイラムちゃん凄いっ!セイラムちゃん、このまま手を離さないでねっ‼︎」

 アナに褒められて、セイラムの体には気力がみなぎった。

 そこから、アナとセイラムは二人でどんどんと負傷者を治療していった。神聖魔法を使っても使っても、二人の魔力はすぐに元に戻るのだった。


 コッペリ村の宿屋。ここにエステリック軍の作戦本部が置かれている。

 キールはカイル参謀に言った。

「イェルマ回廊の伏兵…側溝をさらってみた。死体が14あった…。」

「そうですか、14ですか。ありがとうございます。」

「…わざわざ俺たちに崖を登らせて、敵の死体を確認させて…一体、何がしたいんですか…。」

「この作戦では、『死体』の数が重要なのです。我が軍の死体と敵軍の死体…その比率でどちらが優勢なのかが判ります。」

「…意味が分からん…。」

 そこに騎士兵団の大隊長がやって来て幕僚たちの前で戦況報告をした。

「…申し訳ございません。我が軍は回廊を進行し、敵城門前まで侵攻いたしましたが…敵の抵抗が予想以上に強く…やむなく撤退いたしました…」

 カイルは言った。

「塹壕は作れましたか?」

「…いえ、敵の邪魔が入りまして…」

「こちらの損耗は?」

「…義勇兵196名…騎士兵89名です…」

「敵の損耗は?」

 大隊長はチラリとレンブラント将軍の顔を見て…

「あの…敵の損耗は…およそ100と…思われます。」

 大隊長は責任追及を恐れて…過大申告をした。

「そうですか。これで、敵の損耗は125、こちらは390…およそ、1:3ですね。…良いですね。」

 レンブラント将軍が言った。

「それはそれとして…塹壕掘りには失敗したのだろう。カイル君、これからどうする?」

「そろそろ、エステリック城下町を出発した第五陣の馬車が到着します。ふふふ、私が設計した新兵器が満載ですよ…次が本番ですよ。」


 レイモンドはダンの雑貨屋の一階にいた。

 レイモンドはサムに頼んで、イェルマにいるヴィオレッタに「念話」で連絡をとってもらった。その返事待ちをしているのである。

「あっ、来ましたよ、レイモンドさん。」

「…で?」

「コッペリ村で諜報活動をしてください…って。」

「そうか、つまり…コッペリ村に駐留しているエステリック軍の内情を探って、それをサムさんに教えたらいいんだな?」

「…そういう事ですね。」

 そんな会話をしている二人に、ダンが言った。

「おい、二人とも外を見てみろよ…。」

 二人が店先から外を覗いて見ると、数台の六頭曳きの大型荷馬車がゆっくりとコッペリ村の大通りを進んでいた。金属鎧の騎士兵が行く手を邪魔している義勇兵の幕屋をどんどん潰して回っていた。

 三人が驚いたのは…その数だった。

「おいおい…続々とやってくるな。何を積んでいるんだろう…?」

「お、また来たぞ…。これで十五台目だ。」

 これまでのエステリック軍の軍列は、歩兵、騎馬兵、上級士官のワゴン馬車、食糧を積んだ馬車などといった構成だった。それと比較すると、大型馬車十五台のみというのは明らかに異様だ。

 大型馬車の荷物は全て、大きなキャンバスの布地で覆われていて外目からは何を運んでいるのか全く判らなかった。

 サムが言った。

「これは…レイモンドさんの出番じゃないですか?」

「あの荷馬車の荷物を調べたらいいんだな…よし、分かった。」

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