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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百十三章 城門前広場での戦い その2

五百十三章 城門前広場での戦い その2


 西城門の扉がギシギシと音を立てて上がっていった。さらに、二枚重ねになっている黒い鉄格子も上がった。

 城門からタワーシールドやラージシールドを持った剣士100名、戦士100名が出てきて、敵軍と同じく横列を作って布陣した。

「前進せよっ!」

 城壁上のボタンの号令で、イェルマ軍は「並足」で前進した。横隊のイェルマ軍は次第に中央に寄っていき…密集した大きな三角形を作った。すると、城門からさらに二列縦隊のランサー100名が出てきてその三角形の後ろに続き…「蜂矢ほうし」の陣を形成した。これは一点突破の陣形である。

 イェルマ軍の蜂矢の陣は、城門前広場の騎馬返しの柵を押し除けながらエステリック軍のど真ん中を目指して突き進んだ。

 エステリック軍による弓矢の牽制射撃が始まった。雨のように降ってくる多数の矢を盾で防ぎながらイェルマ軍はなおも進んでいった。

 剣士房の隊長のヘレンが叫んだ。

「堪えろぉ〜〜っ!」

 戦士房の隊長ルビィも叫んだ。

「こんな、へなちょこ弓に当たって死んだら赤っ恥だよぉ〜〜っ!」


 オリヴィアとタビサは中広場で待機していた。

 城門が開き…中広場の前方で陣取っていた剣士房、戦士房が出撃したのを見て、オリヴィアは苛立ってタマラとペトラに食って掛かった。

「おいこらっ!武闘家房も行こう…出撃命令を出せぇ〜〜っ‼︎」

「アホかお前はぁ〜〜っ⁉︎それは司令官のボタン様が決めるんだよぉ〜〜っ!…出撃したくっても、出来ないんだよぉ〜〜っ‼︎」

「…この根性なしめぇ〜〜っ‼︎」

「何だとぉ〜〜…⁉︎」

 タマラとペトラは棍棒を構え、オリヴィアは二本の樫の木のかいブンブン振り回して三人は睨み合った。それをはたで見ていたオリヴィア愚連隊のリューズ、ドーラ、ベラ、そしてタビサはゲラゲラと笑っていた。

 そもそも武闘家は、剣士、戦士、ランサーと違い…決定的な火力を持っていない。剣士には「護刃」系スキルがあり、剣自体を強化する。そこから繰り出される剣撃は敵を両断し即致命傷だ。

 戦士にしても「パワークラッシュ」系スキルを持っており、一撃で防具ごと敵を粉砕することができる。ランサーにも槍の攻撃力を上昇させる「ストライク」系スキルがある。

 武闘家には「鷹爪」系や「鉄さん布」系スキルがあるが、それはあくまでも徒手攻撃…拳や掌などの「生身」の体を強化するスキルで、「武器」を強化するものではない。よほど熟練しない限り…こぶしで敵の頭を粉砕することはできないし、手刀で両断することもできない。

 よって、今回のような大規模な戦闘となった場合は、戦術面で剣士、戦士、ランサーは前衛となり武闘家や斥候は待機組…敵が城内に侵入して乱戦になった時の予備兵力として温存されることとなるのである。


 イェルマ軍とエステリック軍の距離があと50mとなった時…槍手房のジャネットが叫んだ。

「今っす…投擲とうてき開始っすぅ〜〜っ!」

 戦士たちの盾の陰に隠れて後方から進軍してきた二列縦隊のランサーが「スピア」系のスキルを発動させて一斉に槍の投擲を開始した。

 放たれた槍はエステリック軍中央の一点に集中し…矢よりもはるかに重い槍の質量で、鋼板を貼ったタワーシールドの数枚を粉砕した。

 ヘレンが叫んだ。

「全隊、早駆けぇ〜〜っ!」

「おおおぉ〜〜っ!」

 イェルマ軍は全速力で突進し、イェルマ軍の大三角形がエステリック軍の中央に今にも突き刺さろうとしていた。それを見越してイェルマ城門からベレッタ率いる100名のランサー騎馬隊も出撃した。

「うおおらぁ〜〜っ!全殺しだあぁ〜〜っ‼︎」

 さらに、その後を馬に乗った十騎の魔導士もその後を追った。彼女たちは連絡係、兼ヒーラーだ。彼女たちは基本的には攻撃には参加せず、「ヒール」による後方支援をする。

 すると…エステリック軍の中央のタワーシールドの列がパカっと開いて…多数の義勇兵がイェルマ軍に向かって突進してきた。

「なぬっ…⁉︎」

 イェルマ軍とエステリック王国義勇兵団が接敵した。お互いの盾と盾が激しくぶつかり合い、お互いの剣や斧が飛び交った。

 だが、義勇兵団のほとんどは徴兵で駆り出された寄せ集めで、職業軍人のイェルメイドとの戦力差は明らかで…次第にイェルマ軍が義勇兵団を押し込んでいった。その上、駆けつけてきたベレッタの騎馬隊が縦横無尽に駆け回り、馬上からの槍や矛の攻撃で義勇兵たちを蹂躙していった。

 数を頼んでの義勇兵団であったが…目に見えてその数は減っていき、義勇兵団はほぼ壊滅状態となった。

 イェルマ軍はさらに騎士兵団のタワーシールドの列に接近し、盾の間から突き出される槍衾やりぶすまをものともせずタワーシールドにぶつかっていき、イェルマ回廊入り口付近は盾と盾の押し合いが始まった。

 だが、ここでもやはりランサーの騎馬隊は強力で…馬ごとタワーシールドにぶつかりのしかかり、タワーシールドの騎士兵たちを押し倒していった。そして、ランサーの騎馬隊がこじ開けた騎士兵団の隊列の穴にイェルマ軍が殺到し、両軍は混戦状態に突入した。

 いざ戦闘が始まって、エステリックの騎士兵団の隊長は驚愕した。隊長は普段は決して感じることのない…あちらこちらで起こる無数の「スキル発動」を感じて恐れ慄いた。

(な…なんだこの強さは…!こいつらみんなスキル持ちか、本当に女なのかっ⁉︎…兵士の練度が桁違いじゃないか…‼︎)

「全軍撤退だ…撤退せよぉ〜〜っ!」

 隊長の撤退命令で騎士兵団は総崩れとなった。狭いイェルマ回廊に我先にと逃げ戻る兵士が殺到してパニックとなった。

 ベレッタの青龍刀が次々と騎士兵の首を刈った。ルビィのバトルアックスが金属の兜を頭ごと叩き潰した。そして、ジャネットの槍が金属鎧を串刺しにした。

 ジャネットが我に返った時には…敵の姿はどこにも無かった。

(100人ぶっ殺すって言ったすけどぉ…「こいつ絶対死んだな」って奴は、雑魚6人と金属鎧1人っすかねぇ…。)

 ベレッタの騎馬隊は掃討戦に入っていた。イェルマ回廊に逃げ込んだ敵はそれ以上は追撃せず、城門前広場で負傷して生きている敵にとどめを刺して回った。

 その過程で…ベレッタは意外なものを発見した。それは夥しい数の鉄製のスコップだった。そして、よくよく調べてみると、地面のあちこちに穴を掘った形跡も見つけた。

(…こいつら、タワーシールドで目隠しして、塹壕を掘っていたのか…。)

 城壁の上のボタンは遠目に戦局を見ていて勝利を確信した。しかし、それと同時に…地面に転がる無数の敵兵に混じって、倒れて動かない仲間の姿も見ていた。

 ボタンは冷静を保ちながら言った。

「荷馬車を出せ…仲間の負傷者、亡骸を回収せよ…。」

 今回の戦闘で、エステリック軍の損耗は騎士兵89名、義勇兵196名…イェルマ軍は27名だった。


 祭事館では…女の子の絶叫がこだましていた。

きゃははははははぁ〜〜…!

 セイラム、リグレット、フィアナと手持ち無沙汰な神官見習いの少女たちは、広い祭事館の中で追いかけっこをして遊んでいた。見習いの少女たちに捕まって「くすぐりの刑」に処されて絶叫しているリグレットとフィアナをよそに、人間よりも素早く動いて捕まらないセイラムはひとり得意げだった。

 アナが言った。

「おぉ〜〜い、患者さんが寝ているから、もう少し静かにね…。」

 …無理な注文だった。

 そこに急報が入った。

「アナ様、城門前広場で大規模な戦闘が行われました。もうすぐ、たくさんの負傷者が運び込まれます!」

「…負傷者の数は⁉︎」

「およそ40名…!」

 アナはすぐにみんなに指示した。

「クラウディアさん、重傷者と軽傷者を選別していってくださいっ!重傷者を先に私のところに連れてきてっ…軽傷者は後回しです!ティナ、フラン、マーシー、ジャスミン、ソフィア…毛布を床にどんどん敷いていって!メイ、アビゲイル、ネル…出血がひどい負傷者は傷口を縫ってあげてっ!…セイラムちゃん、出番よっ‼︎」

「はあぁ〜〜いっ!」

 フィアナの母親のライラックは言った。

「私は何をしましょう?」

「あ、ありがとうございます。見習いの少女たちに付いて、手伝ってあげてください。」

「分かりました。」

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