五百十二章 城門前広場での戦い その1
五百十二章 城門前広場での戦い その1
「ふぎゃああぁ〜〜っ!」
早朝、タビサはおかしな夢を見て目を覚ました。そして、美味しそうな匂いに誘われて、朝の炊き出しをしている幕屋へ赴いた。すると…
「タビサちゃぁ〜〜んっ!」
「オリヴィア〜〜っ!」
二人は久しぶりに再会して…がっぷり右四つに組み合った。
「ふんぬうぅっ…!」
「うにゃにゃぁ…!」
オリヴィアがタビサを抱き上げてブン回そうと思って挑んだ力勝負だったが…結果、力負けしていつも通りにタビサにブン回された。
二人は炊き出しの行列に並んで話をした。
「うぅ〜〜む…レベルアップして『豪傑』になったから、勝てると思ったんだけどなぁ〜〜。」
「にゃははははは、まだまだ力じゃ負けんっちゃっ!そう言えば、うちも超久しぶりにスキル覚えたで。」
「おおおぉ〜〜、おめでとぉ〜〜っ!」
お腹いっぱいにおにぎりと味噌汁を食べた二人は南の斜面を降りて、中広場に戻ってきた。
武闘家房の待機場所には女王のボタンと房主のジルが待っていた。
ボタンが言った。
「みなさん、よくぞ馳せ参じて来てくださった。礼を言うっ!」
ジルも…
「ありがとうございます。きっと、草葉の陰で周直も喜んでいますよ。」
「うみゅ、イェルマの敵は獣人族の敵やけぇね。」
「何か必要なものがあったら、お申し付けください。善処いたしますよ。」
「うみゅ、他の連中は多分、昼過ぎにならんと起きて来んけぇ…寝かせちょってぇ。」
「…わ…分かりました。」
エステリックの義勇兵たちがイェルマ回廊の丸太の燃え殻を槍や斧で打ち砕いて平らにすると…その上をタワーシールドを持った三個大隊の騎士兵団がイェルマ回廊を進軍していった。
30分を掛けて1.5kmのイェルマ回廊を渡り切り、回廊の入り口から出るや騎士兵団はタワーシールドを前にして左右に展開した。
それを見た射手房師範のアルテミスはもうひとりの師範タチアナに声を掛けた。
「タチアナ…!」
「うすっ!」
タチアナは自慢のロングボウに矢を番て騎士兵団目掛けて深度2の「フルメタルジャケットマグナム」で射出した。
アーチャーのスキル「フルメタルジャケットマグナム」は深度1の「マグナム」(正式名称はラウンドノーズマグナム)の強化版で貫通性能がより高くなっている。
タチアナの矢は騎士兵のタワーシールドに命中し深く食い込んだが…貫き通すことはできなかった。射手房最強のタチアナの矢で貫けないのであれば、他のアーチャーの矢でもあのタワーシールドは貫けない。
アルテミスは言った。
「うむむ…表面に鋼板を貼っているのかもしれん…。」
アルテミスは城壁の上のアーチャー部隊に手のひらを見せて、無駄な矢を射たないよう指示した。
その横でペーテルギュントがその様子を無言でじっと見ていた。実はペーテルギュントはさらに貫通性能の高い深度4の「アーマーピアシング」のスキルを持っていたが…敢えて手を出さなかった。
アルテミスは女王ボタンに采配を仰いだ。
「そうか、分かった…アーチャーは待機していてくれ。」
イェルマ回廊の入り口付近では、100以上の騎士兵団が横に長く伸びて隙間なくタワーシールドを並べていた。
「何をするつもりだろう…?」
ボタンはそばに侍らせている連絡係の女魔導士に言った。
「戦局がどう展開するか分からない…念のために魔導士を20名、城壁にあげてくれ。」
「分かりました。」
魔導士がいると何かと便利だ。200m先までは魔法は飛ばせないが、大体50m以内であれば負傷した友軍に「ヒール」ができるし、もちろん攻撃魔法で友軍の援護もできる。
そうしているうちに、さらに一個大隊の騎士兵団も集結してきて…騎士兵団は二列横隊になった。そして、最初の騎士団のタワーシールドの上にさらにタワーシールドを立て掛け…そのまま10mほど前進してきた。
ボタンは困惑した。
(…何をやる気だ?)
それで…
「この状況をマーゴットに伝えてくれ。」
「分かりました。」
鳳凰宮にいるマーゴットは「念話」を受けて、ボタンからの情報を「四獣」と共有した。「四獣」たちは鳳凰宮に陣取って、司令官である女王ボタンの要求に即座に対応できるようにマーゴットは情報整理、ライヤは練兵部のイェルメイドの人員運用、チェルシーは生産部の駆け込み女の人員運用と兵站管理をしていた。
マーゴットはみんなと共に敵の思惑を考えていた。多分、ボタンは考えあぐねてマーゴットたちの助言を請うてきたのだ。しかし、このような大々的なエソテリックの侵攻などイェルマの歴史には存在せず…ボタンたちが敵の思惑を看破するには情報と経験が不足していた。
三人は頭を抱えたまま、徒らに時間だけが過ぎていった。
城門前広場では、二列横隊になった250人の騎士兵団に加え、前進した10mの隙間を埋めるかのように義勇兵団がイェルマ回廊を通って次々と合流してきた。
昼を過ぎて…マーゴットはサムの「念話」をマリアを介して受け取った。それで、マーゴットはユグリウシアに「念話」を送ってヴィオレッタを呼んだ。
すぐにヴィオレッタはエヴェレットを伴って鳳凰宮を訪れた。
ヴィオレッタは「四獣」たちに会釈をし、そして言った。
「あはははは、廊下が静かですね…セイラムちゃんたちはまだ戻ってきてないようですね?」
「いえ、セイラムはアナ殿と共に祭事館におりますよ。」
「なるほど…それで、私に何か…?」
「先ほど、コッペリ村のサムから『念話』がまいりまして…『レイモンド』なる男が至急セレスティシア殿と連絡を取りたいとの事です。それをお知らせしたくて…いかがいたしましょう?」
「ほぉ…レイモンドさんがコッペリ村に来ているのですね⁉︎」
ヴィオレッタはマーゴットから詳細を聞いた。レイモンドはユーレンベルグ男爵の代わりにコッペリ村に来たものの、当初の目的は果たせず…手持ち無沙汰になってしまったとの事だ。
「彼は優秀な斥候です。とりあえず、コッペリ村で諜報活動をしてもらいましょう。」
マーゴットは側付きの魔導士にヴィオレッタとエヴェレットのためにお茶を持ってくるように言い付けた。魔導士は気を利かせて、「四獣」たちにも新しいお茶を運んできた。
「四獣」たちはそのお茶をズズッと飲み、大きな溜め息を吐いた。そして、しばし…静寂が流れた。
エヴェレットは重々しい雰囲気を感じ取り、隣に座るヴィオレッタの腕をチョンチョンと突ついた。それで気が付いたヴィオレッタは言った。
「…どうかされましたか?イェルマ軍に何か不具合でも?」
マーゴットが重い口調で話し始めた。
「それがですねぇ…イェルマ回廊が突破されてしまいました。現在、300余りのエステリック兵がイェルマ回廊を通過して…不可解な陣を張っておるのです。敵の思惑が解らず途方に暮れている次第で…」
「何と…!」
ヴィオレッタは「四獣」たちから詳しい情報を教えてもらった。
ヴィオレッタは「食客」とはいえ自分は部外者なので、あまり出しゃばり過ぎないようにと…慎重に言葉を選びながら言った。
「…そうですねぇ。もし私がエステリック軍の軍師ならば、イェルマをどう攻略しましょうかねぇ…。城門前広場…広過ぎますよね。200mも距離がありますから、こちらからの攻撃は届かないし、かと言って下手に城門に近づけば、弓矢と魔法で狙い撃ちされます。イェルマが圧倒的に有利です。…となると、イェルマ回廊から城門に至るまでの足掛かり…『橋頭堡』が欲しいところですよね。例えば、城門前広場に巨大な『塹壕』でも掘れたらだいぶ楽になりますよね。そこに兵隊を溜めて置けます。あの細くて長いイェルマ回廊の中は大軍を動かすだけでも時間が掛かりますからねぇ。欲を言えば…弓矢や魔法を受け付けない頑強な『出城』とか『要塞』とか…そんなのがあったら友軍の犠牲をかなり減らせるんじゃないかと…。」
「塹壕?出城?…むっ、まさか…⁉︎」
ヴィオレッタの示唆で、マーゴットは何かに気づいた。
「とりあえず、確認してみましょうか…それだけの価値はありそうですね…!」
マーゴットはボタンに「念話」で助言を入れた。
「なるほど、手をこまねいていて『手遅れ』になるよりかはましか…!」
ボタンは中広場で待機しているイェルメイドに出撃を命令した。




