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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百十一章 雑話 その11

五百十一章 雑話 その11


 北の五段目の神官房。

 クラウディアは自分が育てた家庭菜園の薬草を収穫中で、アナは神官見習いの八人に応急措置の講習を行っていた。

「いいですかぁ〜〜、心臓が動いていない人を見つけたら、まずは心臓マッサージをしましょう。はい、二人一組になって実践してみましょう。」

 するとそこに…アンネリがやって来た。

「アナ、いるかぁ〜〜い?」

「まぁ、アンネリ…久しぶりぃ〜〜っ!一体、どうしたの?」

「あたし、今日非番なんだよ。それでさ、泉に水浴びしに行かない?」

「ううぅ〜〜ん…今、授業中なんだよねぇ…。」

「何の授業?」

「心臓マッサージとか…。」

「なるほど、分かった。じゃさ、あたしがみんなにお手本を見せてあげよう…アナ、寝て。」

「…え?」

「寝て。」

 アナを床に寝かせると、アンネリは両の手のひらを重ねてアナの心臓辺りを押し始めた。

「みんな、いいかい?こうやって、1.5秒ぐらいの間隔で同じ調子で心臓を押すんだ。そして時々、心臓が動き始めたかどうかを確認する…」

 そう言って、アンネリはアナの胸に耳を押し当てた。

「それで、心臓が止まったままだったら、こうやって…」

 アンネリはアナの後頭部に右手を添えて…素早く接吻をした。

「むぐっ…!」

「わきゃああぁ〜〜っ!」

 神官見習いたちの黄色い歓声が上がった。

「はい、応急措置の授業はここまで。今からみんなで泉に行って、水浴びをしましょう!」

「はぁ〜〜いっ!」

「ええっ…ちょっと…!」

「いいから、いいから。たまには休養も必要だってっ!」

 結局、アナとアンネリは神官見習いたちを連れて、北の三段目にある泉で水浴びをすることになった。クラウディアも誘ったが、「恥ずかしい」から行かないと言った。みんなは手拭い一本を肩に掛けて、ゾロゾロと北の三段目まで降りて行った。

 アンネリは言った。

「もう夏だよ。泉で水遊びをする連中が増えてきたねぇ。」

「ふぅ〜〜ん、そうなんだ。」

 泉に到着すると、すでに十人ぐらいのイェルメイドが一糸纏わぬ姿で体を洗ったり、深いところを泳いだりして楽しんでいた。

(ワァオ…!)

 約一年前にも、アナはこの光景を見ていた。だが、あの頃のアナは「冒険者」で今のアナはイェルマの「食客」で「神官房房主」である。そして、実際に泉に入るのは今回が初めてだ。

 感慨にも似た感情を抱きながらも、アナは衣服を一枚一枚脱いでいった。その横で、アンネリはパッと一瞬で裸になると水面目掛けて飛び込んでいった。それに倣って、神官見習いの少女たちもキャアキャア騒ぎながらポンポンと服を脱ぎ捨てて、我先に泉に飛び込んでいった。さすがは「イェルマ育ち」だ。早い女の子は母親に連れられて三歳からこの泉で水遊びをする…イェルメイドにカナヅチはいない。

 神官見習いの少女たちがそれぞれクロール、平泳ぎ、犬かきで泉の深場を泳いでいる中、アナひとり体を洗いながら、眼福を味わっていた。

(あのコは乳の形が良いわねぇ、あのコは見事なプロポーションねぇ…うふふふ。)

 すると、五人のイェルメイドに引率されて二十数人の童女たちが泉にやって来た。童女たちはささっと服を脱ぐと次々に泉の中に入って、泉の浅い場所でバシャバシャとけたたましく水を跳ね上げて騒ぎ回った。

「あっ、房主さまぁ〜〜っ!」

 アナに声を掛けてきたのは…クラウディアの娘のフィアナだった。

「ああ、この子たちは『学舎』の学童たちね。」

 イェルマで産まれた女児であれ他から引き取られた女児であれ、練兵部に配属が決定した女児は七歳になると「学舎」に入って教育を受ける。最低でも読み書きができるようになるまで…九歳まで「学舎」で勉強する。

 フィアナが泉の深場を指差して言った。

「房主さまぁ〜〜、あっちで一緒に泳ごっ!」

「うっ…フィアナひとりで行ってらっしゃいな…。」

「えええ〜〜、何でえぇ〜〜?」

「…実は、私、泳げないのよ…。」

「えええええっ!房主さま…カナヅチなの…⁉︎」

「しっ…声が大きいっ!」

 それを聞きつけて…アンネリがやって来た。

「ふふふふ…アナ、カナヅチだったのかぁ…。それは良くないなぁ。泳ぎの練習をしなくちゃだね。」

「あっ…いやっ…アンネリ、ちょっと…!」

 アンネリは半ば無理矢理、アナを泉の深みに引っ張っていった。

「あああっ…足が、足がつかない…これ以上は…‼︎」

「だいじょぉ〜〜ぶ、だいじょぉ〜〜ぶ…あたしが付いてるから…」

 アンネリはアナのお腹の辺りを手で持ち上げると、アナは水平になり…

バシャバシャバシャバシャ…

「あぷっ!…あっぷ、あっぷ…あう、ぶひゃっ!…あぱっ、あぱっ、あぱっ…!」

 アナは必死で水面を叩いて犬かきをして…少女や童女に大笑いされた。


 イェルマの射手房で恒例のイベントが始まる。これは射手房に限ったことではなく、この夏の暑い時期、他の房でも普通に行われる。

 射手房の集団寮で十八歳班の班長のキンバリーが十五歳班の班長ジェニに言った。

「明日、十五歳班と十八歳班で合同合宿訓練をする。十五歳班は通常装備に加えて、宿泊するための準備をしておいてくれ。」

「宿泊…どのくらいの期間ですか?」

「一週間の予定だ。」

 そう言って、キンバリーはそっけなく去って行った。

 ジェニはそばにいたクレアに尋ねてみた。

「合同合宿訓練だって…何だろうね?」

「くくくっ、遂にやって来ましたね。ジェニ班長…生きて帰れたら良いですね。」

 クレアとターニャは意味ありげに含み笑いをしていた。

「ナ…ナニ、何よぉ〜〜っ⁉︎あんたたち、何か知ってるんでしょう、気持ち悪いわねぇ〜〜っ!」

 次の日の早朝、十五歳班と十八歳班の総勢二十七人が射手房の集団寮の前に集合した。するとそこに別の二人の射手房のイェルメイドがやって来た。

「私は中堅のラナ、こっちはスーザン…今回の合同合宿訓練の指導と監督をする。何か質問は?」

 この訓練は十五歳班と十八歳班で毎年夏に一週間行われる。なので、十四歳以上のアーチャーたちは去年もこの訓練を受けているのでその内容を知っている。クレアとターニャはアーチャーの先輩たちからこの訓練の事を聞かされていたのでよく知っていた。

 今回初めて合同合宿訓練に参加するジェニが手を挙げた。

「二十七人での訓練って…二陣営に分かれての実戦形式の訓練とかやるんでしょうか?」

「いや、ただ山中をひたすら行軍するだけだよ。」

「期間は一週間…水や食料の用意はしなくても良いのですか?」

「私とスーザンが万が一のために一日分の食糧を背負って随行する。他の者は必要ない。…では、他に質問がなければサバイバル訓練に出発する。」

(ん…サバイバル訓練って…ナニ?)

 アーチャーたちは真夏だというのに皮鎧と長袖の麻の上下を着込み、弓と50本の矢を担いで射手房のある北の一段目から二段目、三段目と登っていき、さらに上へ上へと山道を行軍した。草が生い茂り樹々の根っこが剥き出しになってゴツゴツとした道なき道を六時間…ただひたすらに歩いた。アーチャーたちは木の枝や草が顔に当たってあちこちに小さなアザや切り傷を作った。

 山間の少し開けた場所でラナが全軍停止を命令した。みんなは「やっとか…」という顔をして重い矢筒を地面に下ろした。ジェニはと言うと、汗びっしょりになって、今にも死にそうな顔をして地面に大の字になって倒れ伏していた。

(ひいいぃ〜〜っ…!あ…足が痛い…つ…りそう…!)

 ラナが言った。

「よし、遅くなったがここで朝食休憩とする。今回初めて参加する者もいるようだから、他の者は教えてやってくれ。」

 初参加は十五歳班のジェニ、クレア、ターニャの三人だけだ。

 ラナの号令と同時にアーチャーたちがそれぞれ弓と矢を持って散らばっていくのを、ジェニは不思議に思った。

(あれ?今から朝食を作るのに、みんなどこ行くの?…水は?食材は?)

 するとそこに十八歳班で参加しているサリーがニコニコしてやって来た。

「ジェニさん、調子はどうですかぁ〜〜?」

「はぁっ、はぁっ…どうもこうもないわよぉ〜〜…見ての通りよ…!ねぇ、みんな、どうしててんでバラバラになってるの?」

「この訓練では、みんな勝手に食材を探して、別個に食事をするんですよ。」

「ええええぇ〜〜っ⁉︎」

 サリーを見つけて、クレアとターニャもやって来た。

「サリーせんぱぁ〜〜い!」

「おお、あんたたちも初参加だったわね。三人まとめて私が面倒見てあげましょう!」

 ジェニは言った。

「と…とにかく、喉が渇いたわ。クレア、ターニャ…どっかで岩清水を探して来て…」

「ああ…川とか岩清水はサバイバル訓練ではNGですよぉ〜〜。」

「な…何でっ!」

 すると、サリーがみんなを呼んだ。

「みんな、あったよ。こっちこっちっ!」

 サリーが木の枝から垂れ下がった何かの植物のつるを指さしていた。クレアとターニャはサリーに駆け寄ると、すぐにそのつるを受け取り、ナイフで切って口に持って行った。蔓の断面から汁がほとばしり、二人の口の中に落ちていった。

「うんまっ…!」

 それを見たジェニは自分もサリーのところに駆け寄って、つるを受け取った。そして、ジェニもナイフを出してそのつるを切ろうとしたその時…つるの上をアリが行列を作っていて、一匹二匹とジェニの手に移動してきているのを見た。

「うぎゃあぁ〜〜っ…アリ、アリがぁ〜〜っ…!」

「そりゃ…アリぐらいいるよぉ〜〜。」

「いやいやぁ…この状態で飲んだら、アリも一緒に飲んじゃうでしょっ⁉︎」

 サリー、クレア、ターニャは呆れた顔でジェニを見ていた。

「…だから?」

 うう…お話にならない。ジェニはそう思った。

 サリーが辺りを探して何かを発見して、ジェニに手招きした。

「あったあった、ジェニさん、これならどうです?」

 それはウツボカズラの一種だった。

「このピッチャーみたいな形の袋にね、水が入ってるよ。」

 それを聞いたジェニは走っていって、しゃがみ込んでその植物の袋を口の近くまで持っていった。が…その中を覗いてみて…

「げえぇ〜〜っ!…虫がいっぱい浮いてるぅっ‼︎」

 ジェニはその植物を放り投げた。

 サリーはやれやれと言った風に言った。

「まぁ…九ヶ月前まではお貴族様だったんだから、仕方ないか。じゃぁ、何か…ウリ科の植物でも探してくるから、待っててくださいね。」

 そう言って、サリーは山の中に入っていった。

 ジェニはしょんぼりしてその場で膝を抱えて座り込んだ。クレアとターニャが付き添ってジェニを励ました。

 狩りから戻ってきた十五歳班、十八歳班の仲間たちが獲物を料理し始めた。獲ってきたウシガエルやリスの皮を剥いで火を起こして焼いていた。

 中にはセミやカブトムシの腹をめくって火で炙り中のはらわたを食べている者、大きなバッタの串焼きにかぶり付いて美味しそうに頬張っている者もいた。

「おえぇ〜〜っ…」

 それを見たジェニは盛大に戻した。

(む…無理、私には絶対に無理…死んでも無理いぃ〜〜っ‼︎)

 そこにサリーがキュウリのような植物を二つ三つ抱えて戻ってきた。

「ジェニさん、これなら良いでしょ。水分をたっぷり含んでるからね…。」

 ジェニはサリーからそれらを貰って少しかじった。弱り目に祟り目…いきなり強烈な青臭さと苦味がジェニの舌を襲って…ジェニは気を失いそうになった。

(…やっぱり、無理いぃ〜〜…‼︎)

 その時だった。ジェニの救いの神が山の斜面を登ってきた。

「おぉ〜〜い、ラナはいるかぁ〜〜?」

 呼び声に気づいたラナが答えた。

「おおっ、ブレンダか。どうした?」

「さっき、射手房に名指しで護衛の依頼が来た…ジェニはいるか?」

「ああ、いるよ。ジェニ、ジェニはどこだあぁ〜〜?」

「は…はい、ここにいますっ!」

「ジェニ、すぐに山を降りて…コッペリ村で護衛の任務に就け。」

「はいっ!私ジェニは直ちに山を降りて…護衛の任務に就きますっ‼︎」

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