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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百六章 イェルマ回廊の攻防 その3

五百六章 イェルマ回廊の攻防 その3


 コッペリ村の宿屋。

 朝、二階の一室で目覚めたカイルは着替えて一階に降りていった。レンブラント将軍と他の参謀たちが起きてきて、足並みが揃ったら朝食を摂るためにキャシィズカフェに出掛ける。

 一階ホールには騎士兵に混じって傭兵部隊のキールがいた。それで、カイルは声を掛けた。

「キールさん、首尾はどうでした?」

 キールはうつむいたまま…答えた。

「やる事はやった…踏んだり蹴ったりでしたけどね…。」

「…ん?」

「仲間が…四人もられた…。」

「そうですか、それはお気の毒に…。それで伏兵の足止めはできましたか?」

「ああ…伏兵が使っている縄梯子を切り落とした。伏兵はその場を動けなくなってるはずだ。」

「ありがとうございます。」

 レンブラント将軍も一階に降りて来た。そして幕僚たちも揃い、カイルはキャシィズカフェに行く前にレンブラント将軍に言った。

「将軍、伏兵の処理が終わったようなので、回廊の障害物を排除してもよろしいでしょうか?」

「うむ…任せるよ。さて、今朝はキャシィズカフェは何を食べさせてくれるのかな、楽しみ楽しみ…。」

 カイルは一階にいた騎士兵の伝令に指示を与えた。


 剣士房OGのガーベラは同じくイェルマ回廊の側溝に潜んでいた仲間に言った。

「いつの間にか…敵に縄梯子を落とされてた。」

「そうか…端っこに緊急脱出用のロープがあるじゃないか、気にしない気にしない。…おっ、それよりも…敵が動いたぞ。」

 仲間が指差した方向には、小走りでイェルマ回廊を移動するタワーシールドを掲げた三人の騎士兵がいた。

「一体、何をするつもりだぁ?」

 騎士兵のひとりが持っていた小さな壺を、回廊を封鎖している巨木の丸太目掛けて投げつけた。壺は割れて、中から茶色い液体が散乱した。すると、もうひとりの騎士兵が矢に火を付けた。

「あっ…ヤバい、あの液体は油だっ!火矢を射掛けるつもりだっ‼︎」

 伏兵のイェルメイドたちは必死になってその騎士兵に向かって矢を飛ばしたり石を投げつけたりした…が、無情にも火矢は放たれた。

 十数年も放置されて乾燥した巨木の丸太は着火されると瞬く間に火が回り炎を上げて燃え始めた。そして…イェルマ回廊に黒い煙が漂った。

 煙を見て気付いたガーベラが叫んだ。

「ううっ…奴らの狙いはこれかっ⁉︎」

「ガーベラ、どうした?」

「全員すぐに退避だっ!向かいの連中にも伝えろっ!」

 物凄い勢いで燃える丸太はもうもうと黒い煙を吐き出した。そしてそれは、すぐに細くて長いイェルマ回廊に充満していった。

「ゴホッ、ゴホッ…みんな急げっ!ここにいたら、みんな窒息死するぞっ‼︎」

 伏兵のイェルメイドたちは⒈5m四方の溝を全力で走った。城門側の端には緊急用ののロープがある。それを使えば10m下の地面に降りることが出来る。イェルマ回廊の距離は1.5kmと長い…間に合うか⁉︎

 すでに回廊の地面は黒煙で見えなくなっていた。どんどん、どんどん…黒煙がイェルマ回廊を埋め尽くしていく…。

「ああっ…カーリーが…」

「走れ、諦めるなぁっ!」

 ガーベラたちが側溝の端にたどり着いた時にはほぼ視界はゼロで、ガーベラは黒煙に巻かれながら手探りでロープを探した。

「あ…あった、ゴホッ…グホッ…」

 ガーベラはロープを投げ下ろして…みんなしてロープを伝って側溝を降り始めた。


 西城門の上には昨晩戻ってきた女王ボタンがいた。

 ボタンはエルフのペーテルギュントと話をしていた。

 ペーテルギュントは言った。

「どうですか、イェルマ回廊はもちますかね?」

「大丈夫です。イェルマ回廊は難攻不落ですから…。」

 ペーテルギュントはイェルマ回廊に黒いもやのようなものを見た。

「おや、あれは…もやでしょうか、煙でしょうか?」

「…何?」

 もちろん…剣士職で「イーグルアイ」を持っていないボタンには全く見えていない。だが、城門の上に並んだアーチャーたちには微かに見えているようで…アーチャーたちはざわつき始めた。

「あ、煙だ。回廊で火事でも起こってるの?」

「…どんどん増えてるんじゃない?」

 突然、イェルマ回廊の入り口が夥しい量の黒煙を吹き出した。

「あっ…!」

 すると…イェルマ回廊の黒煙の中から六人の人間が地を這うようにして出てきた。

 アーチャーたちが叫んだ。

「あれは仲間だわっ!」

 ボタンは大声ですぐに中広場に待機している練兵部のイェルメイドに命令した。

「ランサー、十騎で救出に向かえっ!」

 城門の扉が上がり、十騎のランサーがイェルマ城門を飛び出し、騎馬返しを縫って約200mを疾走していった。現場に到着すると、ランサーたちは意識のない六人のイェルメイドを抱きかかえて馬に乗せた。

 その様子を見ていたボタンは魔導士を呼び、指示した。

「負傷者を六人運び込むと、祭事館のアナ殿に連絡してくれ!」

 ボタンは思った。イェルマ回廊で任務にあたっていたのは二十人のはずだ。脱出してきた六人でさえ意識のない状態だ…残念な事ではあるが、まだあの黒煙の中に取り残されている十四人は絶望的だろう…。


 「念話」ネットワークの魔導士から情報を受け取ったアナたちはすぐに受け入れの準備に取り掛かった。見習いの少女たちに床に毛布を敷かせ、先ほど氷室から運ばれてきた赤い体力ポーションを用意した。

「すみませんが…私は治療に専念するので『ヒール』のための魔導士を数人、貸してください!」

「分かりました、すぐに集めます!」

 そうしているうちに、六人の負傷者が担架で運ばれて来た。毛布の上に寝かされた六人の脈をながらクラウディアは言った。

「煙に巻かれたって事は…酸欠だね。脳への損傷が心配だ…」

 アナが叫んだ。

「魔導士さん、六人に『ヒール』をお願いします!メイ、ソフィア、アビゲイル、ネル、フラン、ティナ…患者の心拍を確認して!」

 魔導士たちは六人に同時にヒールを掛けた。すると四人が意識を取り戻した。

「意識を取り戻した人には体力ポーションを飲ませて!魔導士さんは他の二人に『ヒール』を集中させてください!」

「あっ…心臓が止まりましたぁっ!」

「心臓マッサージと人工呼吸をっ…!」

 見習いの少女たちが交代で心臓マッサージをしている間に、アナは二人の頭部に損傷を回復させる「神の回帰の息吹き」と、状態異常を取り除く「神の処方箋」を掛けた。

「…こっちの人、心臓が動き始めたぁ…!」

「こっちは…だめ…みたい…」

 重症だった二人のうちひとりは何とか意識を取り戻したが…もうひとりはだめだった。

 イェルマ回廊の攻防で、イェルマ側の死者は15名…イェルマ橋の攻防と合わせると、累計26名となった。


 イェルマ回廊の出口…コッペリ村側では、エステリック軍の魔導士が「ブロウ」の魔法で回廊に風を送っていた。こうすることで、丸太を燃やす火の勢いは増し、それと同時に煙をイェルマ側に追いやる事ができる。

 カイルとレンブラント将軍はキャシィズカフェで騎士兵の伝令から報告を受けていた。

「そうですか…成功しましたか。障害物が燃え尽きるのに、どれくらい時間がかかりそうですか?」

「…あと六時間ほどかと。」

「燃え尽きたら…義勇兵に槍か何かで燃えカスを突き崩してもらって、進軍できるよう平らにしてもらいましょう。…いかがでしょう、将軍?」

「うむ、この『味噌汁』というのは複雑な味わいで興味深いな…これが大豆でできているとは信じられん。…もう一杯貰おうか。」

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