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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五百五章 獣人族の援軍

五百五章 獣人族の援軍


 東城門での攻防は膠着状態だった。

 城門の上で、全く動きを見せない敵兵を眺めながらアルフォンスは言った。

「そろそろ…仕掛けてみるか。」

 テレーズは怪訝そうな顔で…

「一体、何をするつもりだい?」

「あいつらに…攻めて来てもらう。」

「な…何だって⁉︎」


 エステリック軍の一個大隊は城門から東に300m付近で陣を張ったまま、城門の様子を伺っていた。

 単眼鏡を覗いていた兵士が叫んだ。

「む…城門が少し開いたぞ…!」

「何ぃ…?」

 隊長のネッドは単眼鏡を取り上げて自分で確認した。

「おっ…城門から何人か出てきた。おや、あれは…男だ。」

「…城塞都市イェルマは女だけの国じゃなかったのか?」

「あっ、男たちがこっちに向かって来る。あれは…友軍の兵士だっ!」

 負傷した兵士たちがネッドの部隊に合流した。

「お前たち…無事だったのか!」

「…捕虜になっていた…。」

 ネッドは右手を失った兵士たちを見て、顔をしかめた。そして、兵士たちに尋ねた。

「お前たちはなぜ解放されたのだ?」

「…分からない。」

 普通に考えれば…この兵士たちは右手を失っているのでこちらの戦力にはならない。ならば、イェルマ軍は食糧を節約するために…もしくは、こちらの食糧事情を逼迫ひっぱくさせるために…押し付けてきたのだろう。

「それで…向こうの状況はどうなってる、援軍は?」

「うむ…イェルマの援軍は援助物資を置いて、昨日のうちに戻っていった…。」

「…何だとっ⁉︎」

 ネッドはすぐに全軍に攻撃準備の命令を出した。援軍の釘付けに失敗したとなると…もうこれはあの城門をとして、再びこちらに注意を引きつけなければならない。

 解放された捕虜たちの情報で、城門を守るイェルメイドの人数は十五人程度と知れた。アーチャーがいなくなった今、エステリック軍の兵士たちはどんどん進軍して城門に迫った。


「おぉ〜〜、来た来た。」

 アルフォンスは呑気な口振りでそう言って、迫り来るネッドの部隊を遠目に見ていた。そして、セシルに手招きした。

「セシル、打ち合わせ通りにやってくれ。」

「本当に…良いんですかぁ〜〜?…アレはどっちかと言うと、攻撃魔法じゃないんですけどぉ…それに、私は地属性の魔法は得意じゃないって言うかぁ…」

「大丈夫だ、俺を信じろ。」

 セシルはセイラムと手を繋いで呪文を唱え始めた。

「美徳と祝福の神ベネトネリスの名において命じる…地の精霊ノームよ、地中より這い出でて地の上にうずたか布陣して城砦となれ…出よ、ビルドベース!」

 すると、東城門の手前10mあたりにボコボコと2mほどの土塁が多数地面から突き出した。それは一見すると、敵兵を城門に近づけさせないための障壁のように見えた。

 突然目の前に土の小山が出現してエステリック兵たちは驚いていたが、ネッド隊長は狂喜した。

「わははははっ、バカめ…敵は悪手を打ったぞ!」

 ネッドはすぐに部下たちに土塁に取り付くように指示を出した。エステリック軍は土塁にピタリとくっ付いてその陰に隠れた。

 武闘家OGのテレーズが呆れた口調で叫んだ。

「おいおい、アルッ…これは、むしろ敵に防御壁をプレゼントしたようなものじゃないのかっ⁉︎」

 アルフォンスは続けた。

「セシル、次はトルネードな。」

「ほいきた。」

 セシルは「トルネード」の呪文を唱えた。巨大な竜巻が発生して、敵を吹き散らした…かのように見えた。敵軍は土塁の陰に隠れて…竜巻の直撃を辛くも回避することができた。

 ネッドは全部隊に号令を発した。

「今だっ、これほどの大きな魔法を二発も連発すれば、魔力の消耗で次の魔法まで時間が掛かるはずだ…城門に突撃せよっ!」

 エステリック軍は城門に殺到して、城門の扉を剣や斧で叩き壊しに掛かった。

 城門の上の武闘家OGは弓矢で応戦した。

 テレーズは慌てた。

「やばいぞっ!…城門が破られる…」

 しかし、アルフォンスは冷静だった。

「そろそろ…20時間が経過するな。」

 すると、北のはるか彼方の草原からけたたましい地鳴りと土煙をあげて…何かの群れが急速に近づいて来るのをエステリックの兵士が気づいた。

「何だ?…何かが近づいて来るぞ…バッファローの群れか?」

 それはバッファローの群れではなく…獣人族の大群だった。その数およそ600…!その異形を認めた時にはもう…ネッドの部隊の運命は決していた。

「うわあぁ〜〜っ…怪物だぁ〜〜っ!」

 エステリック軍は後方から急襲してきたウェアウルフとケットシーの連合軍と戦闘状態に入った。

 ウェアウルフの突き出した槍を盾で受けた兵士はそのまま後方に吹っ飛ばされ、ケットシーにロングソードを振りかざして攻撃しようとした兵士は、剣を振り下ろす前に接近され…顔、首、胸をその強靭な爪で掻き切られた。一方的な殺戮だった。

 生半可な剣撃では獣毛に覆われた獣人の皮膚に傷をつけることすらできず、圧倒的な戦力差で…あっという間にエステリック軍は壊滅した。

 ウェアウルフ族とケットシー族は槍を高くかざして勝ちどきを上げた。

「ワオオォ〜〜ッ!ワオオォ〜〜ッ!」

「フミャアァ〜〜ッ!フミャアァ〜〜ッ!」

 テレーズをはじめとする武闘家OGやセシルたちも城門の上でピョンピョンと小躍りした。

「うおおお、獣人族だ…助かったぁ〜〜っ!」

 武闘家OGたちはすぐに城門を開けて獣人族を迎い入れ、久しぶりの再会を喜んだ。

 アルフォンスも自分の戦術が成功したことで胸を撫で下ろしていた。

 もし、エステリック軍が城門前300m付近に布陣していたなら、獣人族の攻撃を真横から受ける事になっていた。そうなると、敗走した敵兵はコジョー方面に逃げ延びる可能性があった。そこで、アルフォンスはできるだけ敵部隊を城門近くまで引き付けて、獣人族の攻撃が彼らの退路を断つ形に仕組んだのだ。

「おお、こんな犬猫の種族もおったのだなぁ…世界は広い広い、わははははっ!」

 アルフォンスは主にトリゴン大砂漠の南側を放浪していたので獣人族を見るのは初めてだった。

 ケットシーの中にタビサを見つけたセイラムは城門の上から飛び降りて、タビサに抱きついていった。

「ニャンコちゃぁ〜〜んっ!」

「おおっ、妖精ちゃん久しぶりやねぇ…大っきくなったやんかぁ!ん…いつの間に背中に羽根を生やしたそ?」

 タビサはセイラムを抱きかかえて、ブンブンと振り回した。こうして…セイラムの「予知」は成就した。

 テレーズは獣人族に謝意を述べた。

「助かった…本当に助かった、ありがとう…!」

「にゃんの、にゃんの!」

 ウェアウルフの統領のネビライは言った。

「イェルマは友達じゃけぇな…あたい前のこつばしたまでたい。んで…敵はあいだけかいな?」

 テレーズは続けた。

「実は、西城門が攻撃されている。悪いがそちらに加勢に行ってもらえないだろうかっ⁉︎」

「何ちぃ…‼︎」

 ネビライは槍を掲げて仲間に喝を入れた。

「友達を助けに行っぞぉ〜〜っ!」

「ワオオォ〜〜ッ!」

 ウェアウルフたちは戦闘を終わらせたばかりだというのに、すぐにイェルマ中央通りを走り出した。それに負けじとケットシーたちも続いた。

「んじゃ、妖精ちゃん…うちらも行くけぇっ!」

「うん、セイラムも後から飛んで行くよぉ〜〜!」

「あ…そうそう。もう4、5時間もしたらトカゲも来るけぇね…そんじゃねっ!」

「うんうん、またねぇ〜〜!」

 そう言って、タビサたちケットシーも猛然と中央通りを駆けていった。故郷から20時間掛けて東城門に駆けつけ、敵兵100余りを一蹴し、さらに12時間掛けて西城門に走っていくつもりだ。獣人族はとにかくタフだ。

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