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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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五十章 犬と憲兵

五十章 犬と憲兵


 アンネリは夢を見た。アンネリは暗闇の中にいて、誰かと対峙している。相手が敵なのか味方なのかよくわからない。相手は暗闇の中で、光る何かをアンネリに向かって投げてくるのだ、それもいくつもいくつも…。アンネリはそれを必死で避けているが、最後にはそれがアンネリの心臓に命中して、体じゅうが燃えるように熱くなるのだ…。

 アンネリは飛び起きた。明け方で、みんなはまだ寝ていた。

 アンネリは以前にも同じ夢を見たことがある。アンネリはにんまりとほくそ笑んでいた。アンネリにとって、この夢は「吉兆」だった。

 以心伝心なのか、アンネリの横でアナが目を覚ました。

「どうしたの?」

「いい夢を見た…あたしやっと『探索者』になったよ。」

「えぇ〜〜…どういう事?」

「アナはクレリックだから、わかんないかぁ…。」

「えええぇっ!」

 アンネリはくすくすと笑ってアナの頬にキスをした。すぐにアナもお返しをしてきた。二人はくすくすくすくす笑いながら、お互いの頬を触ったり唇を触ったり胸を触ったり…触りっこをしていた。

 アンネリの隣で、ジェニは薄目を開けて二人の様子をドキドキしながらじっと見ていた。

 ジェニを除いた女性陣は朝食を摂るために宿屋に向かっていた。ジェニは朝は弓の練習をしてその後に昼食を摂るのが常だった。

 宿屋の前に犬がいた。マスチフ系の大型犬だった。その大きさに圧倒され腰が引けている女性陣の中で、その犬に真っ先に駆け寄ったのはオリヴィアだった。

「あれぇ〜〜、おっきなワンコがいるわぁ。昨日までいなかったのに、どっから来たのかしらぁ?」

 オリヴィアは中腰になり、犬に向かっておいでおいでをした。犬はぴくりとも動かなかった。それでもオリヴィアは犬の首に抱きついたり頭を撫でたり口の中に無理矢理手を突っ込んだりベロを指で挟んで引っ張ったりして、執拗に犬にまとわりついた。


 ライバックの弟子は驚いていた。突然視界の中に金髪の女が現れたからだ。

(もしかして…この女が伯爵様を襲った犯人、オリヴィアなのでは…?)

 弟子はすぐさま師匠のライバックに報告した。

 十階から駆けつけたマスターライバックは弟子に代わって犬との意識共有を継続し「テレヴィジョン」を使用した。マスターライバックの視界にどアップのオリヴィアの顔が映し出された。

(むっ…この女…似ている、瓜二つだ。そうか…これが公爵ご執心の理由か!うぉっ…まずいっ!これ、女…あまり犬を刺激するでない!…意識共有が…)

プツッ…

 マスターライバックと犬との意識共有が途絶えてしまった。その後マスターライバックは何度も犬との意識共有を試みたが二度となしえなかった。


 突然、犬が唸り出してオリヴィアに歯を剥いた。その瞬間、オリヴィアは犬の頭に強烈な鉄拳制裁を落とした。キャインッという鳴き声と共に犬は脱兎のごとくオリヴィアから逃げていった。

「ホントに失礼な犬ねぇ…。おかしいなぁ、わたしは犬猫には好かれるはずなんだけどなぁ…。」

 ジェニは宿屋から少し離れた林の中で弓の練習をしていた。その横でユーレンベルグ男爵は愛娘の練習を優しい目で見ていた。毎日のルーティーンである。

 「イーグルアイ」を発動させていたジェニは遥か向こうの街道で複数の人間がこちらにやって来るのを見つけた。

「あれは何かしら?先頭は騎馬…あ、もしかしたら憲兵隊⁉︎」

 ジェニと男爵はすぐに宿屋にとって返した。


 馬から降りた憲兵隊の隊長が宿屋へと入っていった。

「俺はティアーク王国憲兵隊のジェイクだ。村長を呼んできてくれないか。それと冒険者の代表はいるか。」

 しばらくして、村長とトムソンが宿屋にやって来た。

「やあっ、隊長さん!俺は冒険者ギルドオーク討伐隊の責任者トムソンだ。こっちは村長のマイクさんだ。こんな辺境の村に一体何の用だい?」

「手配書はもう回ってきてるな?お前達、同じ冒険者のよしみで伯爵邸襲撃の犯人を匿ったりしてないだろうな!」

「まさかぁ〜〜!そんなお上に楯突くようなことはしませんって。」

「冒険者のオリヴィア…金髪の女と黒髪の少女だ。ここにいないか⁉︎」

「隊長さん…こいつらですよね?」

 トムソンは憲兵隊の隊長に自分が持っている手配書を見せた。

「んんんっ?…この手配書…は?」

「昨日、憲兵さんが持ってきましたよ、間違いありません。」

 トムソンが出した手配書には…冒険者五級オリヴィア、金髪、職種不明、報奨金金貨5枚。謎の少女、黒髪、職種不明、報奨金金貨3枚。生捕りのみ、殺すこと能わず。情報提供者にも報奨金あり。…と書いてあった。そしてオリヴィアと少女の人相書きも載っていた。

 隊長は懐から自らが持参した手配書を開いて見た。文言は同じであったが…人相書きはなかった。トムソンがその手配書を覗き込んで言った。

「あ、隊長さん。その手配書、古いんじゃないですか?」

「そ…そんなはずは…」

「だってさ、そもそも人相書きがないなんておかしいでしょう。それに、報奨金、こっちの方が高くなってるでしょう…ほら…」

「あ…本当だ。」

「報奨金が高い方が新しいに決まってるじゃないですか。」

 隊長のジェイクは少し考え込んだ。自分が知らない間に手配書は更新されたが、何かの手違いで古い手配書を持ってきてしまった?

 ジェイクは、宿屋の前で大きな犬を追いかけ回している金髪女をちらりと見た。

「あの女は?」

「ああ、リンダですか?」

 ジェイクは新しい手配書の人相書きと金髪女を見比べた。似ても似つかなかった。

 もともとガルディン公爵が王妃エヴァンジェリンと瓜二つのオリヴィアに懸想したのが事の発端だ。王妃の顔を知っている者は知っている。手配書に人相書きを載せると不審に思う者が必ず出てくる…ガルディン公爵はそれを憂慮してわざと人相書きを省いた手配書を作ったのだった。

 ホーキンズは手配書が村に回ってきた時、人相書きのない手配書を不思議に思ったが、それを逆手にとって今回の手配書改ざんを思いついたのだった。

「隊長さん、他に御用はあるかい?」

「そ…そうだ、ネイサンを知ってるか?」

「ああ〜〜っ…いい奴だったのになぁ…仲間をオークに殺されて、次の日ひとりで仇討ちに行ったんだよ。おとこだったねぇ…今、俺達は死んだ仲間の喪に服してるんだ…」

 そう言って、トムソンは左腕の喪章を見せた。

「遺体はあるか?」

「…ない。可哀想にオークに食われてしまった。遺品のフルプレートとツーハンドソードはあるぜ。」

「墓はあるか?」

「こっちだ。ネイサンは後でオークにやられたから…墓碑の刻字に間に合わなかった…まぁ、隊長さん、今晩は俺が奢るぜ、ネイサンの冥福を祈って飲み明かそうぜ!」

 トムソンはジェイクの肩を抱いて、共同墓地へと連れて行った。その後、ジェイクはアナの中級神官資格証を確認してその日の仕事を終えた。

 夜、宿屋の一階ホールは憲兵隊五人を交えてのドンチャン騒ぎの宴会となった。大量の牛肉と飲みきれないほどの酒がふるまわれて憲兵達は大喜びだった。

「ジェイク隊長、どうですか⁉︎ここの肉うまいでしょう?」

「うむぅ…うまいな。肉なんて久しぶりだ!それもこんなに分厚いヤツはっ‼︎」

「二、三日ここに逗留したらいいですよ。みんなギルドの奢りです。いつもお世話になっている憲兵さんへのほんの心尽くしですよ…なぁに、調査に手間取ったって言えば…ねぇ?」

「んふ…うはははは、そ…そうか…?」

 トムソンとジェイクは肩を組んでジョッキをぶつけ合って乾杯した。憲兵も人の子であった。

 オリヴィアが宴会に参加したいと駄々をこねたが、女性陣が必死に取り押さえたことは言うまでもない。


 弟子がマスターライバックに進言した。

「…本命の金髪女が見つかりました。良かったですね、面目躍如ですね。早く公爵様に報告いたしましょう!」

「いや待て…もう少し様子を見たい…。」

 マスターライバックはバーゲストの調伏に成功した折、謁見の間で国王陛下から直々にお褒めの言葉と一代子爵位を授けられた。その時に同席していた王妃陛下からも労いの言葉を頂いた。この上ない美貌と計り知れない美徳を備えた女性だという印象を受けた。

 ガルディン公爵は王妃陛下そっくりのあの女をどうするつもりだろう…あの下衆のやることだ、想像はつく…王妃陛下を貶めるつもりか!…マスターライバックはそう思っていた。


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