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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百九十一章 コッペリ村占領

四百九十一章 コッペリ村占領


 キャシィがオーレリィの雑貨屋に飛び込むと、オーレリィとダンが開店の準備をしていた。

「おや、キャシィ…こんな朝早くにどうしたんだい?」

「オーレリィさん、オーレリィさん…コッペリ村がおかしいですよっ!何か…兵隊みたいな人がいっぱいいますよっ‼︎」

「えっ?」

 オーレリィは仕事の手を止めて店の外に出てみた。確かに…明らかに村の住人ではない面識のない男たちが数人、村の大通りを歩いていた。

 キャシィは言った。

「最初は貿易商人かなって思ったんですけど、キャシィズカフェで接客してた時にチラッと見えたんです…あいつら、鎖帷子を着込んでますよっ!」

「それは本当かい…⁉︎」

 オーレリィがダンに目配せすると、ダンはすぐに店の奥に入って行った。

 キャシィは続けた。

「イェルマでは第三次エステリック大侵攻が噂されてます。もしかしたらと思って…サムさんに会いに来たんですけど…」

「…サム、どうしてサムなんだい?」

「サムさんはイェルマの魔道士と『念話』ができるんですよぉ〜〜っ!」

「おおっ…サムは二階のダフネの部屋にいるよ!」

 キャシィは二階の階段を駆け上がっていった。オーレリィはダンが持ってきた四本のトマホークの具合を確かめ、ダンは半分錆びた自前のロングソードに砥石を掛けた。

 キャシィはノックもせずにダフネの部屋に飛び込んだ。すると…赤ちゃんはベビーベッドに寝かされていて、ダフネとサムはというと…ひとつの寝台で仲良く抱き合って寝ていた。

 キャシィはしまったと思った。

「あっ…ごめん…!」

「うっ…キャシィ?」

 サムは慌てて寝台から起きて、パンツ一枚の体にシャツを羽織った。

 半裸のダフネが気だるそうに言った。

「…どうしたんだい、キャシィ?」

「第三次エステリック大侵攻が始まったんですよ…外を見てください、兵士らしき知らない連中がいっぱい来てますよっ!」

「何だってぇっ⁉︎」

 ダフネが間借りしている部屋には窓がひとつあるが、コッペリ村の大通りには面していない。その上、赤ちゃんが産まれたばかりでダフネ、サム二人とも赤ちゃんに掛かりっきりでろくにダンの雑貨屋から出ていない。事実、サムは赤ちゃんが産まれてからずっとサムズバーバーを休業している。

 ダフネは寝巻きを着ると、血相を変えて一階に降りていった。そこで、武器の手入れをしているオーレリィとダンに会った。

「こらっ、ダフネ…あんたは動いちゃダメだよ!赤ちゃんを守らないとっ‼︎」

「でも…」

 すると、そこに五人の体格の良い男たちが店に入って来た。五人は麻のシャツを着ていたが、腰には立派な皮のベルトとロングソードをぶら下げていた。

 ひとりの男が言った。

「我々はエステリック王国騎士兵団である。この店は何を売っているのか?」

 オーレリィ、ダン、ダフネは絶句した。

「おい、答えろっ!」

 我に返ったダンが冷静さを取り戻して答えた。

「ここは…雑貨屋ですが。」

「…そうか。ただ今を以て、この店及びこの店で扱っている品物は全てエステリック王国軍が徴発する。」

(な…何だとぉ〜〜っ…!)

 男の言葉を聞いて、カッとなったダフネが今にも騎士兵に飛びかかろうとしていたので、ダンがそれを左腕で抑えた。

「おい、そのトマホークとロングソードは何だ?」

「ああ、これですか?うちの商品ですよ…ほら、錆びてるでしょう?手入れをしようと思って物置から出してきたんですよ。」

「そうか…それではとりあえず、それを貰っておこうか…。」

 ダンは大人しく四本のトマホークとロングソードを騎士兵に渡した。

「ここの住人はどれだけいるんだ?」

「はぁ…私の妻と…娘夫婦、それに子供たち…全部で7人です。」

「そうか…この村には戒厳令が発令された。無闇に家から出るなよ。」

 そう言い放って騎士兵たちは店から出ていった。

 オーレリィとダフネはダンをキッと睨んだ。

「あんた、どうしてあんな奴らの言いなりになるのさっ!」

「落ち着け…外を見てみろ。」

 ダンの言葉に従ってオーレリィとダフネが店の外を覗いてみると…コッペリ村の大通りを埋め尽くさんばかりに皮鎧、盾、ショートソードを装備したエステリック王国義勇兵団が隊列を組んで並んでいた。そして、先ほどの男たちと同じ麻のシャツの男たちが村じゅうを走り回り、時折お店や民家に押し入っていくのが見えた。

 オーレリィは額に冷や汗をかいて言った。

「い…いつの間にこんな数の兵士たちが…?」

「俺たち三人が斬り込んでも無駄死にだ。ダフネがあの大斧を持って来なくて良かったよ。」

「ううう…」

 二階にいたサムはみんなから情報を収集してすぐにこの事をイェルマの魔道士のマリアに「念話」したが…すでに時を逸していた。

 キャシィはキャシィズカフェが心配になって、ダンの雑貨屋の裏口から飛び出して裏道を通ってキャシィズカフェに戻っていった。

 やはり、キャシィズカフェにも数人の騎士兵団が来ていて、キャシィズカフェの住人はみんな一階に降りてきていた。養い子たちはグレイスにベッタリくっ付いて悲愴な顔をしていた。

 小隊長らしき男が詰問していた。

「おいっ、ここは何だ?何の商売をしている…宿屋か?」

 セドリックが言った。

「…ここは食堂です。」

 すると…

「小僧…お前には聞いていない。ちゃんとした責任者を出せ、責任者は誰だ?」

 騎士兵は十六歳のセドリックを子供だと思って相手にしなかった。他のみんなは尻込みをしていた。

 騎士兵は都会的な雰囲気を持つハインツに白羽の矢を立てた。

「おい、お前…説明しろ。食堂の割にはこの建物は大きいな…三階建てじゃないか。それに、裏にはさらに大きな建物があるな、機織り機がたくさん置いてあるようだが…。」

「ここは下宿屋も兼ねています。実際、僕はここに下宿させてもらっていまして…そこの夫婦やそこの紳士も下宿人です…。裏の建物は、まだ稼働していませんが機織り工場です。」

「なるほど…。で、お前はここに下宿してコッペリ村で何をしているんだ?」

「僕は五軒隣で…粉屋をやってます。そこの夫婦は老後をのどかなコッペリ村で過ごそうと城下町から移ってきたそうです。そこの紳士…ケントさんは…生糸の貿易の仕事だったかな?」

「ふむふむ…」

 すると、突然…店内を調べていたひとりの騎士兵がワイン倉庫で嬉々として叫んだ。

「おい、この芳しい香り…これはワインじゃないのか⁉︎ワインが山積みされてるぞ!」

「本当か⁉︎それは凄い…ワインは我々が徴発する…!」

 その時…

「ちょっと待ったあぁ〜〜っ!」

 ワイン倉庫の大扉からキャシィが現れて待ったを掛けた。

「誰だ、お前は…?」

「私がここの責任者ですっ!」

「またガキかぁ〜〜…」

「看板の横の紋章を見ましたか?ここはユーレンベルグ男爵のお店ですよ!この店に手を出したら、ユーレンベルグ男爵が黙っていませんよっ‼︎」

「…ユーレン…男爵?」

 騎士兵は首を捻った。

(あっ、こいつらはエステリックの兵隊か…。ティアークの貴族のユーレンベルグさんを知らない…⁉︎)

 キャシィは先走り過ぎたかなと思ったが、とにかく何とかこの場を乗り切ろうとなおも喋り続けた。

「良いですか、よく聞いてください。このお店はユーレンベルグ男爵のワインを扱っているんです。男爵は同盟国全土にワインを流通させていて…エステリックでもその影響力は絶大ですよっ!ユーレンベルグ男爵を怒らせたら…あなたの首ぐらい簡単に飛んじゃいますよっ‼︎」

 しかめっ面をした小隊長は他の騎士兵に指で合図を送った。合図を受けた騎士兵は一度キャシィズカフェを出て、ユーレンベルグの紋章を確認し、戻ってきて小隊長の耳元で何やら囁いた。

「…そうか、分かった。」

 小隊長は改めて言った。

「徴発は…とりあえず保留にしておく。しかし、戒厳令が出ているから、勝手に外に出るんじゃないぞ!」

 騎士兵たちはキャシィズカフェから出ていった。

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