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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四十九章 テイマー戦争 その1

「四十七章 城門突破」において、またまた致命的なミスがありました。ヴィオレッタがアンネリに逃亡資金として金貨1枚をあげていたことを失念しておりました。よって、ヴィオレッタの残りの所持金は、正しくは「金貨1枚と銀貨がちょっと…」となります。

 訂正しました。申し訳ございません。

四十九章 テイマー戦争 その1


 ステメント村の宿屋。

 古びた大きな梁に小さな蜘蛛が巣を作っていた。小さな蜘蛛は巣から出ると、一階ホールで冒険者達が食事をしている光景をじっと観ていた。

 すると、そこにヤモリがやって来てその蜘蛛を食べてしまった。ヤモリが他の餌を探していると、目の前に手のひら大の蜘蛛が現れてあっという間にヤモリはその蜘蛛の餌食となった。


 ガルディン公爵がその報告を聞いたのは「色魔殿」と呼ばれる別宅であった。別宅と言ってもその敷地は広大で、屋敷だけでも120平方mに及ぶ。

 大きな円形のベッドに寝ている公爵のところに女召使いがやって来て耳打ちした。女は何も着ておらず全裸だった。

 その知らせに公爵は少し驚いた。

(なんと…あのシビルが死んだのか。それもオークに殺されて…奴ほどの手練れがのぉ…。)

 公爵が裸の上半身を起こすと、横に寝ていた裸の少女が公爵の巨大な一物をしゃぶり始めた。

「儂はもう起きる。ええいっ、邪魔じゃっ!」

 公爵は全裸の少女をベッドから蹴り落とした。少女はそのまましばらく床にしゃがみ込んでいたが、立ち上がると部屋の壁まで歩いていき、二本の燭台を両手に持って「人間燭台」となって動かなくなった。

 公爵は全裸の体にローブを一枚羽織ると、女召使いを先頭にして寝室を出た。女召使いは先ぶれとして大声で叫びながら公爵の前を歩いた。

「公爵様のお出ましです…公爵様のお出ましです…。」

 二人は長い廊下を歩いた。廊下には5m置きに全裸の女が「人間燭台」として立ち微動だに動かなかった。そして女達のへその下には一様に公爵家の紋章の焼印が押されていた。公爵の終身奴隷だった。みな公爵自らが吟味し選び抜いた美女ばかりだった。中にはお腹を膨らませた女もいた。

 公爵が浴室に入ると、数人の全裸の女奴隷達が公爵の体を磨き上げ、服を着せた。

 公爵が正面玄関に向かうと、男の執事が待っていた。

「公爵様、いかがなさいますか?」

「今から王宮に行く。朝食はそちらで摂る。」

「かしこまりました。」

 執事はすぐに馬車の用意をした。


 ガルディン公爵は王宮の宰相の執務室に着くや否や、法務尚書と軍務尚書を呼んだ。

「今朝、役所の戸籍係に冒険者ギルドからネイサンの死亡報告書が提出された。ステメント村に憲兵をやって調べさせろ。それから、魔道棟はどうなっておる⁉︎まだオリヴィアなる女とその仲間は見つからんのか?」

「それが…昨晩、マスターサイモンが急逝なさいました…。」

「何ぃっ⁉︎」

「弟子のバクスターに殺されたという報告がきておりますが…何とも妙でして、バクスター本人は自分はやってないと、蜘蛛を操るテイマーの仕業だと頑なに主張して曲げません…。」

「そんなことはどうでもよいわっ!サイモンなど知ったことかっ!儂が興味があるのは結果…結果だけじゃっ‼︎魔道棟の連中は高い禄を食んでいるのに、どいつもこいつも役立たずばかりかっ‼︎結果を持って来い…結果をっ‼︎」


 バクスターは魔道棟の懲罰房から出され、テイムマスターがいる棟の十階の一室に連れて来られた。中には三人の衛兵とローブを身に纏った二人の初老の男がいた。

 バクスターはひざまづいて懇願した。

「マスターヨアヒム、マスターライバック…聞いてください。私は本当に無実なのでございます。見てください、この首の咬み傷をっ!蜘蛛の毒で前後不覚になった私を何者かが操ったのでございます…どうして私が尊敬申し上げている師を殺めることができましょう…!」

「それはもう聞いた。我々はお前を疑っている訳ではない…サイモンはお前にゆくゆくはマスターの座を譲ると公言しておったし、お前にサイモンを殺す動機はない…。」

「私を糾弾するつもりでは…ないと…?」

「ガルディン公爵様が大変なご立腹なのだ、早く金髪の女を見つけ出せとな…。それで、我々も動かねばならなくなった。我らの使い魔を総動員して捜索をする一方で、お前の潔白を証明するためにも件の『蟲使い』とやらを見つけ出す方向とあいなった。お前も引き続きヤモリを動かしてくれ。但し、お前はまだ『蟲使い』の影響下にあるやもしれん。懲罰房での作業とする。」

「分かりました…あの『蟲使い』は厄介です。マスターサイモンも一目置いておりました…」

「今となってはもはやサイモンひとりの問題ではない…このままでは公爵様の不興を買い、この魔道棟自体が危ういのだ。公爵様は我らのことを役立たずの穀潰しとまで言っておるのだ。ティアーク王国魔道棟十階調伏師の面子がかかっておる…」

「六階や八階の御仁にも助力を頼んでみては…?」

「バカ者っ!面子がかかっておると言うたにっ…何としてでも我々テイマーのみで事態を収拾するのだっ!賢者や召喚師に用はない!」

 マスターヨアヒムは「鳥使い」だった。弟子達はカラスを使役し、ヨアヒム本人は世界最大の鳥、ロック鳥を使役していた。

 そしてマスターライバックは「動物使い」で、彼に至っては火山地帯に棲息するヘルハウンドの中の希少個体、バーゲストの調伏に成功していた。この功績によって、ティアーク王国のテイマーの歴史に燦然たる金字塔を打ち建てた。

 「モンスター」級のロック鳥やバーゲストは神聖魔法「神の威厳」では意識共有ができない。魔法抵抗が高くその上強力な意思を持っているのでレジストされるのだ。そこでまず神聖魔法「神との契約」で確固たる主従関係を結び、その後に「神の威厳」で意識共有を行う。

 実は闇系の契約魔法もある。強制的な支配の「魅了」や「洗脳」も闇魔法だ。しかし、闇魔法はそれを習得した時点で神の恩寵を失い、他の全ての魔法を二度と使えなくなってしまうので、メリットよりもデメリットが大きい。闇魔法を使うのは「サマナー」と「ネクロマンサー」だけである。


 生物を分類する時、彼ら魔法学者の見解では…あくまでも人間を基準としたものだが…繁殖行動をしているかしていないか、また人間程度の知能を持つか持たないかでその分類が変わってくる。

 繁殖行動を持つ生物は「種族」として認められ、「◯◯族」や「××族」と呼称される。その中で人間と同等かそれ以上の知能を持つ生物は「魔族」と呼称される。この分類だと、エルフやドワーフも魔族である。繁殖行動をしない生物は知能の有無に拘わらず、大きな括りで「モンスター」と呼称される。

 魔法やスキルが使える、使えないは全く関係ない。…と言うか、魔法やスキルが使えない生物は存在しないという立ち位置だ。人間と比較した場合、「猫」は夜目が利くし爪を出し入れすることができる。「犬」も人間の数万倍という嗅覚を持っている。立派なスキルだ。

 例えば、ゴブリンは繁殖行動をしているが知能は人間より低いので、「ゴブリン族」ではあるが「魔族」には分類されない。ゴブリンから稀に生まれるゴブリンロードは、その子孫が必ずしもゴブリンロードになる訳ではないので「モンスター」に分類される。そうなると、上述のロック鳥は繁殖行動をするので、「モンスター」級ではあっても厳密には「モンスター」ではない。但し、例外もある。フェアリーやピュィクシーなどは「妖精」、ドラゴンやユニコーンなどは「聖獣」、ワイトやデーモンなどは「悪魔」として独立した分類に属している。


 魔道棟から無数のカラスと犬が放たれた。

「まずは城下町を隈なく探索しよう…特に冒険者ギルドは綿密にな。『蟲使い』探索の部隊も必要だ…どこか近くに『蟲使い』の蜘蛛がいるはずだ、捕まえて来い。犬に臭いを覚えさせる…」

「冒険者というと、今はほとんどステメント村ですね…ステメント村にいる私のヤモリとの意識共有が確立しません…」

「ならば、そちらには私の犬を向かわせよう…冒険者ギルド全体で犯人を匿っている可能性もあるからな。」

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