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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百八十九章 イェルマの反攻

四百八十九章 イェルマの反攻


 アナは馬車から飛び降りると、メイと共にすぐにボタンのもとに走った。

「ボタン様、負傷者は?」

「あははは…いないそうだ。強いて言えば、約1名かな?」

「…え?」

 アナとメイは、その負傷者がいるという東城門の詰所に向かった。詰所に入ってみると、負傷者のそばでセシルとセイラムが看護をしていた。

「あれ…ええと、確かセシルさん、それからそっちは妖精のセイラムちゃんだっけ?」

「アナ様…こんばんわぁ…。」

「あっ、アナだ…アナァ〜〜ッ!」

 この三人は、剣士ライラックの娘のリグレットがおはじきを喉に詰まらせた時と、獣人族を招いての親善試合の時に会っている。

 セイラムはアナに抱きついていった。セイラムに「エンジェル」への道を示してくれたのはアナだった。なので、セイラムはアナを尊敬していて大好きだ。

 それを見たセシルは焦った。

「こらこら、セイラムちゃん…この方は『食客』様なんですよ、そんな失礼な事しちゃだめっ!」

「全然、構いませんよぉ〜〜。ふふふ、セイラムちゃん、可愛いわねぇ〜〜。」

 アナが剣士の傷口を確認してみると、自分の出番がない程に綺麗に塞がっていた。

「メイ、馬車から増血剤を持って来てこの人に飲ませて。」

「はい。」

 アナはセシルに尋ねた。

「この傷口は誰が治療したんですか?」

「セイラムちゃんです。」

「え⁉︎…妖精って、そんな事もできるんだ…。セイラムちゃん、凄いわねぇ〜〜っ!」

 セイラムはアナに褒められて、嬉しさと恥ずかしさでアナの胸にぐりぐりと顔を押し当てた。

 セシルはセイラムが神聖魔法を使えるに至った経緯を、かいつまんでアナに説明した。

 アナは言った。

「それは素晴らしい…!私の他にも治癒魔法が使える者がいれば、安心ですねっ!」

 その時、アナは詰所に一緒に転がされている敵兵に気付き、彼らのそばまで近づいた。そして…セイラムが治した彼らの右手首も見た。

「…これもセイラムちゃんが…?」

 セイラムが得意げに言った。

「うん、セイラムが治したんだよぉ〜〜っ!光の精霊はねぇ〜〜…生き物みんなに平等なんだよぉ〜〜っ‼︎」

 セイラムの言葉を聞いてアナは感激して…ひしとセイラムを抱きしめた。

「セイラムちゃん、偉い…偉いわぁ〜〜!その通りよ、私たちクレリックには敵も味方も関係ない…今、苦しんでいる人をその苦痛から解き放ってあげるのが神から頂いた使命なのよ!」

「うん、殺しちゃダメなの…死にそうな人は誰でも治してあげなくちゃいけないのぉ〜〜っ!」

「その通り…その通りよ、セイラムちゃんっ‼︎」

 アナは感激のあまり、涙ぐんでいた。アナに抱きすくまれてセイラムは…アナの胸の中で言葉では言い表せない不思議な感覚に捉われていて、ぼぉ〜〜っと宙を見つめていた。


 夜が明けた。

 東城門の200m手前で布陣しているエステリックの騎士兵の隊長ネッドは、単眼鏡を覗き込んで言った。

「むっ…城門上の数が増えた。射ち尽くしたはずの矢を持ってる…援軍が到着したな。」

「…どうしますか?」

「援軍が到着するのは想定内…むしろ、到着してもらわんと困る。俺たちの数が最初150だったから、奴らの援軍は200か300くらいだろう。その援軍をここに釘付けにするのが俺たちの役目だ。東城門を突破できてりゃなお良かったけどな…。」

「あ…隊長、城門が開きましたよ!」

「何…⁉︎みんなに通達せよ。奴らが攻めてきたら…我々はコジョーの村まで撤退するぞ。」

 城門が開き、中から剣士50と戦士50が出てきて、盾を前にして二列横隊で布陣し、その後ろにランサーの騎馬60が控えた。そして、城門の上ではアーチャー20がタチアナの指示を待っていた。

 タチアナはボタンの合図を受けて、アーチャー隊に号令を下した。

「目標、前方200mのエステリックの軍。矢をつがえよ…射てっ!」

 アーチャーたちは約45度の角度で遠距離射撃を行った。

 放たれた矢は裕に200m飛んでエステリックの兵士たちの足元や盾に突き刺さった。

 ネッドは慌てた。

「おわわっ…あいつら、専門職のアーチャーだっ!」

 その直後、ランサーの騎馬隊が剣士と戦士の列を割って、突撃を開始した。しかし…

「ええっ…ウソだろ⁉︎」

 ランサーたちは自分たちの目を疑った。エステリック軍は潮が引いていくように一目散に撤退していったのだ。

 この場合、敵の深追いは禁物だ。一合の戦闘もせずに明からさまに撤退するなど、伏兵がいるか罠が仕掛けられているに決まっている…イェルマの戦術教本でも深追いは強く戒められている。

 イェルマのランサー部隊は追撃を止め、東城門に戻っていった。

 ボタンは困惑していた。

「これは…どういう事だろう…。」

 隣にいてボタンに見惚れていたアルフォンスが言った。

「ゴホンッ…奴らは陽動部隊だな…。できるだけ損耗を抑えて、少しでも長く俺たちをここに引き付けておきたいのだろう。」

「むっ…すると、本隊は…西城門?」

「…多分な。イェルマの兵力を西城門と東城門で分散させるためだろうな。」

 その時だった。魔道士のサブリナが城門の上に駆け上がってきて叫んだ。

「ボタン様…今、マーゴット様から『念話』が参りました!…イェルマ橋とイェルマ橋駐屯地が敵に占領されました!…敵の数は大多数…目下、イェルマ回廊を進軍中だそうです!」

「…何だとっ⁉︎」

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