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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百八十七章 セイラムの活躍

四百八十七章 セイラムの活躍


 二人はイェルマ中央通りの地上10mを時速150kmで飛んでいた。

 二時間近く飛んでいて、高速飛行にも慣れたセシルは周りを見る余裕が出てきた。ずっと一定の速度で真っ直ぐに飛んでいるので、その安定感とセイラムへの信頼で「落ちることはまずないなぁ」と確信した。

(この辺りは来たことがないわねぇ…。あっ、あれは東の牧場かしら…ヤギさんがいっぱいいるわ、ふふふ。あれ…あの人たちはどうしたのかしら?)

 セシルはイェルマ中央通りの真ん中でうずくまっている二人を見つけて、セイラムに声をかけた。

「セイラムちゃん、ちょっと止まって。あの二人の近くに降りてみてくれる?」

 セイラムはゆっくり速度を落とし、螺旋を描くようにしてイェルマ中央通りに着陸した。

 武闘家房OGのクラリッサは人間が空から降って来たので仰天した。

「うおおお…お前たちは…何だ⁉︎」

 セシルは答えた。

「私は魔道士のセシルです。えっと…その人どうしたんですか?凄く具合が悪そうですけど…。」

「魔道士か、なるほど…!」

 クラリッサは一瞬、空を飛ぶ魔法が開発されたんだな…と思った。そして…

「同盟国の兵士にやられた…こいつ、出血が酷くて意識を失いかけてるんだ!ヒールをもらえないか⁉︎」

「分かりました!」

 セシルは右腕を負傷している剣士職の女にヒールを掛けた。女は少し顔色が良くなったが、しかし、出血を止めないとどんどん体力を失っていく。

 セイラムが女の負傷した右腕を見て…

「セイラムが治してみるよぉ〜〜!」

「えっ…セイラムちゃん、できるの?」

 セイラムは神代語で光の精霊に「傷を治す」ように命令した。だが…

「あれれ、うまくいかないなぁ…何でだろう?」

 セシルが言った。

「セイラムちゃん、治癒魔法の人語の呪文は覚えてる?それを試してみて。」

 セイラムは「パッケージ化」されたクレリックの治癒魔法の呪文を唱えた。

「美徳と祝福の神ベネトネリスよ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者。恵みの大地、安らぎの風、命もたらす水、養いの火、これ全て神の理にして神の御業…ベネトネリスよ、願わくばこの者に慈悲の手を、恩寵の手を、祝福の手を垂れよ。この者をあるべき姿に回帰せしめよ。…降臨せよ、神の回帰の息吹き!」

 セイラムが女の患部にふっと息を吹き掛けると、セシルたちには見えていないが…天上からたくさんの光の精霊が降臨してきて、女の右腕の傷に集まり…その傷を塞いでいった。

 どこにでもいる自然系四精霊と違って、光の精霊を思い通りに動かすのは少し勝手が違うようだ。

 切り傷が跡形もなく閉じたのを見て、クラリッサは驚いて言った。

「セイラム…セイラムはまだ小っちゃいのに凄いな…!ありがとう、礼を言うよっ‼︎」

 セイラムは生まれて初めて人から感謝された。「ありがとう」という言葉がしばらく頭の中で何度も何度も反響した。

 クラリッサは言った。

「あんたたちはどこへ行くんだい?」

「はい、東の城門へ救援に向かっている途中です。後からボタン様の軍隊も駆け付けて来ますよ。」

「そ…そうか!東城門は今、大変な事になっているはずだ。みんなを助けてやってくれっ‼︎」

 それを聞いて、セシルはギクリとした。

(うわわわぁっ…やばいなぁ、もう戦闘は始まってるのかぁ〜〜…。行きたくないなぁ…。)

 すると…

「セシルママァッ!急いで急いで…また飛ぶよおぉ〜〜っ‼︎」

「うわわわわわぁ〜〜っ‼︎」

 セイラムはセシルを抱えて、再び空に浮かび上がった。


 アルフォンスは東城門の上に立って200m先の敵の軍勢を見つめていた。

「動かんなぁ…。」

 そばにいた魔道士のサブリナは不安そうに言った。

「こちらはもう…満身創痍です。また、あの軍勢が攻めてきたら…アルフォンスさん、防げますか…?」

「んん〜〜…聖剣でもありゃぁ、何とかできるかもしれんが、まぁ…無理だな、わははははっ!」

「ひえぇ〜〜…」

 サブリナはアルフォンスのそばが一番安全だと思って、彼のそばから離れなかった。

 サブリナが「念話」でSOSを発してからまだ三時間も経っていない。援軍が到着するには最低でも十二時間はかかる。100人以上の軍勢相手にすでにボロボロの12人で十二時間…耐え抜く事ができるだろうか?

 サブリナはもう、心細くて心細くて今にもアルフォンスに抱きつきたいという衝動を必死に抑えて、その代わりにボロボロの上着の袖を震える右手でしっかり握りしめていた。

 その時、アルフォンスは気配を感じて上空を見上げて脇差しを構えた。二人の人間が空からゆっくり降りてきて、東城門の上に着地した。

「うおっ…信じられん!お前たちは…魔物かっ⁉︎」

 城門の上にいた武闘家OGたちも驚いていた。

 サブリナは二人を見るや、アルフォンスの言葉を遮って叫んだ。

「セ…セシル先輩っ?…セイラムちゃんも…‼︎」

 以前、セシルとセイラムは魔道士房で生活をしていたので、魔道士の間では妖精の少女セイラムは有名だった。

 セシルはサブリナを見て駆けつけた。

「サブリナ、あなたがここの『念話』ネットワークの魔道士なのね。怪我はない?」

 サブリナは魔道士房の先輩が現れた事、そして手勢が増えた事が嬉しくて…セシルに思いっきり抱きついた。

「せんぱぁ〜〜い…ひえぇ〜〜んっ!」

「サブリナ…状況はどうなの?」

「みんな…負傷してます。私ももう魔力が無くて…ううう…」

 それを聞いて、セシルはセイラムに言った。

「セイラムちゃん、怪我人がいっぱいいるみたい。さっきみたいに怪我をしてる人たちを治してあげて。ひとりでできる?」

「出来るよおぉ〜〜っ!セイラム、出来るよおぉ〜〜っ‼︎」

 セイラムは城門の上の武闘家OGの間をちょこまかと動いて、「神の回帰の息吹き」を掛けて回った。それが終わると、ピョンと5mの城門から飛び降りて他の人たちの怪我も治癒していった。魔力を使っても使っても、セイラムの体内にある「リール女史」がどんどん魔力を回復してくれる。

 セイラムは張り切っていた。クラリッサから貰った「ありがとう」という言葉が、セイラムが元来持っている「献身」という妖精の資質を強く刺激したからだ。

 テレーズは、セイラムの「神の回帰の息吹き」で捻挫した右足首の痛みが消えていくのを感じて…

「ああ…気持ち良い…。お嬢ちゃん、ありがとね…。」

 うわわわ…また、「ありがとう」って言われた…セイラムはニタっと笑って有頂天になった。

 セシルはアルフォンスを見て、どうして男性がここにいるのか分からずサブリナに尋ねた。

「あの…ねぇ…この人は…誰、味方?」

「もちろん味方ですっ!この方は私たちの命の恩人、アルフォンスさんですっ‼︎」

 アルフォンスは自信満々で言った。

「キミはセシルと言うんだね…どうだ、俺の嫁にならないかっ⁉︎」

「…へ?」

 セイラムは後方で人間の呻き声がした気がして、後ろを振り返った。その方向には東城門の詰所があった。

 テレーズは言った。

「ああ、あいつらは放っておいて構わないよ。」

 そう言われたが、セイラムは詰所の中に入っていった。中には…麻袋に詰められた数体の死体と、アルフォンスによって右手首を落とされた十数人の敵兵士がいた。彼らは荒縄で両脚を固く縛られ、右手首に手拭いを当てて止血しながら激痛で呻いていた。

「い…痛いぃ〜〜…助けてくれぇ〜〜…」

 テレーズがセイラムのそばまでやって来て…念を押した。

「そいつらは敵で、私らはこいつらに殺されそうになったんだ。お互い、殺し殺され合う兵隊同士…死んだところで自己責任ってもんだ。」

「そっかぁ…」

 すると…セイラムの頭の中で声が響いた。

(…その人たちも治してあげなさい。生きとし生けるものに光の精霊は平等ですよ…)

「んん…?だぁ〜〜れぇ〜〜?」

(光の精霊を統べる者は…生きるものの生死や運命を決めてはいけません…)

「よく分かんないけど…分かったぁ〜〜!」

 セイラムは謎の「念話」に従って…詰所に監禁された敵の兵士たちにも「神の回帰の息吹き」を掛けて回った。兵士たちの右手首の切断面に見る見る新しい皮膚ができて…出血が止まった。

 テレーズは小さな声で言った。

「敵なんだから、助けなくてもいいのに…。」

 セイラムの治癒魔法によって、東城門を護るイェルメイドたちは何とか持ち直した。

 そしてそこに、意識を取り戻した剣士を荷車に乗せて、クラリッサも合流してきた。


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