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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百八十六章 空飛ぶセシル

四百八十六章 空飛ぶセシル


 東城門からの応援要請を「念話」で受けたマリアはすぐにマーゴットに一報を入れ、その情報は「念話」ネットワークの魔道士によって「四獣」にももたらされた。

 鳳凰宮の女王ボタンは言った。

「まさか…東城門に敵襲だとっ…⁉︎攻めて来るなら、西城門だと思っていたが…裏をかかれたな…!急を要する、私が行って指揮を執る‼︎」

 ボタンの護衛についていたタチアナが言った。

「危険です…ボタン様自ら行かれずとも…」

「イェルマの女王は…戦う女王だ!」

 敵は100から150…こちらもそれ相応の軍編成をしなくてはならない。ボタンはすぐに魔道士を通して各方面に指示を出した。

 ただ…城塞都市と呼ばれるイェルマをわずか150の兵士で攻略しようとする敵の意図に…一抹の不安も感じた。

 まず、イェルマ中広場で騎馬訓練をしているランサーたち60名をそのまま東城門に向かわせた。それから他に剣士房から50名、戦士房から50名、射手房から20名を召集して編成、食糧と攻撃魔法が使える魔道士10名を乗せた二台の馬車をしつらえて後を追わせた。最後に…クレリックのアナを同伴させることも忘れてはならない。

 ボタンは愛刀二本を腰にさして護衛のカタリナを従えて部屋を出た。すぐに馬に乗って東城門に向かうつもりだ。

 ボタンたちが部屋を出ると鳳凰宮三階の廊下でセシル、セイラムと鉢合わせした。セシルはイェルマの女王に挨拶をした。

「おはようございます、ボタン様…おや、そんなに急いでどちらへ…お手洗いかな?」

「いや違う…東城門が襲われた。ついに『第三次エステリック大侵攻』が始まったようだ。それで、今から東城門に向かう。」

「まぁっ!…セイラムちゃんが予知した…アレですねっ⁉︎…大変だわっ‼︎」

「急いでいる…あなたたちは鳳凰宮でじっとしていなさい!」

 すると、セシルの横にいたセイラムが真剣な顔で言った。

「怖い人たちがやって来たのね?ボタンお姉ちゃん、セイラムも行くよぉ〜〜っ!」

 突然の事で…ボタンは少し面食らった。

「えっ…!それは…セイラムも私たちと東城門まで行って…一緒に戦うということか?」

「セイラムも戦うよぉ〜〜っ!そいで、怖い人たちを追っ払うよぉ〜〜っ‼︎」

 セシルは慌てた。

「ちょ…セイラムちゃん…何を言っているの?あなたはまだ子供…ここにいて、隠れていないと…!」

 ボタンはセシルの言葉に同調した。

「そうだよ、セイラム。セイラムはここにいなさい。お前の力はまだ弱い…それに、東城門までは遠い。セイラムはセシルママとしばらく離れて暮らすことはできるのかい?」

 今のセイラムを戦地に連れていったとして…単独で「大精霊」を召喚することができるのだろうか?それができるのであれば心強いが、できなければただのお荷物だ。

 すると…

「セシルママも一緒に行くんだよぉ〜〜っ!」

「何っ⁉︎」

「…ええっ?」

 セシルは驚いた。いきなり「第三次エステリック大侵攻」の最前線で戦うなんて寝耳に水…想像もできない!

「セイラムちゃん…私は行かないわよぉ…。」

「いやっ、ママも行くのぉ〜〜っ!」

 ボタンは思った。セシルとセイラムがセットであれば、「大精霊」を召喚して10分ぐらいなら稼働させることができる…アリかもしれない。

「よし、分かった。二人とも魔道士房に行って、出発する馬車にすぐに乗ってくれ!」

 セイラムは得意顔で言った。

「馬車には乗らないよぉ〜〜っ!」

「んっ…それはどういう…?」

 セイラムがセシルの背中にピョンと飛び乗ったので…セシルは嫌な予感がした。

「あっ…セイラムちゃん、な…何を始めるのかな?」

 セイラムは神代語で風の精霊シルフィに命令を下した。

「#&$@=&#%%+*+*%#@*&$〜&@*%#+…!(シルフィ、いっぱいやって来てママとあたしを持ち上げて、ずっとずっと持ち上げてて…!)」

 無数の風の精霊シルフィが集まってきて、セシルとセイラムを包んだ。つむじ風が二人を覆い…セシルの白いローブが風をはらんではためいた。その瞬間、セシルの踵が浮き次につま先が鳳凰宮の床から離れた。セイラムはエルフにしかできない「水渡り」を神代語呪文で成功させたのである。

「うわわわわっ…?」

 セシルの困惑をよそに…セイラムは光の翼を広げそれを力強く羽ばたかせた。すると二人は鳳凰宮の廊下の空中を移動していき…そしてベランダから飛び降りた。

 いきなりセシルの視界にイェルマ渓谷の全景が飛び込んできて、セシルは絶叫しながらその景色の中に落下していった。

「うぎゃああああぁ〜〜〜〜っ‼︎」

 二人は一度、北の五段目から二段目までグライダーのように急降下し、そこから緩やかな曲線を描いて地面と水平に飛んだ。

 セシルは恐怖のあまり、体全体を強張こわばらせ…落ちないように少しでも安定しようと努力して、両腕と両脚をピンと伸ばして十字架のようになった。

 セイラムは光の翼を高速で羽ばたかせ、ハヤブサよりも速い水平速度時速約150kmで飛んだ。この速度なら東城門には約二時間半で到着する。

「むぎゅ…むぐっ…むは…はぐぐぐ…ぶはあぁ…!」

 セシルは強い風圧を顔面に受けて、目と口を開けることができず、呼吸はもとより声すら出すこともできなかった。セシルは呼吸をするために顔を下に向けると、自分が下の景色をもの凄い速さで追い抜いていくことにさらに恐怖を感じた。だが…下の世界から上のセシルを見上げて眺めている視線には気がつかなかった。

 北の一段目の練兵部管理事務所の窓から空を眺めていた魔道士が驚いて叫んだ。

「あれは何っ…鳥?、魔物?…いえ、あれはおっとりうっかりのセシルだわっ!セシルが空を飛んでるっ‼︎」


 北の五段目の神官房に魔道士が駆け込んできた。

「アナ様はいらっしゃいますかっ⁉︎」

 それに応対したのは槍手房のルカだった。ルカは神官房の厨房でお茶を啜っていた。ジャネットもいるのだが、ジャネットはというとマックスの部屋にいる。

「アナは講義中だよ。そんなに慌ててどうした?」

 ルカは妊娠中で、運動不足解消のためジャネットと一緒に毎日槍手房から神官房まで歩いて通う事を日課にしていた。20分かけて神官房にやって来ると、お茶をもらって1時間ほど無駄話をして槍手房の師範室へ帰って行く。

「…東城門が襲撃されました。アナ様に緊急出動の要請です。」

「何だとっ⁉」

 ルカは思った。

(なんて間が悪いんだ…お腹の中に子供さえいなければ、この私が敵を蹴散らしてくれるものを…!)

 ルカは早急に槍手房に帰るべく、すぐに二階にいるジャネットを大声で呼んだ。降りてきたジャネットは東城門襲撃を聞いて、さっきまでほんのりと赤かった顔色を青に変えた。

(…守るっす!マックスさんだけは私が命に換えても守るっすっ‼︎)

 講義を中断してアナもやって来た。

「東城門が攻撃を受けたんですって⁉︎…また、血生臭い戦争なんですね…人間同士で殺し合うなんて…いつまで繰り返すんでしょうかねぇ…。」


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