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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百八十四章 へんてこな刀剣商

ここから、「第三次エステリック大侵攻」編に突入していきます。

四百八十四章 へんてこな刀剣商


 コジョーの町。

 その男はロバに牽かせた小さな荷車と共にやってきた。歳のころは四十前後、茶髪に白い肌…典型的な西世界の民族で、身長は決して高くはなかったががっしりとした筋肉質の体つきだった。衣服はボロボロで、髪や髭は伸び放題…一見、物乞いを思わせるような風貌だった。しかし、その風貌に似合わず東世界を旅してきた割には日に焼けず色白で、両の手には宝石をはめ込んだ4個の綺麗な指輪をしていた。

 荷車には二本ののぼりを立てていて、「刀剣商い」「刀剣研ぎ処」という大きな文字が見て取れた。

「ああ…何とか辿り着いたな…。」

 男は南のサバンナの幾つもの民族国家の間を旅をして、数年を掛けて再びコジョーの村に戻って来たのである。

 男はコジョーの商人のゲルを訪ねた。

「水はないか?水を売ってくれ。」

「1リットル銀貨1枚。」

「むぅ〜〜…手元には銅貨11枚しかない。銅貨11枚分売ってくれ。」

「おっさん、他を当りな。」

「どうかな…俺が持っているショートソードと交換しないか?」

「あっち行け、商売の邪魔だ!」

 男は他のゲルを訪ねて回った。だが、水を売ってくれる商人はいなかった。

 男が四つ目のゲルで断られた時、荷車の幟を見て皮鎧を着た体格の良い男が近寄ってきた。

「おい、お前は剣を売っているのか?」

「ああ、売ってるよ。」

「鋼の剣はあるか?あったら見せてくれ。」

 男は荷台に積んであった複数のロングソード、ショートソード、ナイフを地面に並べていった。

 皮鎧の男はその中の一本を手に持って品定めした。

「うむ…綺麗に研がれているな。」

「幟を見ただろ?俺は研ぎ師もやってる。町の古道具屋や骨董屋、市場で売られている錆びた剣や折れた剣なんかを安く買って、使えるようにして高く売るのを生業なりわいにしてるのさ。」

「剣だけか…斧や槍、防具はないのか?」

「剣だけだ…趣味でやってるからな、わはははは。」

「そうか、よし…全部買おう。」

「ありがたい!」

 皮鎧の男は荷台の上を覗き見た。

「布に包んでいるこれは何だ、これも剣か?見せてくれないか?」

「うむ…包みのひとつは仕掛かり品で、まだ磨いたり研いだりしてない剣だ。もうひとつの包みは俺のコレクションだ。だから、売り物じゃない。」

 男は、皮鎧の男から金貨1枚と銀貨12枚をもらい、そのお金で水を買ってたらふく飲んだ。

「うぉ〜〜ぃ…生き返ったぁ…。」

 すると、皮鎧の男はもうひとりの皮鎧の男と合流して、ヒソヒソと小声で話し始めた。

「傭兵は見つかったか?」

「ああ…だが、十人ぐらいだ…。」

「他に雇えそうな奴はいないのか…?」

「…探してみる。」

 刀剣商の男は剣を売ったお金で水と食糧を買うと、すぐにコジョーの村を出た。男がイェルマ渓谷を目指して進んでいると、途中でたくさんの幕屋を見た。そこには、先ほどの皮鎧の男と同じような武装した男たち百人ぐらいがたむろしていた。

 その男たちを横目に見ながら、刀剣商の男は先を急いだ。

(さっきの男の手には剣ダコがあった…あれは同盟国の兵隊だな。こんなところで何をしてるんだろう?)

 サバンナを丸一日歩いて、刀剣商の男は夕方近くにイェルマの東城門にやって来た。

「おぉ〜〜い、通行希望だ。城門を開けてくれ〜〜ぃ。」

 城門が少し開いてイェルメイド…武闘家OGがひとり出てきた。

「ちょっと荷物を調べさせてもらうよ。」

 イェルメイドは荷台を調べた。旅の食糧と水、ヤスリや回転砥石、用途の分からない四角い石…そして布に包まれた刀剣を見つけた。包みから刀剣を出すと、錆びたり折れたりしたものや緩やかに反った変わった剣などがあった。

「あんたの商売は何だね?」

「幟にちゃんと書いてある。刀剣の売り買いと研ぎだ。」

「ふぅ〜〜ん…まさかあんた、同盟国の兵隊じゃないだろうね?」

 イェルメイドは男の長く伸びた髪や髭、年季の入ったみすぼらしい風貌を見て…それはないか、と思った。

「同盟国の兵隊か…途中でそれらしいのは見たがね、俺は違うよ。」

「えっ…何でイェルマの東側に同盟国の兵士がいるんだよ…」

「俺に尋ねられてもなぁ…。」

「そうか…通って良し。」

 男はイェルメイドに銀貨一枚を渡して東城門をくぐると、ひと息ついて言った。

「…どうせ、西の城門に辿り着く前に日が暮れてしまう。ここで野宿してもいいかな?」

 武闘家OGたちが集まってきて、リーダー格のテレーズが言った。

「構わないよ。良ければロバをこっちに連れてきなよ、飼葉と水をやろう。」

「ありがたい、ありがたい。」

 テレーズはロバを引いて東城門のそばにある馬屋に連れて行き、馬と一緒に繋いだ。

「お礼に無料で武器を研いでやるよ。持って来なよ。」

「そお?悪いねぇ。」

 テレーズが自分の柳葉刀を腰から抜いて差し出した。男は荷台から回転砥石を下ろして足でペダルを踏んで円筒形の砥石を回転させ、柳葉刀の刃を研いだ。

「おぉ〜〜…この剣は良い曲線を持ってるねぇ。東の方の剣だねぇ…。西の剣はだいたい直剣だからな。」

「おっ、分かるかい…こいつは片手剣だが、使い勝手が良いんだよ。」

「…一本、売ってくれないかなぁ…?」

「あははは、今使ってるからねぇ。余分はないんだよ。」

 男は回転砥石を止め、柳葉刀を刃の部分を上にして自分の目の高さまで持っていくと、片目で刃の研ぎ具合を確かめた。そして、荷台から棒状の目の細かいヤスリを持ち出すと刃に当てて何度か擦って仕上げをした。

「よしできた…。」

 男は仕上がった柳葉刀をテレーズに渡した。テレーズが近くの青々と葉を繁らせた細い木の枝をその柳葉刀で払うと、細い枝はスパリと切れて地面に落ちた。

「おおっ…凄い切れ味だねぇっ!」

「ふふふふ、俺はプロだからなっ!」

 それを見ていた武闘家OGたちは我も我もと、槍や補助武器のナイフを持ち込んできた。

 日が暮れて、刀剣商の男はコジョーの村で買ったパンと水だけで夕食を終えると、荷車の下にボロボロの毛布を敷いてそこで寝た。季節は夏なので問題ない。

 すると、テレーズを先頭にして数人の武闘家OGがやって来た。その中にはひとりだけ若い少女が混じっていた。

「おぉ〜〜い、寝るにはまだ早いだろう。酒があるぞ、飲むかい?」

「おっ、だだ酒なら飲む…ありがたい、ありがたいっ!」

 かがり火を近くまで持ってきて、みんなして壺の中の地酒を回し飲みした。

「あんた、いけるクチだね。」

「うむ、酒は大好物だ。だが…酒を買って飲むとあっという間に稼いだカネが無くなっちまうから、ただ酒じゃないと飲まない事にしている。これも、半年ぶりの酒だぁ…ゴクッゴクッ。」

「ちゃんと自制が効いているんだねぇ、面白いねぇ…。あんた、名前は何てんだい?」

「アルフォンスだ。」

「あんた…職種は『剣士』だろ。元はどっかの国で兵隊をやっていたのかな…?」

「兵隊はやったことはないなぁ…冒険者と勇者はやったことはあるがなぁ…。」

「え…『勇者』だってぇ〜〜っ⁉︎もしかして…十八年前の『人魔大戦』の勇者はあんただったのかい…⁉︎」

「うむ、その通りだ。」

 武闘家OGたちは大爆笑した。少女もコロコロと笑った。刀剣商の男…アルフォンスも笑っていた。

 テレーズたちのイメージでは人魔大戦での大功労者である勇者は同盟国領のどこかで、何不自由ない貴族のような生活をしているはずで…こんな落ちぶれた姿を想像することはできなかった。

「うはははは…大きく出たねぇ〜〜っ!それじゃ、あんたは世界最強の剣士なんだ…⁉︎」

「…まぁな。だが、勇者なんてチートの部類だ。神様からもらった聖剣がなけりゃ…俺は百回は死んでたな、わははははっ…!」

 みんなして再び大笑いした。

 今までの長い歴史で城塞都市イェルマは人魔大戦に一度も関与していない。なので、イェルメイドたちは人魔大戦の「仕組み」を理解していない。故に、「勇者」なんてものは噂話やお伽話の中の登場人物で…「あ、聞いたことある」程度にしか認識していない。

 神以外でその「仕組み」を完全に理解している者がいるとすれば…それは、「神の友人」であり人魔大戦についてつぶさに調べ本として記録に残している「歴史作家」でもあるアラクネのシーグアただひとりなのだ。その次に理解している者を強いて挙げるとすれば…それはヴィオレッタかもしれない。ヴィオレッタはシーグアがあらわした著作物を愛読しているので、断片的ではあるが「人魔大戦」に関する知識を誰よりも持っている…はずである。

 少女が言った。

「確か…その聖剣の名前は…神代語で『グリンダイム』、人語では『イコルブリンガー』…ですよね?意味は…『均衡をもたらす者』…かな?」

「おお…お嬢ちゃん、よく知ってるね。」

「書庫の中の資料でチラッと読みました。」

 するとテレーズは言った。

「サブリナは東城門担当の…念話ネットワークの魔道士なんだよ。だから、物知りだよ。」

「ほうほう…お嬢ちゃんは歳はいくつだい?」

「…十五歳です。」

「十五か…どうかな、俺の嫁にならないか?」

ぶっ…!

 その場にいたみんなが吹いた。テレーズが大笑いしながら言った。

「あんた、いきなり何言ってるんだいっ!」

「結婚はしたいと思ってるんだが、今までなかなかチャンスがなくてな…俺ももう四十二、ちょいと急いでいるんだ。それで…気に入った娘がいたら、とりあえず求婚しているんだ…。」

「ぶははははっ…!それじゃあ、永遠に嫁は来ないよ。サブリナ、どおよ?」

「…謹んでお断りいたします。」

「うはっ…ダメか。」

 再びみんなは大笑いした。

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