四十八章 当たった!
四十八章 当たった!
ヴィオレッタはティアーク王国の南の街道をひとり歩いていた。街道のど真ん中を歩いたらさすがに目立つので、少し外れて林の中を移動した。
1時間ほど歩いただろうか。ヴィオレッタは少し休憩しようと、木陰に腰を下ろしてかばんから最後に残ったパンを取り出した。朝は町を出ることにばたばたしていたので朝食を摂っていなかった。
その時、肩に乗っていたメグミちゃんが飛び上がって大きな蚊を捕まえた。そしてもしゃもしゃと食べてしまった。
「おお、メグミちゃん凄い。役に立ってる!蜘蛛は益虫って言うし、その調子で私にたかってくる蚊とか蝿とか全部食べてちょうだいっ!」
ヴィオレッタはパンを半分に切ろうと思って買ったばかりのナイフも取り出した。あっ!…これだったのね。ヴィオレッタが買ったのは銀製のナイフだった。
(普通のナイフなら銀貨1枚か2枚…きっとこの銀のナイフだけで銀貨40枚ぐらいだわ。どうしてあんな寂れた雑貨屋にこんな物が置いてあったんだろう。アンデッド狩りの予定なんかないのに…普通のナイフで良かったのに、とんだ無駄遣いをしてしまったわ。ステメント村に着いたら売ってしまおう。)
ヴィオレッタはパンを半分に切った。銀製のナイフは切れ味は悪くなかった。
「あらっ?このパン…中に何か入ってる。」
パンの中には茶色の餡が入っていた。食べてみると、何かの肉と野菜を細かく刻んで炒めたもののようだ。調理パンというやつか。まあ、そこそこの味だ。三口で半分を食べた。もう半分は残しておこう…。
メグミちゃんが肩の上でぴょんぴょん跳ねていた。
(何だろう?このパンの餡が欲しいのかしら?)
ちょっと指につけてあげてみた。しかし、メグミちゃんはそれを食べずに飛び跳ねるのをやめなかった。
休憩を終えて、ヴィオレッタは残した半分のパンをかばんに入れ、銀のナイフは鞘に収めて腰帯に差して再び歩き始めた。銀のナイフがわずかに黒く変色していたことには気づかなかった。
歩きながら地図を広げて現在位置を確認した。
(南門からまだ4kmぐらいか…私の足だとステメント村まで、ざっくり15時間くらいかなぁ…。上手くいけば夜の九時頃にはステメント村に着ける…街道は大きく曲がってラクスマン王国まで繋がっている…左に入る横道を見逃さないようにしなくちゃ…。)
しばらく歩いていると、突然お腹が痛み出した。下痢も併発した。
(うっ、しまった…絶対…あの調理パンだわ…丸二日経ってるから…腐ってたんだわ…。)
つい半年前まで愛玩用奴隷だったヴィオレッタは、今まで貴族の間で蝶よ花よともてはやされ可愛がられていた。読書家だったので雑学の大家ではあったが、一般的な常識となると欠けている部分があると言わざるを得なかった。
ヴィオレッタは何度も何度も草むらにしゃがみ込んだ。それでも腹痛は治まらなかった。そのうちに嘔吐感にも襲われ、何度も戻した。
(…凄くやばい…とにかく脱水は避けないと…「ウォーター」を…)
しかし、ヴィオレッタはとうとう林の中で気を失ってしまった。仰向けに倒れ込んでしまったヴィオレッタの顔の上でメグミちゃんがしきりに飛び跳ねていた。




