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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百七十九章 鍛冶工房にて

四百七十九章 鍛冶工房にて


 朝の午前八時になって、鍛冶工房の昼番と夜番の交代の時間がやって来た。

 オリヴィアは回転砥石でロングソードに刃をつけるのに夢中になっていた。オリヴィアは自分で研いだロングソードの刃をじっと見て、満足するとドミニクのところに持っていった。

「ドミニクゥ〜〜、今度の出来はどうかしら?」

 ドミニクはロングソードの刃を見て…

「ふむふむ、良いじゃないか…。お前には『研ぎ師』の才能があるかも知れない。お前はまだ副業を決めていないんだろ?『研ぎ師』になって鍛冶工房で働くといい。」

「えへへへへ…そおっ⁉︎わたしは何をやっても天才なのかなぁ〜〜?」

「…天才とは言ってない。それに、そんなに丁寧に研がなくてもいいよ。どうせ、戦があれば剣はボロボロになって帰って来るんだから…。」

 そこに朝食を済ませた昼番の鍛冶職人三人がやって来た。

 中のひとりが工房に入って来て、ロングソードを研いでいるオリヴィアを見つけて笑い出した。

「ふ…ふふっ…あははは…オ…オリヴィアがいる、どうして…うはははははっ!」

 笑い転げるイェルメイドにオリヴィアは気づいた。

「あっ、ボタンちゃんのおばちゃんっ!久しぶりぃ〜〜っ‼︎」

 それは剣士房の前房主でボタンの母親のアヤメだった。

「オリヴィア…くくく、あんた、脱獄したんでしょ?脱獄囚が…あはは、なんでこんなとこで剣を研いでるの…⁉︎」

 ドミニクたちも驚いた。

「えええ…オリヴィア、お前…懲罰房から脱獄して来たのかい…!」

 夜番のドミニクたちは知らなかったが…朝食を摂りに食堂に寄ったアヤメたちは、そこで「念話」ネットワークの魔導士の注意喚起の告知からオリヴィアの脱獄を知った。

「えとね、えとね…これは濡れ衣なのよっ!ちゃんと話せばわたしの無実が証明されると思うのよっ!なのに…ジルが問答無用で懲罰房に放り込んだのよ…。」

 アヤメは言った。

「ふははは…懲罰房を脱獄したら、普通は人の寄りつかない目立たない場所に隠れるものだけど、どうしてお前は鍛冶工房を選んだんだい?脱獄なんて誰にでも出来るような荒技ではない…それを成し遂げておいて、どうして…鍛冶工房で平然と剣を研いでいるのか…くくく、オリヴィアらしいと言えば、オリヴィアらしいけど…うふふふ、うははは…」

「んとね…そ、そう、『砂蟲の歯』…これで武器を作って欲しかったのっ!それで鍛冶工房に来たのっ‼︎」

「それって…脱獄しなきゃいけないほどの急務なのかい?」

「そ…そ…そうなのよっ!急務なのよっ、だって…ヨンコーの歯だからっ‼︎」

「ヨンコー?」

 その言葉を聞くや、アヤメの同僚の二人が突然慌て出して、アヤメに耳打ちした。ドラゴンの牙と爪、そして純度100%のミスリル、それらに匹敵する貴重な素材…。

「え…そんなものが、どうしてイェルマに…⁉︎」

 オリヴィアは自分の脱獄をうやむやにするために、ここぞとばかりに喋り立てた。

「あのね、あのね…わたし、ひと月前くらいにマーラントに行って来たのよ。そこは砂漠でね、巨大なヘビとかサソリが出るの。それをぶっ殺しながら商隊を護衛してマーラントまで行って、砂蟲の巣に行ってね…」

 みんなはオリヴィアの話を約30分ほど聞かされた。

「そうかぁ…それで、オリヴィアはその歯二枚を使って『最強の武器』を作りたいと…。」

「そうそう…目指すは『世界最強』…‼︎」

 二枚の砂蟲の歯の前に七人のイェルメイドたちが集まった。イェルメイドは「武人」である。幼い頃から剣を振り、槍を突き…誰よりも強くあれと教育されてきた。そんなイェルメイドたちにとって、「最強の武器」「世界最強」という言葉はまさに呪文のように彼女たちの魂を揺さぶり魅了するのである。

 アヤメが言った。

「二枚ともダガーのような短剣にするとか…?」

 オリヴィアは言った。

「ダガーかぁ〜〜…地味。」

 ラムジィが言った。

「棍棒の両端にくっ付けて振り回すってのは?」

 オリヴィアは言った。

「…これぞ武闘家オリヴィアの『オリヴィアスペシャルマークⅡ』って感じが欲しいのよねぇ…。」

 文句の多いオリヴィアだった。そんなもんだから、「砂蟲の歯」をどう加工したら良いのかなかなか決まらなかった。

 すると工房の外で馬のいななき声が聞こえた。

「おおぉ〜〜い、鉄、持って来たよぉ〜〜。…あれれ、オリヴィアがおる。」

「あっ、エレイン…エレインも鍛冶工房で働いてたんだ⁉︎」

 エレインは武闘家房のOGだ。

「いや、あたしはこの先の溶鉱炉で働いている。新しい鉄材ができたんで運んで来たんだよ。」

 イェルマは鍛冶工房とは別に離れた場所に大きな溶鉱炉を持っている。溶鉱炉では、イェルマの南の鉱山で採掘された鉄鉱石やコークスを溶かして鉄を作っている。出来た鉄は鋳型に流し込まれある一定の形に鋳造されると、冷やした後に鍛冶工房に持ち込まれ武器や防具に加工される。

 この時間だとすでに鍛冶工房の昼番と夜番が交代しているはずなのに、工房に七人が集まっているのでエレインは不思議に思って言った。

「みんなして何やってるんだい?」

 オリヴィアが砂蟲の歯を持ってエレインのそばに駆け寄った。

「エレイン、これよこれっ!これを使って武器を作って欲しいの…イカした奴をお願いっ!」

 エレインはみんなから話を聞いて、さらにオリヴィアの難しい注文も聞いて…ポツリと言った。

「…『かい』なんかどうだい?」

「カイ…?」

「うん…別名『トンファー』とも言う。50cmくらいのカシの棒に手で握る取っ手をつけた『ト』の字の形をした武器だよ。」

 オリヴィアも他のみんなもその武器を知らなかった。エレインは続けた。

「昔、周直ジウジィ様が使っていたのを見たことがある。近接と近距離特化の武器のようだった。周直ジウジィ様が使うとね…クルクルと回転して変幻自在で、まるで手品を見ているかのようだったよ。これは武闘家しか使わない武器だねぇ。両手に一本づつ持って、その先端に砂蟲の歯を付けたらどうだろう…?」

 オリヴィアは言った。

「実物って…武闘家房にあるかな…?」

「…周直ジウジィ様の形見だから…多分、ジルが管理してるんじゃないかなぁ…?」

「そ、そうかぁ…行ってみよ。」

「おい…お前、脱獄して来たんじゃなかったのかい⁉︎…それで、投獄した張本人と会うってか?」

「んん〜〜…何とかする。」

「…おいおい。」

 …と言う事で、とりあえずこの話は置いておいて、みんなはエレインが乗ってきた荷馬車に積んである鉄材を手分けして工房の中に運び込んだ。


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