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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百七十六章 キャシィの結婚 その2

四百七十六章 キャシィの結婚 その2


 その夜、ハインツとキャシィはキャシィズカフェ三階のハインツの部屋にいた。粉屋の二階は改築工事が終わってから移る予定だ。今晩は俗に言う…「新婚初夜」だ。

 ハインツは先にベッドに寝てキャシィを待っていた。するとキャシィはベッドの毛布を取り上げ、それを立ったまま頭から被った。

「ん…何してるの?」

「…。」

 キャシィは毛布の中で普段着を脱ぐと、椅子の上に置いていた寝巻き代わりにしている木綿のワンピースを取って着た…好きな人に肌を見せるのは凄く恥ずかしい。

「僕たちはもう夫婦なんだから…」

「嫌です!」

 キャシィはハインツの待つベッドに…三歩進んでは止まり、また三歩進んではまた止まった。今、この部屋にはハインツとキャシィの二人だけ…高なる期待と火のような恥ずかしさでキャシィに二の足、三の足を踏ませているのだ。

 やっとのこと寝台に辿り着いたキャシィは、燭台の火をフッと消すとハインツの隣に潜り込んだ。

 ハインツが右手でキャシィを抱き寄せようとすると…

「ハインツさんは触らないでくださいっ!」

 …怒られた、なぜ…?

 動くことができないハインツの隣で、キャシィが鉄の棒のように硬直して横になっていた。ハインツの左腕とキャシィの右腕がくっついているだけで…しばらく二人はそのままの状態で過ごした。

 ハインツにとっては二度目の結婚…新妻に触れない「初夜」なんて考えられなかったが、キャシィにしてみれば何もかもが「はつ」で、男性が同じベッドの上で寝ている事自体が衝撃的な体験なのだ。なので…キャシィは決してらしている訳ではなく、貴重なこの初体験を時間をかけてじっくりと味わうつもりでいたのだ。

 右腕から伝わってくるハインツの温もりを感じて、キャシィはドキドキしていた。慣れてしまってある程度心拍数が落ち着くと、さらなる興奮を求めてキャシィは半身になり、ごく自然に…あくまでも本人はごく自然なつもりで左手をハインツの胸の上に置いた。…これがハインツの胸かぁ、全然筋肉がついてないなぁ、こんなものかぁ…。

 OKのサインだと思って、ハインツも半身になってキャシィの方に体を寄せようとすると…

「ハインツさん、動かないでくださいっ!」

 うわっ…まだなのか、ひょっとしてひと晩じゅうこの調子なのか?

 ハインツにしてみればヘビの生殺し状態だったが、それでも、大切なキャシィの意に沿うように「力づく」はやめようと思っていた。

 胸に飽きて…キャシィの左手はハインツの首筋を撫で始めた。…これがハインツの首かぁ、細いな…ふふふ、胸も首もハインツの全ては私のモノ…!

 次に…ちょっと「攻めすぎ」かなとも思ったが、キャシィはハインツの左の太ももの内側辺りに左手を忍ばせてみた。微かに、ハインツがビクッとした。

 その様子が面白くて、キャシィは感極まって…笑い始めた。

「ぐふ…ぐふふふっ…うきゃきゃきゃっ…!」

「う…何、その笑い方…気持ち悪い笑い…。」

 キャシィはその問いには答えず…遂に体の奥から湧き上がる衝動に負けて、左腕と左足をハインツの体に絡ませ、自分の顔をその胸にギュッと押し付けた。

 やっとか…ハインツは優しく右腕をキャシィの背中に回し抱き寄せると、被さるように顔を近づけて、その口でキャシィの小さな唇を掬い上げた。


 朝、まだ寝ているハインツをキャシィは笑みを浮かべてじっと見つめていた。10分ほど見ていて見飽きたので、ひとり服を着てハインツの部屋を出た。昨晩のことを思い出すと、自然と口角が上がり、顔が紅潮して心拍数が上がった。

 三階の階段を降りている途中で二階の廊下でグレイスを見掛けたので、キャシィは大声で挨拶した。

「おっはよおぉ〜〜っ!」

「うぉっ…びっくりしたっ!キャシィ、あんたは朝から元気だねぇ…。ふふふん、昨晩はちゃんとお床入りできたみたいだねぇ。」

「うひゃひゃひゃ…想像にお任せしやぁ〜〜すっ!」

「あ、そうそう…オリヴィアがイェルマに帰ったでしょう…」

「えっ!そうなんだ⁉︎…気が付かなかったぁ〜〜。そういえば…昨日の晩御飯の時はいなかったねぇ…。」

 昨晩はキャシィ自身が有頂天になっていたし、その上オリヴィアはちょくちょくオーレリィの雑貨屋で無断泊をするのでほとんど気にしていなかった。

「それでさ、今度イェルマに行った時に、オリヴィアの荷物を一緒に持って行っておくれ。」

「あいよぉ〜〜。」

 二人で一階に降りていくと、すでに駆け込みカルテットが厨房で昨日の片付けと朝の仕込みで忙しくしていた。キャシィはすぐに鼻歌を歌いながらタマネギを刻み始めた。

 グレイスは言った。

「おや、ハンナは?」

 カリンが答えた。

「ああ、ハンナさんならセドリックさんと一緒に工場ですよ。」

「あっ…そうか。」

 工場ではセドリック、ハンナ、それと荷馬車の護衛をしてきた冒険者たちで紡績機器の搬入をしていた。

 セドリックはハンナに指示をしていた。

「ハンナさん、まずは糸紡ぎ車を優先して組み立ててください。その後、紡績機と機織り機を設置してください。」

「乾燥させてある蚕の繭…1万4000個でしたっけ、まず生糸を取るんですよね?だったら、糸紡ぎ車は二階に設置しましょう。お湯が沸かせる一階に近い方がいいですよね。で、機織り機は三階…かな?」

「…ですね。機織り機はしばらくは使いません。まずは…商品として売れるレベルの生糸の生産を目指しましょう!」

 セドリックもハンナも意気が揚がっていた。

 午前七時半頃になって、ハインツが気だるそうに三階から降りてきた。

 それに気づいたキャシィはすぐに出来立ての小麦のパンとハーブティーを持って、ハインツに引っ付いていった。

「はい、どうぞぉ…。」

「あ…ありがとう。」

 それを見ていたグレイスは、「ハーブティーは売り物だろ!」と咄嗟に怒鳴りそうになったが、お行儀良く隣同士に座って笑っている二人の笑顔を見ていると…「まぁ、いいか」と大目に見ることにした。

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