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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百七十五章 キャシィの結婚 その1

四百七十五章 キャシィの結婚 その1


 キャシィは古着屋で見つけた二番目に良い白いモスリンのワンピースを自分のサイズに詰めて着た。姉貴分のオリヴィアが持っているシルクのドレスを借りるという手もあったが、オリヴィアのドレスを小柄なキャシィに合わせて仕立て直すとオリヴィアは次に着ることができなくなってしまう。

 ハインツは馬車に乗ってコッペリ村にやって来た時の服をそのまま着た。白のシルクのシャツにパツンパツンの茶色のズボン、それに皮の茶色の上着をつけ首にスカーフを巻いた。これでも…コッペリ村では最上等のいでたちだ。

 キャシィズカフェから出たキャシィは外で待っていた親代わりのジルに手を取ってもらい、一緒にシルク工場まで歩いた。その様子をたくさんのコッペリ村の村人が見ていた…半分は新郎新婦を祝福するために、半分は振る舞いの酒や料理にありつくために。

 中に入って二階への階段を登ると、新郎のハインツ、司祭のアナとメイ、それと親類友人としてオリヴィアをはじめとするオリヴィア愚連隊の面々、そして実妹のジェニとグレイスがテーブルについて待っていた。

 ジルからキャシィを渡されたハインツは、仲良く手を繋いでアナの待つ工場の最奥へと真ん中の通路を歩いた。

 アナが経典を持ってしめやかに言った。

「今日、この吉日にひとつのカップルが神に成婚の許しを請うため集いました。美徳と祝福の神ベネトネリスに誓いを立てなさい…汝、ハインツよ。あなたはこの娘キャシィを終生愛し、生涯添い遂げる事を神ベネトネリスに誓いますか?」

「…誓います。」

「汝、キャシィ。あなたは誓いますか?」

「…誓います。」

「…では、中級神官アナスタシア=フリードランドはこの誓いの証人となります。ハインツとキャシィの成婚は神によって許されました…では、誓いの接吻をどうぞ…。」

 えっ…接吻⁉︎一瞬、キャシィは躊躇ためらった。オリヴィアとダフネの結婚を見て結婚式の段取りは判っているつもりだったが、ハインツの唇が近づいてくると…キャシィは少し頭を引いてしまった。怖いわけではない…むしろ、大歓迎だ。だが…それゆえに躊躇してしまう。キャシィにとってはファーストキスなのだ、それも大好きなハインツとの…。

 アナが小さな声でキャシィに言った。

「キャシィさん、これは儀式だから…ねっ⁉︎」

「う…うん…。」

 ハインツの唇をキャシィは受け入れた。唇と唇が触れた瞬間、キャシィの心臓の鼓動はピョンと天井まで跳ね上がった。招待客から拍手が起こった。

 アナが二人に神官のロッドで頭に触れて祝福を与えて結婚式は終わり、すぐに披露宴が始まった。今回は「お色直し」はなしだ。

 結婚式が終わったのを見てとって、グレイスの養い子のひとりヘンリーはすぐにキャシィズカフェに飛び込んで合図を出した。

「始めていいよぉ〜〜っ!」

 その合図で、振る舞い酒も始まった。キャシィズカフェに観客と野次馬がどっと押し寄せた。中には昼休憩のイェルメイドたちもいて、鶏のもも肉をかじっていた。

「くっそぉ〜〜っ…よりにもよって、あのチンチクリンに超絶美形のハインツを持って行かれるとはぁ〜〜っ…!」

「まぁまぁ、遠い親戚よりも近くのナントカって言うコトでしょう…。」

「それ、全然違うだろうがぁ〜〜っ!くちょっ、悔しいぃ〜〜…ここの料理、全部食ってやるぅ〜〜っ‼︎」

 キャシィとハインツは二人で招待客のテーブルを回ってワインを注いでいた。

 ハインツが実妹のジェニのコップにワインを注いでいると、ジェニは兄ハインツに抱きついた。

「兄さん、結婚おめでとうっ!…招待してくれてありがとねっ!兄さんとキャシィのおかげで私は命拾いしたわっ‼︎」

「ええっ…命拾いって…?」

 オリヴィアもオリヴィア愚連隊の一員なので友人として招待されている。オリヴィアは自分のコップにワインが注がれるとそれを一気飲みして、ワインの入ったピッチャーを持ってみんなに注いで回った。

「やあぁ〜〜っ、めでたいめでたいっ!リューズもドーラも飲め飲めっ‼︎」

「おうっ!だがな、あんまり飲むとな…この後もコッペリ村で仕事が残ってるんだよぉ〜〜。」

 オリヴィアがジルのコップにワインを注いでいると…

「オリヴィア、お前はいつになったらイェルマに帰ってくるんだい?」

「ジルゥ〜〜ッ、せっかくのお祝いの席でそんな些細なこと…いいじゃないぃ〜〜…」

「些細なことではないよ。お前はタマラと決闘をした時に誓いを立てただろう…タマラに負けたら、副師範としてイェルマにしっかりと腰を据えてその職務を果たす、とな…。」

「ううぅ〜〜ん…もうちょっと、もうちょっとよ!」

 ジルがそれ以上何も言わなかったので、オリヴィアは次にジェニにワインを注ぎ、陽気に騒いで招待客の間を行ったり来たりした。

 一時間ほどして、披露宴もお開きとなって、招待客は前回同様に三等級の高級ワインが入った白磁の小さな壺を引き出物としてもらい、会場となった工場を出た。

 オリヴィアが工場を出ると、なんと…タマラとペトラが立ちはだかった。

「お…お前ら、呼ばれてもないくせに何しに来やがった⁉︎…結婚式のお祝いの席に縁起でもないっ…!」

「もちろん、お前をイェルマに連れ戻すためだ。」

「へんっ…出来るもんならやってみろぃっ!」

「お前をぶっ倒してでも連れ戻せ…という命令だ。」

「命令…?誰のだよっ⁉︎」

「…私のだよ。」

 オリヴィアの背後にジルが立っていて…ジルはオリヴィアの肩に手を添えた。オリヴィアはギクっとしてその場から飛び退こうとしたが…次の瞬間、ジルの「大震脚」を至近距離でもろに食らった。

ズドオォォォン…!

「はうぐわぁへあぁ〜〜…」

 ジルの手で押さえ付けられていたオリヴィアは飛び上がることもできず、そのまま脳震盪で意識が飛んで白目を剥いたままその場に突っ立っていた。すぐにタマラとペトラが二人がかりでオリヴィアを担いで用意していた馬車の荷台に乗せ、ジルが乗ったのを確認するとそのままイェルマへと出発した。

 それを見ていた他の招待客たちは呆気に取られていた。

 アナがグレイスに言った。

「あ、グレイスさんグレイスさん、オリヴィアさん…連れて行かれちゃいましたよっ⁉︎」

「あらまぁ〜〜…今回は長い滞在だったからねぇ…」

「ええっ…良いんですか?」

「いいのいいの。どうせまた、すぐに来るでしょう。うちはこれからシルク工場の稼働で忙しくなるから丁度良かったかも。オリヴィアがいると、セドリックが仕事に集中できないからねぇ…。」

「ええええっ…!」


 次にオリヴィアが目を覚ました時、オリヴィアは真っ暗な闇の中にいた。

「むっ、ここはどこだ?」

 オリヴィアは手探りで辺りを徘徊した。やたらと狭い部屋…触り覚えのある寝台、臭い匂いを放つ小さな椅子…そうだ、ここは…懲罰房だ。

「ええええぇ〜〜っ…ドユコトォォ〜〜ッ⁉︎」

 オリヴィアの頭を冷やすために、ジルがオリヴィアを懲罰房に放り込んだのだった。

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